39話 アリスに魔法を教えよう
換気をするのはいいけどさらに埃が舞い始めたので、急いで外に避難する。
「ひとまず、これで時間を置こう」
「そうですね。コホッコホッ」
アリスが咳き込むので背中をさする。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
アリスが私を心配させないように笑う。
健気で良い子だ。
「窓を開けっ放しで離れるのは危ないですよね」
「うん、だから私はここで待つけど、アリスはどうする?」
「私もここで待ちます」
「それじゃあ何かしたいこととかある?」
「そうですね…」
アリスが考える。
「お耳触ってもいいですか?」
「うん、いいよ」
私が2つ返事で了承すると、私は地面に座る。
アリスは後ろに膝立ちをして耳を触り出す。
だんだん心地良くなってくる。
レイナさんほどではないけど、アリスも耳を触るのが上手い。
「楽しい?」
「楽しいです」
それなら良かった。
あ、そこいい。
アリスのテクニックを堪能しているとアリスが話しかけてくる。
「ミオお姉ちゃんは魔物と戦う時に怖いと思ったことはありますか?」
随分と突拍子もない。
「ないよ」
私が今まで戦ってきた時、怖いと思ったことはない。
理由は簡単で死ぬ事はないから。
ただ、今は違う。
もしかしたら魔物と戦って恐怖を感じることはあるかもしれない。
「怖がってたら立派な冒険者になれないと思いますか?」
怖いと感じることは悪くない。
絶対に勝てない相手を目の前にして怖いと感じずにただ挑むのはただの無謀だ。
逃げることも必要だ。
「そんなことはないと思う」
「でもミオお姉ちゃんは怖いって思ったことないんですよね?」
「それは私より強い魔物に会ったことがないからだよ。もし私では手も足も出ない魔物がいたら私は怖いと感じると思うよ」
私を耳を触られながら真面目に答える。
「怖いと思ってもいいんだよ。自分が戦える相手を感情ではなく実力で判断出来たら立派な冒険者だよ」
「…分かりました」
アリスはそう言うと手を止める。
あれ、もう終わり?
レイナさんに触ってもらった時と比べるとすごく短い。
「ミオお姉ちゃん、魔法を教えてもらってもいいですか?」
「今?」
「今です」
アリスの顔はやる気で満ち溢れているみたいだから、先生としてしっかり付き合ってあげよう。
私はアイテムボックスから魔法指南書を取り出す。
「ひとまず魔法には5種類ある、それはいい?」
「はい、知っています」
「じゃあ魔法を使うために、まずはイメージの特訓だね」
指南書には最初は光魔法がいいと書かれている。
光は日常にありふれた物だからイメージがしやすいらしい。
「最初は光魔法が良いって書かれてるから、とりあえず光を出すイメージをしよう」
「光を出すイメージですか?」
魔法はイメージに依存する。
光の球体を作る、懐中電灯のように光を放つ、スポットライトを当てるように一部だけ明るくする。
どのイメージをしたって光れば間違いではない。
とりあえずアリスがどんな光をイメージするのかを見る。
そう思ったけど光は一向に出ない。
「外だし眩しいかな?」
私は土魔法で光が入らないように土のかまくらを作る。
それでも出ない。
唯一、肩に乗ってるゴーレムにゃんこの頭が光っている。
イメージが弱いとか?
レイナさんを見るに、魔力を一点に集める必要はない。
イメージさえ出来ればゴーレム魔術だって使える。
どんな風に魔力を消費してるか分からないけど。
「それじゃあ、にゃんこの頭に光を出すイメージをしてみて」
私はそう言うとゴーレムにゃんこの頭の光を消して、ゴーレムにゃんこを下ろす」
「にゃんこ…」
アリスがボソッと呟く。
何のつもりで呟いたんだろう。
ちょうど暗いから顔の様子を窺えない。
「集中して、イメージがブレると変な魔法が出るからね」
花魔法を使ったからそれは分かっている。
暫くの沈黙が流れる。
しかし一向にゴーレムにゃんこの頭は光らない。
「イメージしてる?」
「してるんですけど、出来ないです」
イメージが弱いのかな。
「それじゃあ私がやることを見てて」
私はかまくらの中に淡い光を灯す。
お互いのことが少し見える。
「こうやって右手のひらを上に向けて、手の上に光の球体を作る」
私は言葉通りにやってみせる。
私の手の上に光の球体が現れ私達を照らす。
「今、私がやったことを自分がやるようにイメージしてみて」
私が光の球体を消すとアリスが右手のひらを上に向ける。
少し時間が経つとアリスの手の上が一瞬弱く光るが、すぐに光は消えた。
「見てました?光りましたよ!」
「見てたよ。とりあえず今の光ったイメージを忘れないように集中して」
「わ、分かりました」
そう言うとアリスは自分の手のひらに視線を向ける。
暫くすると手の上が弱く光るが、すぐに消える。
「忘れないように続けて」
「はい」
私に返答するがアリスの視線は手のひらに向いたままだ。
良い集中力だね、邪魔しないように少し黙っていよう。
また暫くして手のひらが弱く光り、すぐに消える。
ただまたすぐに光り、そして消える。
だんだん光ってる時間が長くなってくる。
徐々に点滅するように光り始め、やがて光っていない時間がなくなっていく。
10秒くらい弱い光が保たれると、アリスが手を下ろす。
「どうしたのアリス?」
「いえ、これものすごく頭が疲れますね」
確かに慣れないうちは魔法を使うのは辛いかも。
私もゲームで魔法を使おうと思って全然出なかった時はやめようかと思った。
「でもずっと光ってたじゃん。すごいよアリス!」
「えへへ、ありがとうございます」
私はかわいいアリスを撫でる。
ひとまずかまくらを元に戻す。
「ひとまずは安定して光らせ続けるのと、もっと強い光を出せるようにするのが目標かな」
「どのくらい強い光ですか?」
「そうだね」
私は手のひらの上に光の球体を作る。
日中の外にいるのに球体から光が発せられてるのが分かる。
「このくらいかな?」
「明るいですね… 頑張ります!」
アリスは一瞬渋い顔をするけど、強く決意表明をした。
「頑張ってね。もしイメージが難しくなったり何か困ったらすぐ言ってね」
「分かりました」
ひとまず、私の第1回魔法授業が終わった。
ゲームで火魔法を習得するのに1週間かかった私に比べればアリスは1日でここまできた。
アリスは私より優秀だから、これからが楽しみだね。
にゃんこ…
アリスは年上の女性がにゃんこと言うギャップを噛み締めていた。




