遺物の性能
ピュリンガ遺跡の宝箱から出てきたカバンと魔法瓶は、ジェシーとミリアの探索生活をものすごく向上してくれた。
ミリアの魔法瓶から出てくるエナジードリンクは、疲れをとってくれるだけでなく温度調整もお手の物で、持ち主のミリアの意思をくんで、暑い日には冷たい水を寒い日には温かいお茶を出してくれる。
ありがたいよね。
それだけではなく、一度、ジェシーの手にかかってしまったその水が、赤く腫れていた指の逆むけの皮を治してくれたのには驚いた。
こうなるともうエナジードリンクというよりも、聖水といったほうがいいのかもしれない。
素朴なミリアは、この魔法瓶を神様か何かだと思っているらしく、家に帰ると棚の上に祀って、毎夜、祈りをささげているらしい。
ジェシーのカバンは、その魔法瓶よりもっとぶっ飛んだ性能のように思える。
最初ジェシーは、よく異世界もののラノベで読んでいた「異次元空間収納」だと思っていた。あのインベントリとかいわれてるやつだ。
カバンの中に容量無限大で持ち物が収納できて、中では時間経過もないから新鮮なものは新鮮なまま、温かいものは温かいままで保存されるという便利グッズ。
そう思いこんで使っている時は、確かにその性能が発揮されていた。
けれど、ピュリの実をカバンから取り出している時に「前世で食べてたイチゴジャムをのせて焼いたクッキーが食べたいなぁ、このピュリの実で作れるかなぁ?」などと食欲満載の想像をしていたら、なんと手にクッキーが握られて出てきたのだ。
これにはギョッとした。
その時はたまたま家の台所にいたので、誰に知られることもなかったが、あれが冒険者ギルドの買い取りカウンターだったら、大騒ぎになっていただろう。
意を決して食べてみたら、そのクッキーはピュリと前世のイチゴクッキーが合体して出来上がったような味だった。
どう思う? おかしいよね。
自分が欲しいものを取り出せるカバン?
ちょっと背筋がブルッとしたのは、ジェシーだけの秘密だ。
人の欲望というのは限りがない。
このカバンは用心して使わないと身を亡ぼすな、とジェシーは思った。
そしてこのことを踏まえると、ミリアの持っている魔法瓶にも、もっと機能が隠されているのかもしれない。
よく魔法は想像力だと聞くけれど、ミリアの願いが素朴なので、あの魔法瓶は今のところおとなしくしている。そんな気がするのだ。
ジェシーとミリアは宝箱から遺物を拾得した時に、このことは二人だけの秘密にしようと話し合った。
子どもがお宝を持っていると、たぶん大人に取り上げられちゃうからね。
だから、カバンや魔法瓶は、外側を粗末な布で覆って使っている。
大人になって、堂々と使えるようになるまでは、隠し通すつもりだ。
けれど目ざとい人間はどこにでもいるものなのだろう。
今日、ジェシーとミリアは服屋に買い物に来ていたのだが、その様子をこっそりと見ていた人がいるようだ。
魔法瓶とトンデモカバンの恩恵もあり、森での収穫が増えた二人は、懐があたたかくなったこともあって、とうとう冒険者用グッズを揃えることにした。
ミリアはこの日を楽しみにしていたらしい。
「しっかりとしたクツと、皮のむねあてがかえてよかったね。でも、子どもようのぼうぐがなかったから、注文になったのがざんねんだなぁ。すぐにほしかったのに……」
「仕方がないよ。ここは田舎だから大きな町のように防具屋さんはないし、あそこの服屋のおばさんが、片手間にそういう物も売ってるんだから、注文生産もやむなしだね」
「ふふ、でもこのクツはしっかりしてていいね。わたし、だれかのお下がりじゃないクツをはくのって、はじめて!」
おぅ、ミリア。なんて健気な奴なんだ。オジちゃんがなんでも買ってあげるよ。
そんな気分になってくる。
ジェシーたちが食べ物を売っている屋台の方に向かっていた時だ。
何か風が吹いて、身が軽くなったような瞬間があった。
ジェシーは気づかなかったが、ミリアはすぐに異常に気づいた。
「あっ、わたしの水とうさまがない!」
それを聞いて、ジェシーもすぐに自分の肩掛けカバンに手を当てた。けれど、手には自分の瘦せた身体が触れただけで、いつも掛けているカバンの重みはどこにもなかった。
「スリだっ。誰か! スリがいる! 泥棒ー!! 泥棒ー!!」
ジェシーはすぐに大声をあげた。
「あ~、神さまぁ。だれか、たすけてーー!」
ミリアの声は半分泣き声も混じった悲鳴になっている。
ジェシーたちが騒いでいる声を聞きつけて、大勢の人がやってきた。その中にいつか見たことがある、ピカピカ光るお姉さんが混じっていた。
そのピカピカのお姉さんはジェシーのそばに来ると、急いた声で尋ねてきた。
「どうした?! 何を盗られたんだ?」
「カ、カバンと、水筒です。何か風が吹いてきて……あ、あれって、もしかして魔法?!」
そばに人はいなかった。
動転していて気づいてなかったが、あれはスリなんかじゃなくて、魔法使いの仕業に違いない。
ジェシーの言葉を聞いて、光るお姉さんはニヤリと笑ったかに見えた。
「ヨシッ、見つけたぞ!」
お姉さんが周りを見回すしぐさにつられて、ジェシーも人ごみの向こうを見ていくと、うっすらと光る影が建物の屋上を走って行くのが見えた。
「あそこだ!」
ジェシーが指さした方をお姉さんもすぐに見止めたようで、背中に背負っていた弓を静かに構え、影に向かって、すぐさま矢を放った。
キラキラと輝く銀色の矢は、スパークを放ちながら一直線に影に向かっていった。
ぐらりと影が揺らいで建物から真っ逆さまに落ちていくのを見て、お姉さんの矢がしっかりと的を射たのだということが、ジェシーにもわかった。
集まってきていた人たちも、大きな音を立てて屋上から降ってきた男を見て、すぐさま皆で取り囲んでいった。
「スゲー、一撃だったぜ」
「あの姉ちゃん、何者だ?」
周りの人はザワザワとうるさかったが、お姉さんはそれを歯牙にもかけず、真っすぐに男の方へ向かって行った。そしてうつ伏せに倒れていた男の身体をひっくり返すと、じっと顔を見ていた。
「やれやれ、変装はしているがこいつはウルボに間違いない。これでやっと家に帰れるぞ。おい、そこの子たち。このカバンと水筒で間違いないか?」
お姉さんが男の身体から取り返してくれたカバンと水筒を見て、ジェシーとミリアはホッとした。
「あー、わたしの水とうさまぁ」
「はい、私たちの物で、間違いありません。よかったぁ~。お姉さん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
二人がお姉さんに頭を下げると、お姉さんは嬉しそうに笑っていた。
「こうやって盗られた物を返せるのは、こいつを追いかけ始めてから、初めてのことだよ。よかったな、二人とも」
「「はいっ!」」
後から町の噂で知ったのだが、ジェシーとミリアがお世話になったあのピカピカ光るお姉さんは、王都から来た警察局の人だったそうだ。
なかなか捕まらない指名手配犯を追って、ずっと旅を続けていたらしい。
それであの時、肩の荷を下ろしたような顔をしていたのだろう。
ああいう魔法使いのコソ泥は滅多にいないそうだけど、これからはもっと気をつけなきゃいけないなとジェシーは思ったのだった。




