30話 障壁魔法を教えよう
今度はしっかり教えよう。
私はお昼ご飯を食べ終えると立ち上がる。
「とりあえず、この壁片付けよう」
そういい土の壁を崩す。
レイナさんが困ったように言う。
「ミオちゃん、イメージが分からなくなっちゃって」
「じゃあ私が壁を作る時にイメージする事を口にしながら魔法を使うよ」
土の壁を崩しきると私は手に魔力を集中する。
「それは木の板の壁。ただの大きな木の板で、人によっては殴れば穴が開いてしまう、その程度の壁」
私はそう言い魔力を放つと、空間が歪み、そして正常に戻る。
「こんなイメージだよ」
「う〜ん」
あんまりピンと来てない?
「じゃあ他の壁も作るよ」
そう言いもう1度、手に魔力を集中する。
「それは紙の壁。触れただけで壁としての意味がなくなるほど柱なんてない、弱い壁」
そうして魔力を放つと、空間が歪み、そして正常に戻る。
「この壁は1番弱い壁で、手で押しただけで壊れるよ」
「そうなの?」
そういいレイナさんが壁に触れ、少し手に力を加えると壁が割れる。
「ガラスのイメージではない?」
「ガラスでもいいと思うよ」
私がそう言うとレイナさんが目を閉じる。
レイナさんが目を開き杖を振る。
「壁よ!」
そう言うと凸凹でむらがある、出来の悪いガラスの壁が現れる。
でもこれ、ガラスの壁だよね?
「ガラスの壁じゃなくて、魔力の壁だよ」
「それは分かってるのだけれど…」
レイナさんが少し考えているみたい。
「この壁ってどういう効果があるの?」
「効果?普通にただの壁だけど」
「本当にただの壁?」
「うん。あ、この壁はどんなに弱く作っても持続性や連続性のない攻撃は全て相殺するよ」
「…そうなのね」
そうは言うがレイナさんはどこか納得してない様子。
思ってたのと違った?
「本当にただの壁だから、リアがやったみたいに氷で壁を作ると大して変わらないと思うよ」
「いや、そんなことない。リアが作った壁は魔力を水と冷気に変換して壁を作っている。でもこの壁、空気を固めてる感じでもないから、本当に魔力そのもので出来てるのね」
そういえば魔力を水に変換するのと、壁を作る時ってイメージが違うな。
「強いて言えば型を作っておいて、そこに魔力を流し込んだ感じ」
「やっぱりそこから違うのね」
「どう言うこと?」
何が違うんだろう。
「魔力って実体はないの。実体がないから火や水なんかに魔力を変換して実体を持たせてるの」
いや実体はあるはず。
私は魔力を使う時に魔力が移動してるのを感じ取れる。
見えなかったり物体を通り抜けたりするかもしれないけど、確かに存在してるもののはず。
「実体はないって言っても、魔法を使う時に魔力が動いてる感じない?」
「魔力を使うと脱力感は感じるけど、何か動いてるなんて感じない」
「それって本当?」
「本当よ」
私って魔力を上手く感じやすい体質とかなのかな?
レイナさんに直接、魔力を流したらいいかな?
「ちょっとレイナさん、手を貸して」
「はい、どうぞ」
私はレイナさんの手を取る。
手に魔力を集中するとイメージする。
と言ってもそのまま魔力を手を伝って送り出すだけ。
私はレイナさんと恋人繋ぎをして、魔力を流し始める。
「え!?え!何これ!?ミオちゃん何やってるの!?」
レイナさんが手に力を入れる。
「魔力を流してるんだけど、どう?魔力感じる?」
「これすごい!本当に何か体の中を流れてる!これが魔力なの?」
「多分そうだね」
レイナさんも魔力の流れを感じるっぽい。
「この流れを壁の型に流し込む感じだよ」
「分かったわ!」
レイナさんと手を離すと、レイナさんが手をぶんぶん振る。
「これすごいよミオちゃん!魔力感じるよ!」
「とりあえず、魔力を体中を巡らせるイメージをしてみて」
「すごい、魔力が巡ってる。ミオちゃんが流してくれた魔力以外の魔力も動いてるよ」
レイナさんが全身をあちこち見ながら言う。
「その魔力を手に集めてみて」
「それでどうすればいい?」
「次に私がさっき言った紙のイメージをして。触れただけで壊れるほど弱い壁。柱なんていらないよ。本当にただ紙の壁」
「うん、それで?」
「その紙の形になるように魔力を放つ」
「分かった」
レイナさんは落ち着き、目を瞑る。
手を前に出し、目を強く見開いて唱える。
「壁よ!」
そうすると空間が一瞬歪んだかと思えば、正常に戻る。
出来てそう。
私は風魔法を使って疾風を起こす。
疾風は壁に向かって進み、やがて壁に衝突する。
壁は割れるが、疾風は霧散した。
「…出来た。出来た!ミオちゃん出来たよ!」
レイナさんが私に抱きついてくる。
「良かったね」
「良かった…これで私も魔法が使えるよ…」
そう言うとレイナさんが泣き出した。
「え!?そんなに嬉しかったの?」
「嬉しいよミオちゃん。ミオちゃんのおかげだよ…」
私よりもお姉さんのレイナさんが泣いてるのを見ると、少し感情の昂りを感じる。
即座にその感情を抑え込む。
この感情は悪すぎる。
私はレイナさんの頭を撫でて落ち着かせる。
落ち着いたみたいでレイナさんが話始める。
「実はね、私は魔法が使えないんだ」
「そうだったんだ」
「レスターは火鳥の加護を持ってて、リアは強化魔法が使えて、カインは鷹の目を持ってる。私だけ何もない」
え、火鳥の加護、気になる。
「そんな事はないよ。あの土の腕を出して動かすのはすごいよ」
「あれはゴーレム魔術って言って、元々、意思を持った土の怪物を出す魔術なの。ただ、ゴーレムが脆かったり丈夫だったり安定しなくて、あれはまだ未完成なんだ」
あれで未完成なんだ。
もしあの土の腕が壊れずに魔物と戦えるなら強すぎない?
それにしても、自分だけ特別な物を持ってないからコンプレックスに思って悩んで、明るく振る舞いながらもその裏で自分を卑下してたんだ。
「でも良かったね、これで障壁魔法も使えるようになったから私がやったみたいにみんなを守る事が出来るよ」
「うん、本当にありがとうミオちゃん!」
レイナさんが笑う。
やっぱり、女性は笑顔が似合うね。
そういえば読み返して思ったのが、レイナさんにケモ耳を触られてる時のミオちゃん、ちょっとエッチじゃない?
一応言っておくと、そういう気持ちよさではないですよ。
天使のいたずらって名前の頭のマッサージ器具、知ってますか?
あれの気持ちよさです。




