57話
【ノクス視点】
季節は春。一年生最後の春休みを満喫し、まだ何の問題も抱えていなかったあの日。
俺、ノクス・レイヴンクロフトはとある人物に相談を持ちかけていた。
「それで、相談って何かしら。私も暇じゃないんだけど」
相談の相手は銀色の髪に、王族の血縁であることを現す青色の瞳を持つ令嬢。リリス・ドラクシスだった。
俺の相談など心底どうでもよさそうな顔をしているリリスだが、一度パーティーや公の場に出れば、「猫かぶり」という言葉を体現したようなあのマリベルも真っ青なほど猫を被るのだから面白い。まぁ、それを指摘するとどうなるか想像はつくので本人に言ったことはないが。おまけに今から相談に乗ってもらうのだからますます言うことはできない。
現在、俺には悩みがあった。
「これはお前にしか……話せないことだ」
「珍しいじゃない。貴方が私に相談事なんて」
リリスの言う通り、俺はコイツだけではなく、滅多に人に何かを相談することはない。それでも今回コイツに打ち明けることにしたのは、俺たちの間に一つの共通項があったからだった。
「それで、何をそんなに悩んでいるわけ?」
リリスも大方、俺の相談事を理解しているだろうが、それでも常套句として尋ねてくる。
俺はリリスへと悩みを打ち明けた。
「セレナが最近…………綺麗になりすぎている」
「……はぁ?」
リリスはノクスへと冷ややかな視線を投げた。それはそれは冷ややかな視線だった。
とても王族である俺に向けるような目ではない。
「あのね、惚気なら私じゃなくてセレナにぶつければ? そもそも勘違いしないでほしいけど、最近どころかセレナは昔からずっと可愛いわよ」
まるで愚問に呆れるようにため息を吐くリリス。そして最後になぜか自慢気に胸を張った。お前はセレナの何なんだ一体。
「そんなことはわかってる。これはただの言葉の綾だ。そんなことセレナの婚約者である俺が一番理解している」
俺の言葉にリリスはピクリと眉を動かした。
「なに、そのマウント? 婚約者だからどうしたの? 私は大親友なんですけど」
「お前こそマウントしてるだろう。というか前から思っていたが、お前、セレナのことが好きすぎじゃないか?」
以前からコイツがセレナのことを一番の親友だと思っているのは知っている。だがどうも最近、その愛が親愛以上になっている気がするのだ。
「えぇ、そうですが何か?」
開き直って肯定するリリスに、俺はため息を吐いて話を変えることにした。今更自明なことを語っても意味がない。それよりも目の前の問題だ。
「まぁいい。そんなことより、このままではセレナに近づく男が増えてしまう」
「あなたは王族なんだからそんなこと気にしなくても大丈夫でしょうに」
「それはそうだが……」
リリスの言う通り、俺は王族だ。単純に権力を使っての婚約者の取り合いになれば、有利なのは俺だ。
王族の権力を濫用するようなことはしたくないが、それでもセレナを奪われないためなら、俺はどんな力だって使うだろう。
だが、それでも心配なことはある。
「セレナのことを疑うわけではないが……それでも可能性の話として、言い寄られれば気持ちが傾いてしまう可能性がある」
「…………あの子なら万に一つもないでしょ」
何か重要なことを言われたような気がしたが、声が小さかったので聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「なんでもない。せいぜい悩みなさい」
尋ねてみるもはぐらかされた。こういう時、リリス・ドラクシスという人間は何度聞いても教えることはないとわかっているので、俺は元の話題へと戻った。
「国内の貴族なら俺の力でなんとかなる。しかし世界は広い。他国の王族がうっかりセレナと出会って、一目惚れしないとは限らないだろう」
「あのね、心配もいきすぎると妄想よ? それこそ大丈夫でしょう。他国の令嬢、それも王族と婚約しているセレナにプロポーズした瞬間、即国際問題だもの。普通に考えてセレナに婚約を申し込む人間なんていないわよ」
「そうだな……」
その時は一旦リリスの言葉を肯定したが、二年生に進級するなり、妄想呼ばわりされた俺の予想は当たってしまった。学園内に「公爵家とお近づきになりたい」という名目でセレナに近づく令息が大量にいたのだ。厄介なことに、セレナは自分が人気があるということに気がついていなかった。あれだけ自信があるのに、他人からの評価に関しては自意識が低いところがあるのだ。
だが、それもまだいい。セレナを狙う令息たちを撃退するのは容易だったからだ。
しかし、それまでのセレナとの関係が変わってしまう出来事が起こった。
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