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薬師

情報屋のブラッドに脅されはしたが、ジェシーは持ち前の楽天的な性格から、製造ギルドの実習のことを楽観視していた。

薬師といえば、病気を治す薬を作る立派な職人なんだから、いくらなんでもそう酷いことにはならないだろう、そう思っていた。


そう、思っていたんだけど……


目の前のゴミ屋敷を見て、本当にここが薬師の家なんだろうかと、唖然としている。


ジェシーにこの家のことを教えてくれたおじさんは、遠くの方から「そこで間違いないぞ」と手振りで知らせてくれていた。

マジですか。


おじさんが近くまで来ないのもよくわかる。さっきからジェシーの鼻がもげそうな凄い臭いがしているのだ。

家の煙突からは、モクモクと黒っぽい紫色の煙が上がっているし。その煙は狭い煙突だけを通るには量が多すぎるのか、家の窓の隙間からもなんとか外へ出ようと漏れ出てきていた。


家の周りの地面には足の踏み場がないくらい、煮たり焼いたりしたような草が放ってある。たぶん薬の成分を抜き出した後の薬草の慣れの果てなんだろう。それを長年繰り返していたのか、土がヘドロのような色をしていた。



突然、ジェシーが立っていたすぐ前の窓がガタピシと音をさせて開けられると、ガラガラ声が聞こえてきた。


「ゲホゲホッ、あー嫌だ。この薬だけは作りたくないって、あんなに言ったのに。キルルゴに値段をふっかけてやる」


老人はぶつくさ言いながら、手に持っていたザルの中身を、今にも外に放ろうとしていた。


え、こっちに投げる気?!


「ま、待って! ちょっと避けますから!」


ひえぇ、私がいるのに。目が見えていないのかね、このばあさん。

ジェシーは慌てて安全な場所まで後ずさった。


「おや、誰かいたのかい?」


「ええっと、私は学校から薬師見習いの実習にやってきました。ジェシーといいます」


ばあさんはジェシーが言ったことを聞くと、何かを思い出そうとしているかのように首を(かし)げて、片手で白髪の頭をクシャクシャとかきむしった。


「んー、学校だの実習だのって何のことかわからないね。でも薬師見習いっていうんなら、あんたは私の手伝いをしてくれるってことさね。なら、そんなとこをウロウロしてないで、さっさと家の中に入ってきな!」


「は、はいっ」


ばあさんの勢いに押されてジェシーが玄関ドアに飛びつくと、後ろで濡れて重たそうな物が地面にベチャッと落とされた音がした。

あ~、結局あそこへ捨てるのね。



家の中に入ると、外よりも濃厚な臭いにムワッと包まれて、ジェシーは頭の中が痛くなってクラクラしてきた。なんだか目も霞んできたような気がする。


「あーあ、あんたも難儀な時にやって来たもんだよ。ほら、この薬を飲みな。少しはマシになるよ。……少しだけどね」


ばあさんに渡されたコップの中の飲み薬は、白く光っていた。

普段ならこんな怪しげな薬など飲まないだろうが、頭がぼんやりしていたことと、薬が光っていたことから、何かの魔法薬なんだろうと思って、素直に飲み干した。


「ふーん、何も聞かないで飲んだね」


「えっ?! なんかヤバいもんでも入ってたんですか?」


なんだよ、このばあさん。私を毒殺でもするつもり?!


ジェシーがおののくと、ばあさんはしわくちゃの顔をぐしゃりとゆがめて、おもしろそうに笑った。


「ふぁっふぁっ、いまさら心配してももう遅いやね。ふーん、でも顔色がもう戻ったよ。あんた、魔力持ちかい?」


ジェシーの胸がドキリと鳴った。

魔力らしきものが芽生えたことは、まだ誰にも言ったことがない。魔力を宿しているものが光って見えたり、突然男に変身したりするのが、どの魔法区分に入るのかよくわからなかったというのもある。

でもそれだけではなく、下手に話して気味悪がられるのも嫌だった。


「そう警戒しなくても、魔力があるからって、あんたに何にもしやしないよ。あんたは私より魔力量が多いんだろうさ。その証拠に、魔法薬の効きがいいだろう。もう目も霞んでないし、頭痛も治ったんじゃないかい?」


「あ、そういえば頭がハッキリしてる」


この家に入る前から吐きそうになっていた臭いも、あまり臭わなくなっている。


「おー、よく効く薬だ」


「当たり前さ。このヴェルカばあさんを誰だと思ってるんだい」


「さぁ? 実習をここに決めた時も、誰が薬師をしてるのか知らなかったので」


ジェシーがそう言うと、ばあさんはズッコケた。


「あんたねぇ……まぁ、いい。この家の中に入って平気な顔をしていられるんなら、あんたは薬師に向いてるってことだよ。薬師見習いだなんだのといっても、薬草の蒸された臭いに耐えられないようじゃ、薬のレシピを覚えるどころか、スタートラインにも立てやしない」


ああ、そうなんだ。

ブラッドはアレコレ言ってたけど、そういう理由もあって、薬師見習いが居つかないのかもしれない。


「イッヒッヒ、それじゃあ今日から無料の掃除婦と料理人が確保できたことだし、やっと文明的な生活が送れそうだねぇ。あんた、ジェシーとかいったかい? まずは買い物をしてきてもらおうか」


……やっぱり噂通りじゃん。

ジェシーは肩を落として、しぶしぶ師匠の言葉に従うのだった。


これって、本当に薬師見習いの実習になるんだよね??

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