507話 魚人の教祖 セリア
圧巻の一言。
セリアに促されて群衆に見えるように前に出る。
それだけで下から声が上がる。
まるで私が英雄とでも讃えるかのように。
「教祖になると、こんな場所に立つんだね」
「あはは、実は私もびっくりしてます」
セリアは笑ってるけど、困り眉になってる。
「わぁ〜〜!いっぱいいる〜!」
レイは何も臆することなく、柵から体を出して大袈裟に手を振っている。
それだけで聖堂内が沸く。
ライブかな?
それとレイの順応性が高すぎ。
「あわわわ、あわわわわわ」
アリスの足が分かりやすく竦んでいる。
10歳の普通の女の子の真っ当な反応、レイがおかしいだけ。
「無理に出なくていいよ」
アリスを後ろに来るように誘導したら、アリスが私のマントを掴んで背中に身を寄せてくる。
柔らかい。
「アリスてゃ、さん。マリンさんも。ジュナを助けて頂き、本当にありがとうございました!」
セリアが頭を下げる。
対して2人を見てみても、よく分かってないような顔をしている。
「誰ですかね?」
「そ、その、昨夜は色々な人に、手を貸していた、ので……」
「あぁ、そうにゃ、そうなのですね!間違えちゃったのかと、あはは」
セリアはよく笑うようになった気がする。
そのままセリアが話し続ける。
「まずは教祖として。ジュナに限らず、色々な人をたすひぇ、助けて頂き、ありがとうございます」
教祖としての自意識がありすぎ。
人って1日でこうも変わるの?
確かにセリアは覚悟して関わってきたとはいえ、とはいえじゃない?
私だったらこんな場所に立って、教祖でーすなんて出来ないよ。
「魚人族の男の子で、空間の狭間でしたか?」
「あぁ」
セリアの質問にヴェスパーが答える。
空間の狭間?
「あれですね、石碑に魔法陣があったかと思うのですが」
「あ、あぁ……」
「あの子ですかね?」
2人に心当たりがあるみたい。
というか石碑があった場所って何、空間の狭間って場所だったの?
どういう場所なのかな?
「あの子を助けていでゃ、頂かなければ、星辰魔術も使えず……」
「そうだったんですね」
「……?あれ、どうして?」
レイが石碑を見たから、星辰魔術が解放されたんじゃ?
「ヴェスパーさんが魚人族の術者には使えないよう、魔法陣を書き換えたみたいで」
「へぇー、そうだったんだ」
「俺はやっただけ、苦情はルシフェルにな」
私が陣式の冠士ヴェスパーを見ると、すぐにルシフェルを親指で指す。
「それは本当に僕が悪い。ミオ君に術者を任せようとしたばかりに。おじさんがでしゃばるのはよくないねぇー」
「あれ、おかしくない?ルシフェルもあの魔法陣は間違ってるって」
「あれはセリア君に敵対されないために嘘をついた、悪いねーセリア君」
なるほど、単純な理由だったね。
「最後には上手く行きゃ、行きましたから、お気になさらず」
セリアも寛大だね。
それはセリアの性格のおかげか、力あるものの余裕か。
「そうだ。結局セリアは教祖になったんだよね?何かそういう力は得たの?」
「それは僕から」
黄衣のハイータが話に入ってくる。
「セリア君は教祖としての力を十二分に享受した。そもそもの魔力が力を受ける者として最適だったのもあるね!」
ハイータは少し興奮気味。
同じ教祖として、何か感化されるというか、そういうのがあるのかな?
よく分かんないけど。
「支配者の魔力。邪神の共鳴するにはほんっとうに!素晴らしい!」
「くどいぞ」
「おや、原初様は厳しいね」
ハイータ、ちょっと不機嫌。
「えっと、そうだそうだ。それでセリア君の力の継承は成功してるよ。ただ開花がまだだね」
「開花…… えっと、まだ力が咲いてないんですか?」
「そういうこと」
アリスの純粋ゆえの表現だね。
開花って花が咲くって意味より、力や才能に目覚めるときに使われがちだから。
「開花まではっ、ハイータ君とザ・カラー君に任せることになったよ。いやー、知り合いに教祖の先輩が2人いるってそうそうないぞー?」
「ひゃい!よろしく、お願いします!」
教祖の力って何だろう?
神と交信するとか、触手を使うとか?
それしか思いつかない。
「はいっ、お任せください!」
ザ・カラーが胸を張る。
つい最近まで色の断片に侵されてたのに、大丈夫かな?
「僕の神とセリア君の神は同盟関係。100%の力が発揮出来るよう、スパルタでいかせてもらうよ?」
「おっ、お願いします」
セリアがちょっと怖気付いたような反応を見せる。
同盟関係なんだ。
邪神界隈も色々あるね。
「し、質問、い、いいですか?」
「ほぅ、どうぞマリン君」
ルシフェルが応じる。
「セ、セリアさんは、恩寵派なのでしょうか、そ、それとも……」
「それに関してはだねぇ、お兄さんにも答えづらい所だねぇ。ダブルスタンダードと言おうか」
あんまりいい表現ではないよね、ダブルスタンダード。
「僕的にはぜひ象牙派に来て欲しいけど……」
ハイータがセリアの顔を覗く。
「ご、ごめんなひゃい……」
「それを言うと、僕ももう恩寵派みたいなものですからね!」
ザ・カラーがセリアの肩身が狭くならないようにか、ハイータの肩を叩いて注意を引く。
ザ・カラーは物質主義、報酬次第でどっちにでも傾くでしょ。
「ダブルスタンダードって何ですか?」
「2つの反する立場を持ち合わせてる、と言ってもアリス君には難しいかなー?」
「ちょっと、言葉だけだとわからないかもしれないです」
「そうだなー、セリア君はノーデンの加護を受ける立場にはないね?それは邪神の加護を受けているから。それでもノーデンの加護を受け、この星のために動こうとしているね?」
「そうなんですか?」
「あっていますよ」
セリアがアリスに不安にさせないようにか、笑顔を向ける。
「それって恩寵派とも言えるし、象牙派とも言えるだろう?それをダブルスタンダードって言うのさ」
「なるほどー」
アリスも分かったみたい。
「これってなんで集まってるの〜?」
今まで会話に参加してなかったレイが群衆に手を振ったまま聞いてくる。
「あっ!放ったらかしににゃ、なってました。皆さーん!」
セリアが群衆に声をかけると、聖堂内で拡声され反響する。
そしてその声に、群衆達が呼応する。




