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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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504話 心の傷


 ルルイエの中央に(そび)え立つ黒く円形の要塞。

 侵入者を拒むためか小窓がいくつもあり、そこから何者かが覗いてきてるような雰囲気が漂っている。

 街の家々は奇々怪々で非ユークリッドの形だったのに対して、これだけは計算された形を成していて安定感と威圧感を感じる。


 部外者、侵入者が立ち入ると2度と出て来れないような、そんな厳重さというか、むしろ神聖な場所なのではと思い立ってくる。

 いやいや、神聖なのはあってるんだけどね、聖堂だから。

 ただ不思議な黒い素材の人工物、これを創造したのは神だと説明を受ければ、この世界ならそうなのかもしれないと頷けてしまう、そういう超自然的な印象を受ける。


 私達は目的がないが為に要塞の入り口らしき場所まで、足を伸ばしたのだった。


「獣人族の御一行様、遠路はるばるお越し頂き、ありがとうございます」


 入り口はまたまた黒い金属で作られた重そうな格子によって閉ざされていた。

 その横にある関所には魚人族が配備されていた。

 私達が来るなり、まるで私達が来客として招待されていたみたいな、そういった対応を取ってくる。


 おかしい、だって招待されてないからね。

 獣人族の御一行って言うけど、私とレイならまだしも、他の3人の顔が相手側に割れてる感じなのが、何とも嫌な予感を刺激してくる。


 関所の男は何も確認を取ることなく、私達を見るだけで何かしらの魔法陣に魔力を流して、それに連動して入り口の重い格子がゆっくりと持ち上がっていく。


「おじゃましま〜!」

「し、失礼、します……」


 レイとマリンは何も疑うことなく聖堂に入ろうとしていく。

 聖堂の入り口の向こう側は庭のようになっていて、黒石の塔のような要塞が橋渡しで繋がる形でいくつも連なっている。

 そして中央にローマのコロッセウムのような、本部と思わせる円形要塞が建っている。


 要塞の中に要塞、聖堂と言われて頷ける物じゃなかった。

 黒色のせいかどうしても禍々しさを拭いきれていない。


「さっきからぼーっとしてますけど、大丈夫ですか?」


 アリスが手を取って、心配そうに聞いてくる。


 どうしよう、アリスに心配をかけたい訳じゃない。

 それなのに、


「ここはまずい」

「入ったらいけない」

「何があるか分からない」


 そんな言葉ばかりが、頭の中で反響して渦巻きあっている。


「魔力切れがまだ治ってないとかですか?熱はありませんよね?うーん……」


 アリスが私の額に手を伸ばしてくる。


 いや、魔力切れも治ってるし、熱もない。

 ただただ、怖い。


「精神汚染と言ったであろうミオ?少しは気を強く持て、歴戦の獣人族が聞いて呆れるぞ」

「そんな名乗り口上、したことないよ」

「熱はなさそうですし、やっぱり精神汚染がダメなんですかね?あんまり精神汚染は分からないので、何も出来ませんが…… でも手を繋ぐくらいはできますよ」


 アリスがニッコリ笑って、私の手に優しく力を入れてくる。

 かわいい。


 ……


「うん、ありがとう。大分楽になったかも」


 ウソ、そんな訳はない。

 ちゃんと笑いかけてあげれてるか分からない。


「それじゃあ行きましょう、置いてかれちゃいますよ」

「うん」


 アリスの言う通り、早くいかないと。

 それでアリスに手を引いてもらってるのに、足が1歩と動かない。

 アリスが不思議そうに見てくる。


「お主……」


 カミラが(あわ)れむような目で見てくる。


「はっ、ははっ、どうしたのカミラ?顔に何かついてる?」


 足が震える。

 潮風が涼しいくらいなのに、汗が出る。

 目も上手く焦点を合わせられず、視界が揺れる。


「お主、心に傷を負ったな」

「……えっ、何?何のこと?」

「ヴェスパーが敷いたであろう精神保護の魔法式があれど、限度がある。魔法式の上であろうと大いなる存在による精神汚染は、最悪の場合だが心に傷を負わせる力はある。話を聞く限り、お主は肉体、精神、魔力共に疲弊していた。そのせいで堪えたようだ」


 言ってることは分かるよ。

 ただ何、心に傷?

 いやいや、え?


「お主、怪物が顕現し後、記憶は定かか?」


 言われてみれば……

 首を横に振る。


「お主の肉体は回復が早く、魔力も同様だ。ところが、精神までは頑丈ではない。しばらくは療養しろ。マリン!」


 カミラが先に行こうとするマリンを呼び戻す。


「は、はい、どうかしましたか……?」

「ミオちゃん震えてるよ〜?だいじょうぶ〜?」


 返事をしようとして上手く言葉に出来なくて、唾を飲み込む。


「錬金魔法使いなら精神安定剤はあるな?」

「え、あっ、ありますが、ミ、ミオさんが…?」

「当面はな。本心は直ぐにでも宿に突き戻したい所だが、これからの事はミオも知る必要がある。安全は保証するが故」

「で、でしたら、6時間ほど効力があればよいですか?」

「うむ、それで良い」


 信じられない。

 心の傷って、トラウマってこと?

 私が?


 私の気なんか知らずにマリンとカミラは話して、マリンに薬を渡される。

 アリスとレイが心配そうに私のことを見ている。


「ふ、副作用で、無気力感が出るかも、しれませんが……」

「ねぇねぇ〜!ミオちゃんどうしたの〜?どこかわるいの〜?」

「心の問題だ。お主は宿に戻ったら共に遊んでやると良い」

「えっと〜、うん!」

「は、はい、これが水です」


 マリンに言われるがままに、薬を体に流し込む。


「10分程、陰に休ませておけ」

「分かりました。ミオお姉ちゃん、こっちに行きますよ」


 アリスが要塞から離れるように建物の陰に誘導してくれる。

 それにレイがとてとてと横を歩き、手を繋いでくる。


 2人が地面にタオルを敷いて座らせてくる。


「よしよ〜し」

「失礼しますね。髪で遊んでいいですから」


 レイが後ろから私の頭を抱き抱えて撫で回す。

 アリスも私の膝の上に座ってくる。


 いつもの、暇な時の、何もない時の、過ごし方……

 いくらか心のつっかえがなくなったような気がする。

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