31.ご褒美
今日から聖なる光の扱いの授業に、癒しの勉強も加わった。
今の所、まだ力を具現化できるのは一部の生徒だけなので、具現化の練習組と分かれて授業は行われる。
といっても同じ修練場でするので、別段今までと何が変わるわけではない。
前に一人で練習するはめになったらどうしようと思ったが、杞憂に終わって良かった。
「特別講師の聖女グリッド様です。グリッド様は聖都の神殿でご活躍されているのですよ」
「皆さんの癒しの授業を担当します。これからよろしくお願いしますね」
ナリマー先生が隣に立つ僧衣の女性を紹介する。
グリッド様は肩上でそろえた金色の髪を片耳にかけ、生徒達に微笑んだ。
授業は魔道具を使って行われた。後々、実践授業もしていくらしい。
今日は用意された魔道具に、聖なる力を注入できるかの練習だ。
それができたら、指定された部位に流せるか、それができたら隠された異常のある部位を見つけられるか。
そうやってステップアップしていく様だ。俺は指定された事をどんどんこなしていく。
次に隠された異常のある部位を探す為の魔道具を渡されたので、てきとうにタッチしたら爆弾マークが出た。
正解すると、キラキラと光のマーク。マインスイーパをやってる気分だ。
逆に全部爆弾にしたらどうなるんだろうとつついていたら、ナリマー先生に怒られた。
「んもう、どうしたら出るの」
リリシュが必死に、手のひらを上に向けてぶんぶんと振っている。
一学年の時に、力の具現化ができるようになったはずが、また急にできなくなったらしい。
同じ様に、前はできていたのにまた具現化できなくなった生徒が他にも居た。
聖なる力とはなんと気まぐれなものなのか。
俺もなまけていたら同じ様になるかもしれない、気をつけよう……。
ただでさえ勉強はからっきしなのに、その上実技までなくしてしまったら……。
「聞いていますよ、貴女はとても優秀な癒し手だと」
グリッド様が傍に来ていた。
「ああいえ……。前の事件は、コフィル様の手伝いもありましたし、私だけの力じゃなかったです」
「コフィル様もとても優秀な癒し手ですね、あの方の傍で浄化の修行ならとても勉強になったでしょう」
「はい、私たちのまわりに光を浮かべて守ってくださいました」
前にも思ったけど、あれは俺もやってみたい。ふわふわ魔法の光を浮かべて歩くとか、まさにファンタジーじゃないか。
グリッド様はしばらく後ろから俺の手元を見ていたが、お題をクリアすると「素晴らしい」と褒めてくれた。
グリッド様が他の生徒の様子を見に行くと、俺達の会話を聞いていた少女二人が傍に寄ってきた。
「でもあれって、ノイルイーが傷を全部癒した様なものだったじゃない」
「そうそう、コフィル様ができないって言った事を、ノイルイーがやっちゃったわけだし」
ルクーナとアプリエノだ。
俺は慌てて否定する。
「コフィル様、道中守ってくれたじゃない。私もあれは凄いなーって思ってたし」
「確かにコフィル様も凄いと思うけど、ノイルイーはもっと凄いと思うな」
「ねー」
村に戻った後から、彼女達の記憶がどんどん誇張されていってる気がする。
まあ、あれだけ怖い目にあったんだから仕方が無いけど。
「もー、とにかくそんな事ないから。二人は具現化できたの?」
ルクーナとアプリエノは顔を見合わせ、えへへとごまかした。
練習せずにお喋りに来るとは、けしからんなあ。
「前は結構できてたんだよ、でもだんだん力が弱くなっちゃってさ」
ルクーナが手のひらを突き出す。うっすらと光が浮かび、消えた。
今のを見るに、出すコツは理解している様だった。
「私も。無くなった訳じゃないから、やっぱたまに出るんだけどね」
アプリエノが両手を上げて肩を竦めた。
一体何が原因なんだろう。それともそれは普通の事なのだろうか。
先生は、勉強と練習するしかないと言うが……。
ただナリマー先生も首を傾げながら言うから、原因はわかっていないのかもしれない。
授業が終わり、帰り支度をしているとオーシャに声をかけられた。
「ノイルイー、ナリマー先生が帰りに寄って欲しいっておっしゃってたわよ」
「ナリマー先生が?」
一体何の用だろう。首を傾げていると、オーシャが苦笑した。
「やだ、今度は本当よ」
「え?あ、あー……。あはは、その節はどうも」
そういえばナナリエーヌ様ご一行に捕まった時、先生が呼んでいると助けに入って貰ったっけ。
冷や汗をかきながら、貴族令嬢三連星と対面させられた事を思い出す。
あの面接は辛かった……。
リリシュに伝え、俺は一人教室を出た。岐路のお喋りをする生徒達の合間を縫って、職員室へ向かう。
失礼しますと声をかけ、扉を開けた。
室内には、教職員の机が並んでいる。
だがそれは前の世界の様な灰色のスチールデスクではなく、高級そうな濃い木製のものだった。
机の上は雑多なものからきちんと整頓されたものまでと、そこは前の世界と似たようなものだ。
ナリマー先生が俺に気付き、手を上げる。流石ナリマー先生、机の上は非の打ち所のない綺麗さだ。
「この間は謁見お疲れ様。労いが遅くなってしまって、ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます」
先生とゆっくり話す機会なかなかなかったし、仕方ない。俺もいつもバタバタしてたし。
教室でその事話されるのも、勘弁してほしいし。
「今日貴女を呼んだのはね、これを渡そうと思って」
そう言って先生は複数のチケットをぴらりと出した。
チケットには、大きく数字が書かれている。どうやら金額が書かれているようだ。
その金額の左上には、前世でも見覚えのある名前。
「商品券……ですか?」
「ええ、そうよ。この度の貴女の働きなら、本来高額な報酬が出されてもおかしくないのだけど。学園としては生徒にそんな俗物的なもの出すわけには、なかなかいかなくてね。だから、これなの」
なるほど。でもこれでもじゅうぶん助かる。いや、贅沢すぎる程だ。
「凄く助かります。放課後の奉仕でお給金は貰ってますけど、あまり使いたくないですし。でもこれなら使わないと損だって思えて、買い物ができそうです」
「よかった。ほら、貴女私服は三枚しか持っていないと言っていたじゃない?それなんてどうかしら」
服かあ……。でも私服着る機会ってそうないんだよな。町に出る時も、いつもの灰色のワンピースで事足りるし。
「家具とかにも使えるんですかね?」
ふと、孤児院へ送ろうと思っていた暖房器具の事を思い出す。
どうせ配送に時間がかかるのだから、早いうちに買っておいてもいいだろう。
「どうかしら……、ほら右下に紋章のようなものがあるでしょう?店にその紋章が書かれていれば、使えるのだけれど」
本当だ。鳥の紋章が金のインクで書かれている。裏面には、使用条件も書かれていた。
「ありがとうございます。早速町へ見に行ってもいいですか?」
「ふふ、いいわよ。届出引き受けとくわね。……ああ、お釣りはでないから、気をつけてね」
お釣でないのか、残念。まあ、前の世界にもそんなギフト券あったし。
暖房器具の値段は見てみないとわからないけど、余裕がありそうなら他にも買っちゃおう。
この前はピクニックにも行ったし、最近贅沢だな!
俺はうきうきしながら、寮へと戻った。




