55話
私は国王の言葉に驚愕した。
なぜ私がプロポーズを断ると戦争になるのか全くわからなかった。
「それは私から説明致しましょう」
国王の背後に控えていた宰相が説明を引き継いだ。
宰相はメガネを指で押し上げて説明を始める。
「現在、レイヴンクロフト王国とシルヴァンディア王国の関係が悪化していることは知っていますか」
「はい、それは……」
「それなら話が早い」
宰相はニコリと笑う。
「あちらの国との関係が悪化している今、このプロポーズを断るとさらに悪化させる可能性があります」
「ですが、私には婚約者がいるのですよ?」
「それは関係ありません。シルヴァンディア王国の王族の求婚が断られた、という事実が重要なのです」
「事実が……?」
「王族が婚約を申し入れたのに振られた、となるとあちらの面子が立ちませんから」
「ここでも面子ですか……」
先日、ノクスが言っていた面子の話を思い出す。
「今、我らレイヴンクロフト王国は王族の血を取り入れているシュガーブルーム家の家格を落としたことにより、シルヴァンディア王国の王族の面子を潰している状態です……まぁ、我々としては潰したとは思っていませんが。この状態でさらにあちらの王族に恥をかかせたとなれば、国同士の関係が最悪、という言葉が似合うほどに悪化するのは想像に難くありません」
そこでノクスが割り込んできた。
「そもそもの話として、このプロポーズ自体、ミシェルの意思ではないという可能性もある」
「ええ、その通りです、ノクス様」
ノクスの言葉に宰相が首肯し、私にまた向き直る。
「プロポーズが、ミシェル様の意思ではないと?」
私の疑問に対して、宰相は「あくまで仮定の話ですが」と言葉を返す。
「このプロポーズがミシェル王子の意思ではなく、国王の意向だった場合、これはあちらの国からの『関係を改善したいなら婚約を受けろ』というメッセージだと解釈できます。ちなみにこれが最悪のパターンです」
「最悪のパターン、ですか?」
「もしそうならプロポーズを断った場合、両国に決定的な亀裂が生まれることになりますので」
「あっ」
「おわかりいただけましたか。最悪戦争に……とはそういうわけです」
「シルヴァンディア王国の国王と、ミシェル王子の兄、第一、第二王子は三人とも好戦的な性格だ。この婚約を無下に断れば戦争に発展する……とは言い切れないが、可能性は高い。それになぜか最近、あちらの貴族たちの間で、レイヴンクロフト王国に対する悪感情が高まっているらしくてな。もしこの件が彼らに知られれば……世論に突き動かされて戦争が起こることは珍しいことではないのだよ」
私はそこでミシェルがシルヴァンディア国王は第一王子と第二王子の権力争いを擁護している、と言っていたことを思い出した。
「だから婚約を受けることはしなくても、少なくとも考えるフリはしなければならん」
国王が言葉を挟む。
「王子が他国の令嬢に婚約を申し込んだ時点で、すでにこれは単純に個人間同士で済む話でなくなり、国際問題になっている。まだ誰も知らなければ内々に終わらせることもできたかもしれないが、あれだけ貴族がいる公の場で婚約を申し込んだ以上、なかったことにはできない。あちらもそれが狙いだったのだろう」
国王の言う通り、あれだけの衆人環視のなかで婚約を申し込んだのは、ミシェルの計算によるものだろう。
信じたくなかった。わかりあえたと思ったミシェルがこんなことをするなんて。
「どうすれば……」
どうするのか答えが知りたかったが、宰相は目を伏せて首を横に振った。
「ここで結論を出すことはできません。この決断によって国の未来を左右することになりますから、少し時間が必要です」
「どちらにせよ、婚約の解消は確定ではない。ひとまずは安心してほしい」
国王のその言葉によって、話は締めくくられた。
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