96話 空での移動
空から見下ろすと、相当先に馬車が走っているのが分かる。
私達が来る前に出た馬車かな?
「マリンちゃんは王都に行ったことあるの〜?」
「え、えっと、王都の上を通りはしました」
マリンは北極から南下して来ているから、ユスティアに来るその途中で通ったのかな。
「どうでしたか?」
「そ、そうですね、ユスティアの何倍も大きくて、街の真ん中に大きなお城が建ってて、沢山の人で大通りは溢れかえっていました」
ユスティアの何倍も大きいってどういうこと?
ユスティアって普通に街だよ?
だいたいこのぐらいって説明するなら、どのくらいなんだろう。
よく東京ドーム何個分とか言うけど、全く持って想像つかないよね。
今はだいたい高さ5mくらいを飛んでいて、そこから振り返って見るユスティアは、ユスティアの向こう側の地平線を隠すぐらいには広い円形の街だ。
東京ドーム何個分ぐらいなんだろう。
「ユスティアとは違いますか?」
「うーん、わ、私が見た限りでは馬車がよく通っていて、道では演奏をしている方がいたり、川を船で移動してる方もいましたね」
すごくファンタジーっぽい。
船って遊覧船なのかな?
それとも移動用なのか、1度は乗ってみたいね。
「街に降りたりしなかったの?」
「は、はい、特に用事もありませんでしたし、その、空から見る分にも面白かったですよ」
私だったら歩いてみたいな。
ある程度世界を旅しているマリンからしてみれば王都はそこまでだったのかもしれないけど、私としては普段見れない物が沢山見れそうで楽しみ。
「あ、あの、虹明花を探すってことは、たくさん魔物が発生してるところに行くんですよね」
「そうだね」
「えっと、み、みなさんは冒険者ではあるんですよね?」
「そうだよ〜」
「私とレイがFランク、アリスがGランクだね」
「ふ、普通、虹明花が生えたらDやCランクの緊急依頼として出されて、その後に傭兵団が出動するぐらいの大問題なんですけど、その、戦えるんですか?」
大問題って形容されるほどのことなんだ。
「私達が持ってる虹明花はあっちに見えるお花畑で回収したんだけど、その時に私とレイでレッドビーとキラービーの群れと戦って倒したよ。Eランクパーティと一緒に戦ったけど」
右手側にはお花畑がある。
空から見ると色鮮やかな地面が続いてて綺麗だね。
「ど、どのくらい倒したんですか?」
「どのくらいだっけ?」
「20匹ぐらいだよ〜」
「え、20匹も倒したんですか…?」
マリンが驚いたように言う。
「そ、その、怪我をしたりとか、魔力切れを起こしたりとかは…?
「してないね」
「も、もしかして、余裕だったり…?」
「余裕だったよね?」
「もっと倒せたよ〜」
「あっ、お2人はそういう感じの方なんですね」
どういう感じ?
「え、もしかしてアリスさんも?」
「いえ、私は全然です。ミオお姉ちゃんとレイお姉ちゃんが強すぎるんです」
「いや〜、それほどでもないよ〜」
レイが照れながら言う。
いや、レイはそれほどだよ。
レイの剣には私は敵わない。
気づくと馬車を追い抜いている。
これ結構なスピード出てるよね。
ただスピードが出てる割には風を感じない。
「マリン、もしかして風を遮ってる?」
「確かに、風を切ってる感じがないですね」
「あ、あれ、気づかれちゃいましたか。ただ、いつもやってることなので気にしないでください」
「いやいや気にするよ、ありがとう」
「ありがとうございます」
「マリンちゃんは優しいね〜」
「い、いえ、そんなこと…」
「そんなことあるよ〜」
感謝されて照れてるマリンをレイが畳み掛けるように抱きしめる。
レイは空飛んでるのに平気でハグを出来るあたり、飛ぶの上手いよね。
私は怖くて手を握るぐらいが限界だよ。
まあ、箒から降りて飛べばハグは出来るけど。
しばらく飛ぶと分かれ道に差し当たる。
「ここを左ですね」
「これ後どのくらい飛ぶか分かる?」
「う、うーん、この速さだと、あと半日ぐらいかかると思います」
今は昼時で、あと半日かかるなら今日の夕方に一旦家に帰って、明日の朝に出てお昼過ぎに到着することになるかな?
どこかで休憩は入れたいな。
これ馬車だったら何日かかるのかな。
「ミオちゃん、お昼にしよ〜」
レイがアイテムボックスからサンドイッチを取り出しながら言う。
「そうだね」
レイがアリスとマリンにサンドイッチを配った後に私の元にやってきてサンドイッチを渡す。
「今日は後どのくらい飛ぶの〜?」
「うーん、ひとまずは夕方まで飛ぶつもりだけど」
「多分だけど〜、アリスちゃんをどっちかの箒に乗せた方がいいと思うよ〜」
「どうして?」
「アリスちゃん、さっきから体を伸ばしたりあくびをしたりしてるから、多分疲れて眠くなってきたんだと思うんだ〜」
気づかなかった。
アリスを見ると、楽しそうにマリンと話している。
魔力切れを起こしてもおかしくないから休憩は取ろうと思ってたけど、私達の箒に乗せて飛べばいいか。
「それならこれを食べ終わったら私の箒に乗せるよ」
「おっけ〜、ミオちゃんは疲れてない?」
「私は大丈夫だよ。偽神から貰った物があるし」
私はチョーカーを指差す。
「それが貰った装備だったんだ〜」
「勝手にこれだったからね」
「それはミオちゃんが読まずにこの世界に来たからでしょ〜」
う、そうなんだよね。
まあ別にチョーカーは嫌ってわけではないからいいんだけど。
このまま私達は空を飛びながら昼食を済ませた。
Q.あ、あの、皆さんは箒を使わずに飛べるのに、どうしてわざわざ箒に乗って飛ぶんですか?
A.なんとなくかな?
A.私は箒で飛ぶって教わったので。
A.その方が夢があるからだよ〜。




