510話 赤く燃える青の目
「海、およぎゃ、泳がない方がいいですよ」
「えぇ〜!?なんでなんで〜!?」
ルシフェルの先導である部屋に入るなり、なにか良くない会話が聞こえてくる。
レイがセリアの腰に抱きついてせがんでいて、セリアが笑ってはいる物の困った表情を浮かべている。
年下の女の子を困らせて何をやってるんだか。
「レイ、抱きつくならアリスにして?」
「うぅ〜、アリスちゃ〜ん!」
「えぇ!?もう、しょうがないですね」
「うぇへぇ〜」
セリアと比べたら、アリスはかなり慣れた感じでレイを受け止め、さらにニコニコしながらケモ耳を巻き込んで頭を撫でている。
完全に手慣れている、もうプロの領域。
思わずマリンも笑っちゃってる。
カミラはアリス達の近くの席に座り、ルシフェルはグレートセブンと象牙派、加えてヴァリアントの集まりに向かっていく。
セリアはこっちでいいのかな?
まぁいっか。
レイはアリスに任せて、セリアに話しかける。
「セリア、元気そう」
「ひゃい!元気ですよ、とても元気です!」
「そっかそっか」
セリアも余裕があるというか、縮こまってた印象のセリアも、今では身振り手振りを交えて応えてくれる。
表情も豊か、いや、それは今までフードを被ってたからそういう印象なのかも?
何にせよ、セリアは健康な女の子と言って差し支えないね。
セリアの近くに座る。
「それでチラッと聞こえたけど、海を泳げないって?」
「泳げない訳ではないのですけれど…… 」
セリアは言いづらそうにする。
「昨日、爆発があったから?」
「そうです!あの爆発の術者、何みゃ、何魔法か!それが分からない以上は、近づかない方がよいかと」
言われてみれば、そうかも?
もしかしたら持続する系の魔法かもしれないし。
不死魔法かけられてたハイドラがあの爆発だけで消滅してるって事は、私と同じような変質系の魔法なのは間違いない。
ザ・カラーの色の断片みたいに、変質の断片が海に付着でもしてて、それに触れたら何かしらの変質を起こすってなったら、それはもう最悪も最悪。
治すの大変なんだから。
ただ海に入らないっていうのは、本当に残念でならない。
水着が、見たかったぁ……
「カミラってあの爆発に巻き込まれたんだよね?ハイドラが消滅してカミラが消滅してないのはどうして?」
「どういった意図だお主、妾に絶えて欲しかったか?」
「いやいや、ごめんね?」
とんでもない誤解を。
ただカミラの表情に真剣さはない、頬杖をつきながら冗談のつもりで言ってる。
「先に言った通り、妾の不死性が残った理屈は分からない」
「うーん、カミラが分からないってなると、あの爆発が何だったのか本当に分からない……」
「ただ術者は見た。魔力を読むにお主に近しい存在なのは間違いない」
「えっ、そうなの?」
見てたんだ。
そして私に近しい存在っていうのは。
「ブラックビーストだったの?」
「否。ブラックビーストの信者の類であろう」
ブラックビーストの信者……
ベヒーモス?
ベヒーモス来てるの?
北極のアンクインから?
あれ、もしかして時計塔で接敵したの、ベヒーモスじゃない?
炎と氷の魔術使ってたよね?
ベヒーモスって獄炎と獄氷みたいな、そういうの使ってた。
「ブラックビースト、ですか」
セリアが呟く。
「セリアはブラックビースト見たことないよね?」
「はい、見たことないです……」
セリアはさっきまでよりも、何か考えている様子。
「あ、あの、い、いいですか?」
「ひゃい!何でしょう?」
珍しい、マリンから話しかけてる。
「セ、セリアさんは、これから、ブラックビーストと戦うんですよね?」
「そうなりますね。少し怖いですが」
それでもセリアの表情に恐怖はない。
自分から教祖になることを選び、ここまでの未来を見ていた覚悟を持った人の目だ。
「え、えっと、グレートセブンや恩寵派、教祖や象牙派、も、手を組んで、ブラックビーストと戦う事に……?」
「はい、よろしくお願いします」
「セ、セリアさんは、ま、まだ、戦わない方が……」
マリンが心配そうに言う。
「心配はいりゃ、いら、いりません。ハイータさんやザ・カラーさんのように、力はまだ使えませんが。直ぐに戦えるように!」
「す、すみま、せん、よ、余計なお世話、なのですが……」
どうしたんだろう?
マリンが真剣で。
「し、信じられないかも、し、しれませんが、わ、私、未来が見えて…… そ、その、セリアさんが……」
マリンの目が輝いている。
いつもの青く自信のなさそうな目が、真っ赤な燃えるような赤に。
あの目はブラックビースト……?
角度的にカミラもマリンの目が見えてる。
セリアは正面から見られて、その目のせいで呆気に取られている。
「し、死ぬ未来が、み、見えていて……」
「死ぬ、ですか?」
マリンが突然出来るようになった未来視、あれはその場の未来が見えると言う物。
何が原因かはイマイチ掴めてなかったけど、ブラックビーストの仕業なのは理解出来た。
「ルシフェル、こっちに来い」
「ありゃっ、またまた僕に御用で?」
カミラがマリンの方を見続けたまま、ルシフェルを呼び寄せる。
何か、空気感が変わったような、そんな雰囲気を察知してアリスやレイが視線を向けてくる。




