表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/43

ハルシラセ

今日は空気の中に春の匂いがする。

ジェシーとミリアは暖かな日差しを浴びながら、ウエスト・フォレストに向かって歩き出した。


ルースの町を十字に走る主要道路は、時の塔がある町役場前広場を中心に東西南北へ伸びている。冒険者ギルドをはじめ学校、町役場、商業ギルド、製造ギルドなど、主要な建物は全部、町の中心に集まっている。


商業ギルドがある北側の道にはたくさん商店が並んでいるし、東に向かう道の角には冒険者ギルドが建っている。ジェシーたちはこの冒険者ギルドの建物を出て、広場を横断し、角っこに製造ギルドがある西側の道の方へと向かった。

西地区には職人が多く住んでいるので、ジェシーの家もおじいちゃんの家もこっちの方にある。



「いいおてんきになってよかったね」


「そうだね。雨だとちょっと森の中へ入りたくないよ。それはそうと、今日は何から採取していく? 最初は軽いものからがいいよね」


「うん、このあいだ先生におしえてもらった、マンダリン草がいいんじゃない? あそこにはまだいっぱいあったし」


「賛成~。あそこの群生地はちょうど森の真ん中ぐらいだったから、あそこから始めて、薬草とかが生えていそうな方へ歩いて行ってみるのもいいね」


そんな相談をしながら町を出た二人は、実習の時に通った林道に沿って、森の中へ入って行った。

鬱蒼(うっそう)とした木々の間を歩いていると、湿った土の匂いや針葉樹の尖った爽やかな香りがして、気持ちが落ち着いてくる。

しばらく行くと広葉樹が増えてきて、木々の間隔が空き、草地が見えてきた所にマンダリン草の群生地があっ……あれ?


「ミリア、前にマンダリン草を採ったのって、このへんだよね」


そこには草が踏み荒らされた後だけがあって、マンダリン草は一本も残っていなかった。


「ひどい。これって男子がやったんじゃない?」


「ミリア、ごめん。私がギルドに行くのが遅くなっちゃったから」


ジェシーが謝ったが、ミリアは踏み潰された花の茎を手で起こしながら、プンプン怒っていた。


「ジェシーのせいじゃ……いや、でおくれたのはジェシーのせいなんだけどさ。これはひどいよ。こんなとりかたをしてたら、こんどからここにマンダリン草がはえなくなっちゃう」


「そうだね、乱獲をし過ぎたら自分で自分の首を絞めるようなもんだし」


「ジェシーって、むずかしいことばをつかうよね。わたしたまに、ジェシーがなにをいってるのかわかんないときがある。はぁ~、学校をでて村にかえったときに、ちびちゃんたちにべんきょうをおしえられるかなぁ」


ちょっと落ち込みかけたミリアを励ましながら、ジェシーは次の採取場所をどこにするか考えた。


このまま林道沿いに歩いても、実習の時に行った採取場所は男子が先回りしてそうだな。


うーん。

ジェシーが唸りながらぐるりと周りを見渡していると、遠くの方にチラチラと揺れる光が見えた。


「あ、あっちに何かありそう。ミリア、行ってみよう!」


「え、ちょっとまって」


しゃがみ込んでいたミリアが立ち上がるのを待って、ジェシーたちは光が見える方へ歩き出した。


朽ちて苔むしていた太い倒木を避けてぐるりと迂回し、そのまま光を目指して足早に歩いて行くと、オレンジのような大きな実がなっている木が何本か生えていた。その周りを銀色に光る蝶が飛び回っている。


「あれぇ、ハルシラセだ。たくさんなってるねぇ」


「ハルシラセって、あの果汁がたっぷりの蜜柑?」


「うん、これあまくておいしいよねー」


ミリアはそう言いながら、早くもハルシラセを手に持って、ヘタのところをグルグル捻じりながら、もぎ取っている。ジェシーも一つもいでみようと枝を引き寄せたら、枝に生えていた長いとげが手に刺さった。


「いてっ」


「アハハ、みかんの木にはたいていとげがあるからきをつけなくちゃ」


こういうところは、山の植物に慣れているミリアに一日の長がある。ジェシーはミリアに聞いて、落ちていた木の枝を使い、とげに触らないように収穫する方法を習った。


「やったー、たいりょうだー」


背負子のカゴいっぱいに採れたハルシラセを見て、やっとミリアの機嫌がなおった。


「これって、くだものやさんにうれるよね」


「たぶんね。でもなんか冒険者ギルドの仕事っぽくないかも。ついでにあの光ってる蝶々も獲っていく?」


「ひかってる? アゼハちょうはくろいよ」


ミリアに言わせると、ひらひらと木の間を飛びながらハルシラセの葉の裏に卵を産み付けている蝶は、黒色をしているらしい。

ジェシーの目にはどう見ても銀色に光っているように見える。


この虫は……どうやら魔力持ちだね。

何匹か獲って帰って、何かに使えないかギルドのお姉さんに聞いてみよう。



このジェシーの判断は正解だった。

アゼハ蝶の鱗粉は、染色液を作る時に使えるらしい。


「春先にしか飛び回らないから、これからが旬の獲物なのよ。また獲れたらでいいからお願いね」


ギルドのお姉さんにそう言われ、ミリアに尊敬の目で見てもらうことができた。

やれやれ、やっと少し挽回できたかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ