コミック発売記念SS『試験勉強』
『貴方に未練はありません!』のコミックス1巻が発売されました!
蒼空ユキヤ先生の可愛らしい絵柄のセレナたちが本当に素晴らしいので、ぜひ皆さん見てください!
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マリベルが禁薬を使った事件から数ヶ月が経った頃。
この季節がやって来た。
「うぅ……憂鬱……」
「一体どうしたのよ、そんなに暗い顔して」
教室の中、ため息をついていると隣にいる私の親友……リリスが声をかけてきた。
「だって、そろそろあれの時期でしょ?」
「あれ? ああ……試験のことね」
「そう、それ……」
私は更に憂鬱な表情でため息をつく。
私達が通う学園には、定期的に学んだことを確認するための試験がある。
試験は全学年で一斉に行われ、貴族平民関係なく成績の順位が張り出される仕組みになっている。
そこで成績などが将来にも影響してくるので、一切気が抜けないのだ。
特に公爵令嬢になった私には、それ相応の成績が求められる。
貴族の中で一番爵位が上の私が中途半端な成績を取っていたら、色んな人に対して面目が立たないのだ。
「毎年この時期になると憂鬱なんだよね……」
「私はそうでもないけれど。毎日コツコツと勉強してきたから」
「うっ……」
そう言われれば返す言葉もない。
私もコツコツと勉強はしてきたが、色々と事情があってできてない日や、面倒くさくてしない日もある。
休日は公爵令嬢だから公務とかもあって、勉強する時間を取れないときだってある。
それは同じ公爵令嬢であるリリスだって一緒なはずだけど、それでも毎回いい成績を取ってくるので言い訳もできない。
「そもそも、私勉強はあまり好きじゃないんだよね……」
「あらそう? ちゃんと積み重ねればそれに応じた手応えがあって、気分や感情で裏切られないところとか、すごく良いと思うんだけど」
「勉強が好きな理由がちょっと怖いよ……」
我が親友は一体どんな経験をしてきたのだろうか。
想像するのはちょっと怖いので一旦置いといて、私は改めて憂鬱なため息をつく。
「今回は私、成績を上げないといけないんだよね……公爵家になってから初めての試験だし」
今回の試験は公爵令嬢になってから初めての試験となる。
前回の成績は大体50位くらい。
悪いどころか良いと言える成績だけど、公爵令嬢である私にはもっと上の順位が求められる。
リリスのように毎回5位以内に入る、というのはできないかもしれないけれどせめて20位以内には入らないと。
いつもは成績についてあまり口出ししない両親も今回は成績については厳しめだ。
「ねぇリリス……手っ取り早く20位以内を取る方法って無い……?」
「無いわね。今からコツコツ積み上げなさい」
「そんなぁ……」
いつもは優しいリリスも私のためを思って厳しい言葉を言ってくれている。
「でも、このままじゃ20位以内に入れるかどうか分からないんだよね」
リリスは私の言葉に顎に手をついて考え始めた。
「それなら……勉強会をしない?」
「勉強会?」
「そう、図書館とかカフェとかで一緒に勉強するの。一緒に勉強すればモチベーションの維持にもつながるし、わからないところは教え合いできるし、効率的でしょ?」
「図書館、カフェ……」
私はその光景を想像してみる。
独特の雰囲気がある図書館の中で勉強したり、カフェでカフェラテやケーキを食べながら勉強したり……それって、すごくおしゃれだ。
「勉強会、する!!」
「そう、なら今日は図書館で一緒にしましょうか」
リリスはもしすぐ近くに男性がいたら確実に見惚れていたであろう、女神のような優しい笑みを浮かべる。
私のためにこんなことを考えてくれるなんて、本当にリリスは優しいなぁ。
でも、小声で「よしっ、これで遅くまで一緒にいれる……!」って声が聞こえたのは気のせいかな?
***
そして放課後。私とリリスは図書館へと移動してきた。
これは私の個人的な感想だけど、図書館には独特の勉強したくなるような雰囲気がある気がする。
空いてる席に座って本を開くと、私とリリスはしばらく勉強へと没頭した。
約1時間後。
「うーん、集中したなぁ……」
「そうね、あまり根を詰めても長続きしないし、ここで一旦休憩しましょうか」
私とリリスは休憩に入る。
「ここにいたのか」
するとそのとき、聞き慣れた声が後ろからやってきた。
私は振り返ってその声の主の名前を呼ぶ。
「ノクス様」
「ちっ」
あれ、リリス今舌打ちした……?
「試験の勉強をしているのか?」
「はい、次の試験ではいい成績を取らないといけないので」
「ああ、なるほど。それなら俺も一緒に勉強するとしよう」
ノクスは私の隣の椅子を引いて腰掛けようとする。
しかしそれをリリスが遮った。
「いいえ大丈夫よ。私がいるから」
リリスの言葉にノクスは余裕の笑みを返す。
「だが、毎回1位を取っている俺がいた方がセレナにとっても良いんじゃないか?」
「くっ……!」
ノクスの言うことにも一理あり、リリスは悔しそうな表情になった。
そう、ノクスはいつも試験では1位を取っているのだ。
もし勉強を教えてもらえるなら、これ以上ない適役だと言えるだろう。
「……決めた。今回は1位を狙うわ」
「ああ、そうするといい。俺も背中を追われている方が楽しいからな」
「あ、あの二人とも……」
静粛な雰囲気の図書館にピリッとした空気が漂った。
それから競うように二人は勉強に没頭し始めたため、予想外に私も勉強が捗った。
***
それから試験に向けて、私達の勉強会が始まった。
ある日は食堂のカフェテラスで勉強したり、ノクスのいない日はジュリエットを加えたりしながら勉強会を行った。
それに加えて、毎日夜遅くまで夜ふかしして勉強に取り組んだ。
その甲斐あってか、私もかなり勉強に対して自信がついてきた。
そして試験が三日前まで近づいてきた。
「ごめんなさいセレナ、今日はどうしてもはずせない用事があるの」
「大丈夫だよリリス、ちゃんと勉強できるから」
今日は公爵令嬢として仕事があるらしく、勉強会はリリス抜きになることになった。
ノクスと並んで図書館で勉強する。
毎日遅くまで勉強して寝不足気味だった私は……少しウトウトとしてしまった。
「眠たいのか?」
「……少しだけ」
私がそう言うとノクスは椅子から立ち上がった。
「セレナ、今日はもう帰ろう。このまま勉強しても効率が悪い」
「わかりました……」
ノクスの言う通りだったので、私は今日の勉強を切り上げて帰ることにした。
帰りの馬車の中。
ウトウトとしていると、ノクスが囁くように声をかけてきた。
「使ってもいいぞ」
「……申し訳ありません……」
ノクスが肩をぽんぽんと叩く。
その時、眠くてあまり正常な判断ができていなかった私は、いつの間にかノクスの肩に体を預けていた。
***
体が揺れるような感覚で目が覚めた。
目が覚めるとそこにはノクスの顔。
「セレナ、起きたのか」
「……へっ」
目の前にノクスの顔がある。
もしかして私……抱きかかえられてるっ!?
私は今、ノクスにお姫様抱っこをされていた。
そして私を抱きかかえたまま、私の家の屋敷の廊下を歩いているようだった。
廊下ですれ違うメイドが私とノクスを見てきゃあきゃあとはしゃいでいる。
「わ、私、もしかして寝て……」
「気にするな、俺が運びたいと思っただけだ」
「いや、でもその…………重くありませんか?」
顔を真っ赤にしながら絞り出すような声で尋ねる。
「むしろ軽い」
私の部屋に入ったノクスは、ふわりと優しくベッドの上へと下ろす。
「あ、あの……」
「勉強するのはいいが程々にな。体調を崩すと俺が悲しい」
ノクスはそう言うと私へと顔を近づけて……額にキスを落とした。
「それではまた明日」
部屋から出ていくノクス。
びっくりしすぎて声が出なかった私は、そのままノクスを見送ることになった。
その後、私のお付きの双子のメイドから凄く問い詰められる事になった。
頑張った結果試験の結果はもちろん良く、自分でも初めて20位以内に入るという快挙を達成したのだった。




