34話 またどこかで
それはミオの夢の中
「昨日、淫猥なことをしたか?」
「何を言ってるの?」
「いや、何でもない」
偽神の疑問は晴れなかった。
私は目が覚めると外に出る準備をする。
今日はマリアがいて朝ご飯をしっかり食べる事が出来た。
マリアに昨日の朝ご飯を食べなかったことを謝ったら気にしないでと言われた。
レスター達は今日の早朝に東門から出て、東門から見て正面の山を越えていくみたい。
冒険するのに山を登らなきゃいけないの…?
私の考え方が甘いのかな?
私が東門に着くとレスターとリア、アリス、カインがいた。
アリスは見送りに来たみたいだけど、何でレイナさんはいないの?
「レイナさんは?」
「レイナは寝坊だ。私がここに来る前に家に行って起こしてきたからもう少しでくるだろう」
何をやってるのレイナさん…
「ミオお姉さん、おはようございます」
「おはようアリス」
それに比べてアリスはしっかりしてるね。
レスターが話しかけてくる。
「ミオ、お前には本当に助けられた。リアの怪我、フェンリルの討伐、レイナへ障壁魔法の伝授。感謝する」
「大したことじゃないよ」
「…全く、お前らしいな」
レスターが呆れたように言う。
「私からも感謝させてくれ。他にもアリスを助けてくれた事、そして先生を引き受けてくれた事、本当にありがとう」
「ありがとうございます」
リアがそう言うとアリスが続く。
「困ってたらお互い様だから、アリスはこれからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
アリスが頭を下げる。
アリスは礼儀正しいけど、小さい子が頭を深めに下げてると心が痛むからやめてね。
私は急いで頭を上げさせる。
「ミオさん、自分も感謝してます」
カインがそう言うけど、カインには特別何かした覚えがない。
「何かしてあげたっけ?」
「葡萄とケモ耳ですかね」
どうでもいい。
すごくどうでもいい。
「どういたしまして」
「というのは冗談です。レスターを障壁魔法で防いでくれた事、あれにすごく感謝しています」
レスターが感謝するならともなく、どうしてカインが?
「フェンリルを討伐する時、被害を最小限に留めるのが私の役割でした。つまりは土の腕から振り落とされたレスターが攻撃される前に予測して、フェンリルを足止めしてなければなりません」
そうは言ってもあれは一瞬の出来事だし、遠い場所にいたから仕方ないと思う。
「仮にレスターが攻撃を受けた場合は追撃から逃れられるようにカバーに入るつもりでしたが、未然に防げたのはミオさんのおかげです。本当にありがとうございました」
急にちゃんと感謝されるじゃん。
「まぁ、その、カインも頑張ってね」
「次はミオさんよりも早く動けるように精進します」
かなり距離あるのに、あの一瞬に対応出来るアーチャーがいたら、それはアーチャーじゃなくてスナイパーだよ。
「ごめ〜ん、遅れちゃって」
レイナさんが呑気にやってくる。
「おい、何やってんだ」
レスターが怒る。
「魔法を使うのが楽しくてさ。試し打ちしてたら魔力切れ起こしてぐっすり寝ちゃったの」
「おい、魔力切れなんて初心者がやる事だろ」
「魔法を使えないレスターに言われたくないよ」
「置いていっても良かったんだぞ?」
「すみませんでした…」
レイナさんが負けた。
いや遅刻してるレイナさんに勝ち目はないんだけど。
「ミオちゃ〜ん、レスターがいじめる」
「遅刻したレイナさんが悪いと思うよ」
「ミオちゃんまで私の敵か…」
仕方ないよ。
そうするとレイナさんが私に囁く。
「あんなに気持ちよさそうにしてたのに」
「う…」
弱みを使うなんて姑息だ。
いや、そもそもなんでこんな事で私の弱みは使われあっ!
ちょっと、急にケモ耳触らないでよ。
「レイナさんだって急に泣き出したじゃん」
「あ…」
私も小声で言い返すとレイナさんが不意を突かれたみたいな顔をする。
弱みには弱みで返す。
「ごめんねミオちゃん、遅刻した私が悪いんだもんね」
「うん、レイナさんが悪いね」
「うぅ…」
レイナさんが項垂れる。
反省してねレイナさん。
「それじゃあレイナも来たからそろそろ行くぞ」
「あぁ。アリスとミオ、わざわざありがとうな」
「山登り頑張ってね」
「別に山登りが目的ではないけどな」
「頑張ってねお姉ちゃん」
「アリスも頑張るんだぞ」
リアとアリスがハグをする。
「ミオちゃん」
声の方を見るとレイナさんが手を広げている。
「はいはい」
私はレイナさんに抱きつきハグをする。
あるね、この人結構あるね。
柔らかさを感じてるとレイナさんが私の体に魔力を流してくる。
「え、何?」
「いや、ちゃんと魔力を使えるようになったよっていう…」
いや、そんなに頭回らないよ。
「良かったね」
「ミオちゃんのおかげだよ、ありがとう」
レイナさんの声は、とても優しかった。
「どういたしまして」
レイナさんは満足したようで手の力を緩める。
私も緩めると、レイナさんが1歩下がる。
「それじゃあまたね、ミオちゃん」
「うん、またね」
私達は別れを済ませると、4人は門を抜け、それぞれ馬に乗る。
そうして4人の馬は走り出していった。
「行っちゃったね」
「そうですね」
「寂しい?」
「少し寂しいです。でもミオお姉さんがいるから少し大丈夫です」
「それは良かった」
アリスの言葉に嬉しさを感じながらも、4人との別れの寂しさを噛み締めた。
レイナさんが成長したCランクパーティの活躍は、きっとミオちゃんのケモ耳にもいつか届くでしょう。




