仕事内容
最初に見た時には気づかなかったが、事務所の中は低いファイル棚で四つの部署に分かれていた。
「あっちの島は運輸や商品管理担当。そっちの島は商店担当。そこの島は経理をしたり商業ギルドなんかにも対応してるけど、いわゆる全体をまとめる総務的な役割ね。そして私たちの所は、なんと貴族担当なのでしたー」
周りを指さしながら、事務所内のことについて教えてくれているメスカルは、赤い髪のおしゃれなおねぇ、いやお兄さんだ。
品のいいスーツを着ているが、髪の毛は男性としてはちょっと長めで、毛先が肩に届くかどうかぐらいのふんわりしたセミロングになっている。
私たちの所と紹介されはしたが、机に座っているのは当の本人とジェシーだけだ。
いつもは一人で仕事をしているらしく、ここの島は他の島に押されて、机一つだけの小さなスペースしかない。積み重なっていた木箱をよけて、やっとジェシー一人分の椅子を置くことができた。
この部署は島流しというか、ちょっと特殊な環境のようだ。
しぶしぶ実習生を受け入れた会長からしてみれば、体のいい厄介払いができてよかったのかな。
しかしこの人、話し方や身体の動かし方が独特だなぁ。こんなにテンションが高くて疲れないのかしら。
ジェシーの想像をよそに、メスカルの説明は続いている。
「私は、この町の商店では仕入れられないような品を領主様や、近隣の村にある男爵家などに納める仕事をしているの。一部、騎士爵家とも取引があるわ」
「そうなんですか。店を介さずに直接、訪ねて売り買いするわけですね」
「そうよ、よくわかっているじゃない。まさか学校の生徒が貴族担当所属になるとは思わなかったけど、あなた、もしかして貴族の娘さんか何か?」
「いいえ、違います。私は冒険者の娘です」
「なぁんだ、そうなの。私が把握してない貴族が町にいるのかと思って、ちょっとビビっちゃったわ」
メスカルによると、今日の仕事は、さっきジェシーの椅子を置くためにどかした木箱を開けて、伝票を見ながら、中の品物を取引先ごとにまとめていくことらしい。明日はこの品物を持って、貴族家にお宅訪問する予定なんだそうだ。
「荷物持ちが来てくれて助かっちゃった。よろしくね、ジェシー」
そう言われたのだが、非力な六歳の女の子が、一応大人の男であるメスカルの助けになるのだろうか?
そんな不安を抱えて木箱を開けてみると、中には思ったよりも軽そうな物ばかりが入っていた。
これは、女の人が使うアクセサリーやバッグがほとんどだな。なるほど、軽いけど繊細な扱いが必要なものばかりだから、梱包材に布や木くずがたくさん入ってたのね。
確かに貴族御用達なのだろう。ジェシーの母親の店に並べてあるものとは、値段が何ケタか違うようなものばかり出てきた。
「あ、その日よけ帽子はこっちによけといて。うちのお嬢様のだから」
うわぁ、あごに結ぶ紐がフリフリの総レースだ。へぇ、アンジェリカって、こういうのか趣味なのね。
だいたいの仕分けが済んだ後は、伝票の処理や請求書の記入などがある。
メスカルに計算ができるかと聞かれたので、できると言うと、それぞれの家ごとの伝票計算をさせられた。
ジェシーが計算をしている間、メスカルは請求書を書いたり、上質な紙を使って手紙を書いたりしていた。なんせ机が一つしかないので、やってることは丸見えだ。
「メスカルさん、計算が済みました。確認をお願いします」
ジェシーが伝票の束と計算表をメスカルに渡すと、メスカルはペンを置いて顔を上げた。
「あら、もうできたの? 早いわねぇ。ふんふん……合ってるようね。へぇ、使えるじゃない。ジェシーのおかげで、お昼休憩に早く入れそう」
メスカルがそう言って褒めてくれた時のことだ。
奥のドアがバタンと開いて、聞きたくない声が聞こえてきた。
「失礼します。メスカル、帽子が届いたんですって?! 見せてくださる?」
ガーン、学校が終わったか。
そこには期待に顔を輝かせたアンジェリカが立っていた。
「ふふふ、お嬢様の期待通りのものがきてますよ。ジェシー、そこの帽子をこちらへ持ってきて」
「……はい」
ジェシーが帽子を差し出すと、アンジェリカがそれをサッと取って、頭にかぶった。
「どうかしら?」
「ピンクのリボンが髪の色とマッチして、お似合いですわ~」
メスカルがおだてる言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んでいたアンジェリカは、お前はどう思うかとジェシーの方を向いて目で問うてきた。
やれやれ、言うんですね。言えばいいんでしょう。
「おじょうさま、こちらをどうぞ」
フンッ、言ってやったぞ。これで満足しろ。
ジェシーがそばにあった手鏡をグイッとアンジェリカに押し付けると、ジェシーのその態度や言い方が少々不満だったようだが、今回はこれで収めることにしてくれたようだ。
プライドの高い奴だぜ、まったく。
次の日、ジェシーは仕事で領主邸に行くことになるのだが、そこで思いがけない人と会うことになるのだった。




