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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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501話 星辰の時の翌日の朝


 全員が起きて、朝食を食べに宿の食堂兼ロビーに下りていったら、とてもガヤガヤとしていた。

 今日が特段とここで朝食を取ってる人数が多い、とかではなさそう。

 ただ従業員もいつもよりから忙しなく働いている。


 私、アリス、レイ、マリンはここ最近で座りなれたいつもの席に座って、メニューを見始める。

 ただ私はメニューに集中を出来ない。


 レイはいつもの調子だけど、どこか空元気に見える。

 アリスとマリンはカミラが気がかりなのか、そこまで元気がなさそう。

 それを裏付けるように、カミラがいないか食堂の中をよく確認している。


 とりあえずカミラについては、帰ってくると信じるしかない。

 今は私達が何かを思ってカミラが急いで帰ってくるものでもない。

 それを口にするつもりはないけど、私はそこまでカミラがいるかいないかを気に止めようとは思ってない。


 元々、カミラは旅でフラフラ渡り歩いている吸血鬼。

 私達の家に少しの間、拠点を移したという事が奇跡なんだって、そう思っている。

 そう思わないと、いつまでもカミラのことは引きずってしまうから。


「今日は賑やかですね」


 アリスがメニューに視線を1度も落とさずに、静かな口調で呟く。


「き、昨日の今日、ですからね…… ば、爆発とか、ありましたし……」


 マリンの言う通り、昨日は時計塔の爆発と海の爆発の大爆発が起きた。

 外に出れば時計塔から木が生えてるのが目に入るだろうから、まずそれだけでも騒がしくなってそう。


 そう思いながら他の人の会話に耳を傾ける。

 いわゆる盗み聞き。


「外見た?時計塔が―――」

「ドアが開かなかった―――」

「昨日の爆発は何だ―――」

「魚人族が1人もいなく―――」

「本当なの、海に新しく島が―――」

「冒険者ギルドが酷く壊れていて、商人が多くいた―――」

「商業ではギルマスが消えた―――」

「唸り声が―――」


 会話しか娯楽がないからか、それともインパクトがある事件だったからこんなに話されてるのか、本当に昨日で起きた事件で全てが持ち切りになっている。

 やっぱり、昨日のことは夢じゃなかった。

 ただ会話を聞いてる限りでは、誰1人として目撃者はいない。


 私達は頼む物を決めて、店員を呼ぶ。

 しばらくすれば店員がやってくるけど、それはセリアではない。

 見たことはある、フロア担当ではないはず人間族の女性。


 フロアはセリアがメインで働いていたから、いなくなったセリアの枠の埋め合わせで働いてるのかな。


 早めに食事を済ませ、4人で様子を見に外に出る。

 外は天気雨が降っていた。

 海の方に濃い雲がある、そこから風で流されて来てるんだと思う。


「あれ、ミオお姉ちゃんが生やした木ですよね?」


 アリスが時計塔を見ながら聞いてくる。

 昨日、気になってルシフェルにでも聞いたのかもしれない。


「1回目の爆発あったでしょ?あれで倒れそうになったから、応急処置でね」


 まるで自然に侵食された廃墟みたいになっている。

 観光名所になるかもね。


「2回目の爆発はなんだったの〜?」

「怪異討伐に出てたカミラとザ・カラーが巻き込まれたってことしか、知らないんだ」

「そ、そう、ですか……」


 あんまり話せる内容じゃない。

 結局ザ・カラーも逃げたっきりもう見てないから、本当にカミラの行き先が分からない。


 ついでにあの海にいたはずのイクスと、すれ違ったはずのヴァリアント、あの2人もどうなったか分かっていない。


「とりあえず、どうしよっか。どこか行きたいところある?」

「う〜ん……」

「ア、アリスさんは、どこかありますか…?」

「いえ、とくにないですね…」


 やっぱりパーティメンバーが1人欠けるだけでも、皆のテンションは下がる。

 プライド高くてよく馬鹿にしてくるちっちゃな吸血鬼でも、パーティメンバーはパーティメンバー。

 他人のことは想えるし、なんだかんだで手を貸してくれるから憎めない。


 しばらく行き先もなく街の中を歩く。

 街はやっぱり騒々しさを有していた。

 それと魚人族が1人も見当たらないのも、いつもとの変化って言える。


 昨日の昼でもちらほらといたのに。


 広場に行ってみれば、昨日よりも店が空いていない。

 それなのに人は集まっている。

 どこも昨日の夜や、今日の朝に見つかった変化の話で持ち切り。


 道行く人々の騒がしさと比べたら、子供達のパーティなのにとても静かで、ケモ耳以上に浮いてるかもしれない。

 私にとってはすごく嫌な空気だった。


「全く、お主ら鬱蒼とした顔をしおってからに。背が低い癖して見つけやすいのは助かったがな」


 その言葉が聞こえてくるまでは。


「っ!!! カミラちゃ〜ん!!!」


 その声が聞こえた瞬間に、レイが迷いなくその少女に抱きつく。


「鬱陶しいぞレイ、短いながら席を外しただけではないか。妾では珍しいことではなかろう?」


 その少女は、レイに絡まれて珍しく笑っている。

 抱きついて来たレイを抱きしめ受け止め、背中を撫でている。

 今まであり得なかった光景に、胸が熱くなるものがあった。


 こういう時だけ、こういう時にしかみれない光景だね。


「カミラお姉ちゃん!生きてて、うっ、よかったですっ…!」

「全く、何を泣く必要があるのだアリス、妾は元から死んでいるのだぞ?」


 レイが抱きつくのをやめた後すぐにアリスに近寄り、自分より大きなアリスの頭を手を伸ばして撫でる。

 カミラは面白そうに笑っている。


「ほ、本当に、カミラさん…?」

「マリン、まさか疑うとでも言うのか?この妾がカミラでなくて誰がカミラだ?原初の吸血鬼カミラとは妾のこと、違うか?」


 自信満々にその小さく薄い胸を張る。

 するとマリンは微かに笑った。


「い、いえ、カ、カミラさん、おかえなさい」

「うむ、今戻った」


 カミラは満足そうに応える。


「戻って来てくれるんだね」


 私はてっきり、もう戻って来ないのかと思ってた。

 そう思わないと辛いからね。


「当たり前であろう?お主のパーティに入った以上は、加えブラックビーストを倒すまでは、妾はこのパーティのメンバーだ。戻るのが遅くなって悪かったな、妾とて年頃の乙女を悲しませるのは癪で急いでいたのだがな」


 その言葉に、カミラが私達を思っているのが伝わってくる。


「おかえり〜!」

「レイ!2度目は喧しいぞ!」


 アリスを撫でている所、後ろからの抱きつきに今度は少しの抵抗を見せる。

 いつもの光景が戻ってきた。


 心の中で、霧が晴れた感覚を覚える。

 カミラが戻ってきて、本当によかった。

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