496話 爆発の負傷者
今週も週末はお休みさせて頂きます!
よい週末を!
それがルシフェルによって行使された魔法であり、10秒間だけ異空間にルールエ全体を封印して、あの大爆発を避ける物なのかもしれない。
ただ16歳のしがない獣人族にはその能力や規模感を見定める鑑識眼はないので、ただ私が今感じている、この紫の闇に揺蕩うような感覚は、多分だけど10秒ぐらいに何事もなかったかのように消えていく。
目の前には崖と魔法陣と海と、キョロキョロと辺りを見回すセリアとただ立ち尽くしたルシフェルがいる。
そして爆発が起きた10秒後の海は酷く波打ち、渦が出来始め、巨大な津波が街へ押し寄せようとしている。
日本人にとってこの光景は、すごく堪えるものがあるね。
ただヴェスパーが津波対策の魔法陣か魔法式を用意してあり、波は防波堤で止められるというより、波の流れが強制的に海に戻されている。
ルールエに到達するまでには普通の潮の満ち引きまでに抑え込まれている。
「え?待って?」
生き物のように渦巻く海を見ながら、疑問が湧いてくる。
爆発が起きたのは海。
海にいたのはカミラ、ザ・カラー、それと海ですれ違ったヴァリアント、そしてもう1人の怪異。
爆発を起こすような人はいないはず、もしかしたらヴァリアントが使えるのかもしれないけど……
というかあのレベルの爆発、時計塔の爆発の何倍も大きな爆発が起きて、カミラ達は無事なのか心配になってくる。
いや、カミラやザ・カラーに限って、まさかあれで死ぬとは……
カミラは不死身だし、ザ・カラーは光のスピードで私とレイから逃げたし……
ヴァリアントだけは、どうしても実力が分からないから何も言えないけど。
「カミラとザ・カラーは……?」
目を凝らす。
あの渦の中心にでも2人の姿が見えたら……
ダメだ、見つからない……
いやまさか、2人に限って死ぬことは……
「カミラ君の肉体は、恐らく蒸発しているよ」
ルシフェルが聞きたくもないことを言ってくる。
いやいや、あのロリでプライド高めでいばりがちな吸血鬼が、訳も分からない爆発ぐらいで?
嘘でしょ?
「え?嘘だよね?」
「ただカミラ君なら問題ないはずだよ。彼女は不死の存在、彼女が死んだ場所で、運命の元に再び形は造られるように世界がなっている」
「そう、なの?」
それって、大丈夫なんだよね?
吸血鬼って魂が冥界に行けず、肉体も土に還らない、だからどちらかが欠けるとかないもんね?
また戻ってくるんだよね?
「そう冷や汗をかかなくとも、カミラ君なら戻ってくる」
どうしてルシフェルはいつもみたいにお茶らけてないの?
やめてよ、真剣さを出すの。
「だがザ・カラー君、彼の記録を見た限りでは、緊急で発動する回避系の魔法は……」
言われてみれば、王都で追いかけっこした時も、戦闘不能になってから逃げるまで時間があった。
爆発の予兆が向こうであったのなら、もしかしたら流れてるかもしれない……
いや、そもそもザ・カラーは象牙で、私のパーティでもない。
確かに私が助けたし、心強い味方だけど、ザ・カラーの心配はそこまで必要ない、よね。
どうしてもザ・カラーの洗脳されて恐怖の中で生きてた経緯を知ってると、ここで死なれたらどうしても後味が悪い。
「ふむ、いや!ザ・カラー君は間に合ったようだね」
ルシフェルの言葉を疑いながら、見てるだろう方向に目を向ければ、色の断片が夜空に揺蕩っているのが微かに見える。
それは凄まじい速さで夜空を右往左往し、突然軌道を変えて、流星のように崖に落下してくる。
よかった、生きてる…!
色の断片はスライムみたいな実体をしっかり保っていて、その中にキラキラした無色の断片が輝いている。
「なっ、なんでひゅか!」
突然の襲来者にセリアが声を上げる。
爆発とかよりも、目の前に来た敵らしき存在の方が怖いみたい。
アリスもそうだけど、この世界の小さい子は肝が座ってたりする。
スライムのようなそれは頭と手のような物を蠢きながら生やし、手を地面について上半身らしき形を起き上がらせる。
スライムの頭からは色の断片が集合し、そこからピンクの星が煌めく黒のローブ、そしてザ・カラーの顔が現れる。
「ミ、ミオさん、けほっ」
ザ・カラーの顔は酷く苦しそうで、喋ろうとすると口から血を吐き出してしまう。
「喋る必要はない、ザ・カラー君。どうやら人の形を保っていないようだね、ミオ君の魔力も見て取れる。無理やり形を変えたね?」
「その辺は私の魔力を貸してザ・カラーに任せちゃったから、大きな責任は負わないよ?」
とりあえずは無事そうで一安心、無事じゃないけどね。
それでルシフェルに見られるけど、色の断片を治すのが第一優先、それで体がどうなるかは私に何を言われても。
「今はそれじゃないね。不定の存在に対しても使える薬がある。かなり値が張るが、君ぐらいにしか使うものはないから、気兼ねなく使ってくれ」
ルシフェルが懐から一枚の折り畳まれた紙を取り出すと、その中には1粒の錠剤があった。
ルシフェルが膝をついて錠剤をザ・カラーの口に放り込み、しばらくその様子を見守る。
「僕達がやることは、ルルイエの浮上とクトゥルフの再封印、そう。ひとまずはヴェスパー君が戻ってくるまで、彼の様子を見ていよう」
「それだったら私はちょっとセリアと話すよ」
もう1体の怪異のことは、最悪私が対処するしかないね。
それとヴァリアント、あの人の存在も確認して。
後は私とセリアの目的である、ルルイエの浮上とセリアの教祖にする儀式、それの確認もしておく。




