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47.眠りとすきっ腹

「またお勉強?最近週末は勤勉ねえ」


 リリシュの不満そうな声に冷や汗をかき、カフェに付き合えない事を謝った。

 やっぱ突然真面目に勉学に励みだすとか、怪しく思うよねえ。

 今の所特に問題はないし、タイミング見てリリシュとプラゥにも言おうかな。


 あれから何度か週末の実験を行ったが、結果は特に代わり映えのしないものばかりだった。

 ただ力の使い方は、結構色々できる様になったと思う。

 待って貰うのも悪いからと、試行錯誤して放出する際の量を色々な形にして増やしたのだ。

 色々試す事は、自分の暇つぶしにもなるし。


 そして他にもわかった事があった。



「今日もよろしくお願いします」

「こちらこそ、じゃあはじめましょうか」


 第一騎士団の宿舎にある屋外の修練場。

 中央に立ち、神官や修道女、騎士達が見守る中全身に力をこめる。

 いつもの様に、小さな光の玉が大量に空へと放たれた。

 それと同時に地面にも、俺を中心に波紋の様に光の輪が広がっていく。


「昨日のものより派手ではないですが、これもまた幻想的でいいですね」


 パラデリオン様が、眩しそうに目を細めている。

 最近はこうやって聖なる力を色々な形にして見せる様にしている。

 エンターティナーじゃないけど、見ている人がせめて退屈しない様にと。


 ただ昨日は調子に乗って魔方陣じみたものを描き、その隙間にいろはにほへとなどとひらがなを書き込んだら、パラデリオン様はじめとする神官勢が大興奮してしまった。

 我々の知る聖なる文字とは違うようですが、あれは新たなものなのですか!とか起きて早々詰め寄られてとても困った。

 魔方陣だって昔見たアニメの記憶を頼ったてきとうなものだったし、文字だって意味があってかいたわけじゃない。

 必死に絵本で見たものを参考にしたとか、雲の形を参考にしたとか無理やりごまかした。


 なので今はもうなるだけシンプルなものにしている。

 一度前の世界の観光地にあるような、派手で繊細な模様のイルミネーションを真似てみようとしたが、俺の想像力が足りなくて無理だった。

 でも、今日やってる波紋のように広げていくのは気に入ったかもしれない。


 蝶の形を作り、修道女二人の前へと飛ばしひらひらと舞わせる。

 カーデさんは優しく目を細め、もう一人の修道女はうっとりと目をうるませた。

 もしかして聖女だけでなく、大道芸人とかイリュージョニストとか名乗って生きていけるのでは。


 俺の心の声が聞こえたわけではないだろうが、傍で呆れたため息が聞こえた。


「またろくでもない事を考えているだろ」

「勝手に人の心読まないで下さい」


 呆れた顔を隠すことも無く、俺を見るライアール。彼は必ず、この俺の実験にいた。

 万が一を考えて、来てくれているのかな。第一騎士団の副団長の護衛とか、贅沢にも程がある。


「がはは!嬢ちゃん余裕そうだな、もっとど派手にいこうぜえ」


 と思ったら副団長所か団長がいた。酒を飲んでるわけでもないのに、相変わらず陽気だ。

 ザーグルは警備をする騎士達の後ろで、木箱の上にどかりと座り見物している。

 あのおっさん、花火か何かと勘違いしてないだろうか。


 あ、そろそろかもしれない。

 何度かするうちに、だいたいの感覚が掴めて来た。ライアールもそのタイミングで傍に来るから、この男にもわかっているのかもしれない。

 そしてその感覚ともう一つ、わかった事がある。それは……。


 かくんと、力が抜けた。あ、きた……。

 ライアールの腕が、伸ばされた。





「お目覚めですか」


 またいつもの様に、ぼんやりとした意識がカーデさんの声で覚醒する。

 のろのろと体を起こし、カーデさんが手渡してくれる水をあおる。

 その水で気付いたかのように、俺の腹がグーと悲鳴を上げる。毎回これだ。


 意識を失う前、必ず全身が脱力する。

 意識を手放す直前だから、手の打ちようはあまりないのだけど、前兆みたいなものはあったんだなあと理解できた。


 そう、わかった事というのはこの体の力が抜ける事だ。体が動かないんだから、だから何だって話ではあるが。

 でもタイムラグはあるんだから、何かしらはできるかもしれない。できないかもしれない。……所詮俺の頭だし。


 ベッドから降り、カーデさんと共に食堂へ向かう。これも毎度の事だが、部屋の警護をしている騎士も一緒だ。

 毎回人は変わるが、する行動は一緒だった。


「お嬢さん、こっちあいてるぜ」

「こっちだってあいてるぞ」

「おめえの筋肉くさい横なんて女の子は嫌がるだろ」

「ああ!?うちの娘はこのたくましい上腕筋の上に腰掛けるのが大好きなんだよ!」


 食堂でも、気さくに声をかけてくれる騎士達が増えた。傍らに座ると、空けてくれた騎士達にお礼を言う。

 カーデさんがスッと、料理を取りに席を立つ。結局、一度も自分で取りに行ってないなあ。

 彼女が戻り、トレイを前に並べてくれる。いただきますをして、いつもの様に食べ始める。


「あれ、今日のは何かちょっと違いますね」


 フォークを刺しながら、皿の上のお肉セットに目を落とす。

 今日の肉料理は、綺麗に中身をくりぬいた野菜の中に、ひき肉や細かく刻んだ野菜が混ぜられている。

 その上には、ソースが波線を描くようにかけられていた。

 なんと言うか、ちょっとお洒落っぽい。いつもは肉厚どどん!肉汁だらん!って感じなのに。


「料理長が、聖女様がいつも美味しく平らげてる事に喜んではりきっちまってよ、気に入って貰えるよう色々やってるみたいだぜ」

「うるさい!お前らは味なんかみないから作りがいがないんだよ!」


 騎士の言葉に、カウンター奥から調理用の衣服に身を包んだ男が顔を出した。俺と目が合うと、丸い鼻を赤くし恥ずかしそうに笑った。

 お礼を言うと、更にてれて騎士達からからかわれた。黙りやがれ!と騎士達に怒鳴り返すと、早々に引っ込んでしまった。

 いやあ、あの量にあの味、ほんと頭が上がりません。カウンターに向かって手を合わせて拝む。


「俺達だって味くらいはわかるよなあ、こういうのだって好きだぜ。なあ?」

「料理長、俺達の事野生動物か何かとしか思ってないからな。餌を大量にぶん投げてる気分なんだろう」

「それにも大喜びで飛びつくけどな」


 騎士達が笑いながら食べている。『花冠の館』の食事は割りと静かだから、こう賑やかなのも楽しくていい。

 自分の分を食べ終えると、騎士達がいるか?と目で聞いてきた。俺は勿論、うん!と頷いた。

 犬だったら、両前足をあげて、尻尾ブンブン振りながらハッハハッハと息を吐きながら目を輝かせて待っている姿だろう。


 切り分けられた料理が俺の皿へと集まってくる。騎士達が豪快に皿から落としていく。とても楽しそうだ。

 思うに、騎士達は俺の事をペットか何かだと思っているんじゃないだろうか。餌をせがむ小動物に分け与えてる感じで。

 騎士達の目は、そんな目をしていた。だがせめて妹とか弟とか、人間扱いして欲しい気もするけど。


 そんな視線にまじって、カーデさんに色っぽい目線を送る者もいた。カーデさんは無視を決め込んでいたが。

 第一騎士団の騎士という優良株を袖にするとは、彼女もなかなかたいしたものだ。……ちょっとリリシュがうつったかな。



「相変わらず凄い食欲だそうですね」


 食事の後は、応接室でパラデリオン様と結果報告の時間だ。

 彼の手には、いつもお菓子が握られている。これも騎士団が用意してるのかな、それとも自前かな……。


「元々食べるほうではあるんですけど、この実験の後は特に空くみたいです」


 普段は、ここに比べて半分も無い学食や寮の食事でも満腹とは言えないが事足りている。

 もしかして、力を消耗した事に関係あるのかな。


「力の消費を、体が食事で補っているのでしょうかね?」


 司祭様も同じ事を思ったのか、そう口にした。

 思えば国境砦の時も、気絶して目覚めたら凄くお腹が空いていた。

 その事を話すと、やはりと互いに頷く。


 来週の予定を決める話に移ったとき、俺は時間をずらして貰うようお願いした。

 そろそろちゃんと暖房器具を買いに行きたいのだ。

 護衛を出しましょうかと申し出てくれたが、頼む人が既にいると伝えた。

 司祭様はそうですかと頷いて、よいものが見つかるといいですねと笑ってくれた。



 カーデさんと別れ、護衛の騎士と二人で学園の敷地へと帰って来た。

 門をくぐると、リリシュが笑いながら手を振っていた。


「リリシュ、どうしたの?もしかして待ってた?」

「違うわよ、偶然。ほら、洗って貰ったドレス受け取ってきたの。帰りに貴女の姿が遠めに見えたから」


 彼女の手には、結構な量の荷物が抱えられていた。冬服なので、厚手でかさばるらしい。

 俺の傍にいた騎士が、お持ちしましょうとリリシュからその荷物を受け取った。

 彼女は騎士にお礼を言い、俺にも助かったわと微笑んだ。


「そっか、もう冬近いもんね。まあ、私は私服なんて三枚しかないけど」

「せめてそれぞれの季節にあった物買いなさいよ……。買い物ほんとしないわよね貴女」

「来週は買い物行くつもりだよ、買うのは暖房器具だけど」


 ついでに商品券で買うと伝えると、


「商品券なら使うお店限られちゃうわね、来週私も一緒に行こうかしら。いくつかお店、わかると思うわよ」


 俺は喜んでお願いした。総当りでお店に特攻するより早く見つけられそうだし。一応最初に行くお店は、決まっているけど。

 それならプラゥも呼んで、久しぶりにまたお出かけ気分を味わおうと話になった。

 護衛はローシオンに頼んでいると伝えると、リリシュが意味ありげに含み笑いをした。

 こういった顔のリリシュとマリガにはつっこんではいけない。藪から蛇がでるものだ。


 週末の事を話しながら歩いていると、『花冠の館』へといつの間にかついていた。

 リリシュが騎士からドレスを受け取る。俺も半分持った。

 騎士にお礼と別れを告げ、二人で館へと入った。


「はいこれ、じゃあまた明日ね」

「ありがとノイルイー。明日ね」


 半分持ったドレスをリリシュの部屋へ届けた後、自室へ戻った。


 リリシュとも話したが、あっという間に季節が巡ってきたなあ。

 暖房器具の入荷はまだ早いよ、なんて店で言われたのがちょっと前だった気がするのに。

 これ以上遅くなると、冬に突入しちゃう。来週こそ、さっと決めてさっと送る手配しよう。


 商品券の枚数も、確認しとかないとね。

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