26話 ケモ耳人生最大の恥
西門に戻るとアリスとギルマスがいた。
「お姉ちゃん!大丈夫だった?」
アリスがリアに抱きつく。
羨ましい。
「見ての通り大丈夫」
「怪我してない?」
「してない」
アリスは安心した様子で抱きつくのをやめる。
するとリアがアリスに背を向けるように誘導すると、後ろから抱きつくように手を回す。
私もやりたい。
「風の大狼の討伐ご苦労だった」
なんでギルマスが知ってるんだろうと思ったら、いつの間にかカインがいる。
カインが伝えたのかな。
「この後すぐ報告するか?飯はもう食ったのか?」
「俺達は大丈夫だけど、ミオが飯を食っていないらしい」
「私も大丈夫だよ。先に報告しよう」
「分かった、ならギルドに行くぞ」
私達はギルマスに付いていき、冒険者ギルドに向かう。
ギルドには冒険者で溢れかえっていた。
朝のギルドは初めてだけど、こんなに人がいるのか。
食事スペースは満席、ロビーにも沢山の冒険者が立ち話をしている。
受付にも列が並んでおり、いかにも冒険者ギルドって感じだ。
冒険者の1人がレスターに声をかける。
「おいレスター!風の大狼が出たって本当か!」
「本当だ。もう俺達が倒したから安心しろ」
「もう倒したのか!流石はCランクだな」
「夜明け前に門でお前らを見たってやつがいたんだが、そんなすぐに倒したのか?」
「あぁ、早朝に出て倒してきた」
「嘘だろ?」
「本当だ」
「マジかよ、すげーなお前達は」
レスターが他の冒険者に囲まれ始める。
ゲーム内ロビー見たいな賑やかさだ。
「解体していないんだろう?それならまずは解体を任せてから俺の部屋で話そう」
ギルマスはそう言うと解体受付のブルーノと話始める。
「死体を解体室に頼む」
ブルーノにそう言われ捕まったレスター以外が解体室に向かう。
解体室に入り、私は1番大きな台にフェンリルを出す。
「こいつはでかいな、よく倒したものだ。おいお前ら!喋ってないで仕事するぞ!」
ブルーノが怒鳴ると従業員達が返事をして台の周りに集まってくる。
「ミオちゃんいいな〜。私も空間魔法覚えたいな〜」
レイナさんが後ろから抱きついてくる。
何か背中に当たる。
くっ、これは結構ある…
「覚えたいって言っても、本当に謎の空間に出し入れするってイメージをするだけですよ」
実際はスキルだから何を出し入れするかしかイメージはしないけど。
「そう言われてもよくわかんないなぁ」
レイナさんが私のケモ耳を弄り始める。
あぁ〜…
待ってレイナさん!
まずい、顔がへにゃる。
アリス見ないで!
そんな凝視しないで!
「ミオちゃんしっぽがゆらゆら揺れてるよ。気持ちいいんでしょ」
レイナさんが小声で言ってくる。
え、しっぽ!?
「や、やめてっ!」
私は急いでレイナさんから離れる。
「え?そんなことなかった?ごめんね?まさかそんな拒絶されるとは」
もしかして、ケモ耳触られてる時、ずっとしっぽ動いてたの?
アリスの時もアンネの時もマリアの時もレイナさんの時も?
急に恥ずかしくなってきた。
こんなもふもふのしっぽ1つで感情が筒抜けになるの?
「い、いや、ダメではないよ」
私はしっぽを持ちながら言う。
「そう?それならよかった」
顔が熱い。
なるべく澄ました顔をしてたけど、実際はしっぽは振ってて喜んでるの丸分かりとか恥ずかしくて仕方ない。
「ミオお姉さん、私も触ってもいいですか?」
「…私もいいか?」
アリスとリアが聞いてくる。
リア、そんな意を決した感じで言わないでよ、断り辛いじゃん。
「あ、後でね。ギルマスと話があるんでしょ?」
「分かりました」
「そ、そうだな」
アリスとリアが分かってくれる。
「自分も触っていいですか?」
カイン…
「いいけど…後でね」
この男は遠慮を知らないな。
いいんだけどね?
「それじゃあ俺の部屋に行くぞ」
「アリスはどうする?」
リアがアリスに聞く。
「私は解体見てていい?」
「いいよ、ちゃんと勉強するんだぞ。ブルーノ、頼んでいいか?」
「任せろ、アリスにも解体して貰うぞ」
「私もですか!?」
アリスの踏み台が用意されており、アリスは緊張した様子で台の方へ向かっていった。
私達は解体室を出て社長室へ向かう。
社長室じゃないよね。
ギルマス室?
ギルマスルーム?
まあいっか。
レイナさんがレスターを捕まえて来てくれた。
そのまま社長室へ入っていく。
「それではまず、依頼『風の大狼の討伐』の達成、ご苦労だった。早い時間に討伐が完遂したから、早馬を出せば隣街の行商人なども今日中に移動を始められるだろう。冒険者ギルドとして感謝する」
森の近くは道を封鎖してたのかな?
「いや、元々は俺達が撒いた種だ。感謝されるようなことではない」
レスター、その俺達には私も含まれているのだろうか。
「まぁそうだとしても、風の大狼の素材は高く売れる。金が回るからこの街にとってはいいことだ」
行商人が動けなかったマイナス分を返せるぐらいの素材なのかな?
すごく高いんじゃない?
「それでは当初の通り、依頼達成者はレスター、リアス、カイル、レイナ、ミオの5人だ。この紙を受付に渡してくれ」
「ちょっと待って。私は何もやってないよ。倒したのは4人だよ」
「いや、ミオが俺を助けてくれたこと、そして最後の攻撃を防いだことで早く風の大狼を倒すことが出来た。本来だったら長い消耗戦になる。ミオも十分戦った」
「う〜ん…」
あんまり納得出来ない。
これで私の個人カードにフェンリルを倒したことを書かれても自慢出来るようなものではない…
そういえばフェンリルじゃなくて風の大狼って名前で書かれるのかな?
「そういえば風の大狼に名前はないの?」
「名前か?確かに正式な名前は存在しないが、なんならミオが決めていいぞ」
いやいや、待って?
「待って?」
「ミオちゃんが風の大狼の名前を決めるまで〜」
待ってレイナさん?
「3…2…」
「ちょ、ちょっと!」
え、そんな適当でいいの?
「1…どうぞ!」
「う、フェ、フェンリルで…」
「フェンリルいいね、それにしよう!ミオちゃんセンスあるね」
「あ、ありがとう」
結局そのままで言ってしまった。
急に命名権を貰っても困る。
「それじゃあお前らの個人カードにはフェンリルという名前で書かれるからな。他のギルドにも通達を入れておくから、時間が経てばフェンリルの名で通るだろう」
「え、本当に?」
「いやか?」
「いいけど…」
本当にそれでいいの?
ミオちゃんお察しの通りケモ耳を誰かに触られてた時、しっぽはゆらゆら動いてました。
かわいいから大丈夫だよミオちゃん!




