48話 御転婆なお姫様
南門に到着すると、私は個人カードを見せて通ろうとするが門番に止められる。
「おい、ミオ。その嬢ちゃんは知り合いだよな?ミオの大陸の貴族か?王族か?」
門番は私が初めてあった門番と同じ人だ。
身分制度とかあるんだね。
「友達だよ。貴族でも王族でもないから大丈夫だよ」
「ならあの格好は何だ?何であんな格好をしてる?」
「あの子の趣味だよ」
「本当か?」
「本当だよ。ただの冒険者だから」
「ただの冒険者があんな格好をするのか?」
「するよ」
「…そうか、分かった」
門番は不安そうにレイに声をかける。
「お嬢ちゃんは個人カードは持ってるか?」
「持ってないよ〜。そもそも個人カードって?」
「個人カードは自分の身分を説明するカードなんだが、ないなら悪いが通行料として銅貨3枚になる」
「そういえばレイってお金持ってるの?」
「持ってるよ。ゲーム内のお金を全て持ってこれるって書いてあったよ」
私が聞くとレイが耳打ちしてくれる。
お金の出所ってそこだったんだ。
レイが門番に銅貨3枚を渡す。
「ありがとうな。そんでもう1個あるんだが、魔力を測らせてくれ」
「魔力を測るの?どうして?」
これは長くなりそう。
ひとまずは私はユスティアの中で待つことにした。
街に入ると肩にいたゴーレムにゃんこが降りてどこかに行ってしまう。
変な悪さとかしないよね、大丈夫だよね?
しばらくするとレイがやってくる。
「どうして先行っちゃうの〜?」
レイがちょっと怒ってくる。
「長くなるかなって思って」
「ちょっとぐらい待ってくれてもいいじゃ〜ん。あれ、ネコちゃんは?」
「どっか行ったよ」
「追いかけなくていいの?」
「多分大丈夫だよ」
「そうなんだぁ…」
レイが少し残念そうにする。
言っても土だよ、そんなに名残惜しいかな?
私達はひとまず広場に向かう。
「すご〜い!異世界に来たみたい!」
「異世界に来たんだよ」
レイのテンションが上がる。
「観光に来たみたいだね!」
「その気持ちは分かるよ」
「写真撮りたいな〜」
「これから何度も見るから大丈夫だよ」
「そっか、確かに」
レイが少し冷静になる。
そうだよ、ここに住むんだよ。
広場に出ると本当によく見られる。
もしかしたら初めてここに来た時よりも見られてるかもしれない。
私達が観光名所だよ。
「見られてるね〜。私達、大人気だね〜」
「本当に大人気だよ」
本当にずっと見られてるよ。
世にも珍しい獣人族の冒険者が数日前に来たかと思えば、今日は獣人族のお姫様も来てるんだからね。
急いだ方がいい気がする。
レイ、何で手を振ってるの?
手を振った先に女の子がいる。
女の子も手を振っている。
見てよ、女の子のお母さんがものすごく頭を下げてるよ。
「レイ、手を振らないで」
「どうして〜?あの子が振ってきたから振り返しただけだよ?」
「いや、子供に手を振り返すのは別に良いことだよ?でもさ、今の格好見て?レイは王族か貴族に間違えられるんだよ?自分の子供が不敬を働かないか親は心配になるんだよ?」
「私はいい王族だから大丈夫だよ〜」
レイが笑いながらいろんな子に手を振っている。
大丈夫じゃないし、何より王族ではなくない?
「もう手は振ってていいからちょっと急ぐよ」
足早に冒険者ギルドに向かおうとするけどレイがついてこない。
「どうしたの?早く行くよ」
「ねぇミオちゃん、お腹空かない?」
朝ご飯を食べてないから空いてるけど。
「今?今じゃなきゃダメ?」
「今食べたいな〜」
「分かった。食べ物買ってくるからちょっと待ってて」
「私も行くよ」
「いや、来なくていいよ」
列に並んで譲られでもしたらまずい。
「え?どうして?私のこと嫌いなの?」
レイは少し涙目になる。
泣かないで泣かないで、女の子に泣かれるのは困る。
「ごめんね。やっぱり来ていいよ」
私はレイの頭を撫でて慰める。
「えへへ〜、ミオちゃんは優しいな〜」
レイは涙を拭きニッコリ笑うと、私の手を握ってくる。
もしかして嵌められた?
「嘘泣きした?」
「えへへ〜」
レイは否定しない。
私が女の子の涙に弱いのを分かってやってたね。
レイの頭をわしゃわしゃする。
「あぁごめんなさい!ごめんなさい!」
レイが笑いながら謝ってくる。
全く、かわいいから憎めない。
「それで、何が食べたいの?」
私はわしゃわしゃを止める。
「そうだね〜、あのサンドイッチ食べたいな」
レイの指差す先はサンドイッチの屋台だけど、指差された先の列に並んでるお客さんと店員がざわめき始めたよ。
「あんまり変なこと言ったらダメだよ?」
「大丈夫、変なことは言わないよ〜」
レイが笑いながら私の手をにぎにぎしてくる。
本当に大丈夫かな…
ひとまず列に並び始める。
前に親子が並んでおり、小さな男の子が私達を何度も見てくる。
「どうしたの〜?」
レイが男の子に話しかける。
「レイ!」
「何?変なことは言ってないよ」
そうだけど。
「あの、お姉さん達って獣人族なんですか?」
「そうだよ。何か気になる〜?」
「あの、お耳触らせて貰えませんか?」
「コラ!」
お母さんが男の子を叱る。
「お母さん、いいんだよ。ほら、ど〜ぞ」
レイがスカートを押さえながら屈むと、男の子が触りやすいように頭を出す。
「本当にいいんですか?」
「大丈夫だよ」
お母さんの心配は気にせず、男の子がレイのケモ耳を触る。
「本物だ… ふわふわしてる」
「ありがと〜」
男の子が満足したようでケモ耳から手を離すと、レイが顔を上げる。
レイは笑いながら男の子を撫でると、立ち上がる。
「すみません本当に、ありがとうございます」
「どういたしまして〜」
頭を下げたお母さんにレイは答えると、レイも少し会釈する。
私は安心する。
レイが変なことしなくて良かった。
順番が回ってくるとお金を渡してサンドイッチを受け取る。
受付が心配そうに口を開く。
「お口に合えば…」
レイはひと口食べる。
「うん、おいしいよ〜。ありがとう」
「いえ、喜んで頂けて光栄です」
私はレイの手を引っ張ってその場を離れるとベンチに座る。
「ヒヤヒヤした…」
「私、そんなに変なことしてないよね?」
「してないけど、お姫様になったつもりで接してるよね?」
「そっちの方が楽しいも〜ん」
レイがサンドイッチを頬張る。
最近来たかわいい獣人族の冒険者と一緒に、かわいい獣人族のお姫様がいたよ!
この噂は瞬く間に広がっていた。




