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エリューシアが問えば、カリアンティは分かりやすく目を瞠って驚愕の表情を浮かべた。
「え…?」
「良くわからないけれど、貴方から何とも落ち着かない気配を感じるのだけど……でも悪意では、ない感じ……」
カリアンティがフッと表情を緩め、再び頭を下げた。
「御見逸れ致しました。
気づかないうちに無礼な態度を取ってしまっていたのでしょう、どうぞお許しください。
まずはエリューシア様に感謝を申し上げたく。
今日、この場所では本当にありがとうございました」
「御礼を言って貰う程の事はしてません。どうぞ気になさらず。
それに無礼な態度何て取られていません」
「はい。それでも、ありがとうございました」
そう言ってカリアンティは再び頭を上げる。
「それで急ぎお伝えしたい事が……」
「伝えたい事?」
エリューシアがアイシアを振り返るが、アイシアにも思い当たる節はないらしく、首を微かに横に振った。
「はい、あの後普通の授業にもどりましたが……とても、至極、心の底から本当に残念な事なのですが、バルクリス王子殿下がワタシの隣の席なのです。
それでメッシング令息とひそひそ話しているのを小耳に挟みまして」
馬鹿リス殿下にメッシング令息……あぁ、嫌な予感しかしない。
「どうやらラステリノーア家御令嬢であるお二人に興味を持たれた様子です」
「「「「!!!」」」」
今日あの時、バルクリスは無様に腰抜かしてたはずなのに、一体何時他を見る余裕があったのだろう。
というか野外という事もあり、明るい日光のおかげで髪の発光は見えなかったはずだし、精霊眼に気付かれるわけがない程、端と端に離れていた。
「もしかして……後始末をした時?」
カリアンティが頷く。
「あれは誰だ、あんなことが出来る者なら自分に相応しい……。そしてアイシア様の事も…あの美しさなら自分の隣にいる事を許しても良いとか何とか……」
(何てこと…。
あの短時間で馬鹿リスに目をつけられたというの……
えぇ、シアお姉様ですもの、当然至上の美しさよ。それを讃えるのは当たり前…だけど、私は兎も角、シアお姉様をそんな下衆な目で見るとか……万死に値する……)
「まぁ遅かれ早かれだろうとは思っていたけれど、思った以上に早かったわね…」
アイシアが盛大に溜息を吐いた。
「王子殿下がこっそりとではありましたが、メッシング令息にそんな耳打ちをしていましたので、そう遠くなくあの阿呆……失礼、メッシング令息が突撃してくるはず……急ぎお伝えせねばと思った次第です」
「そうだったのね…ありがとう」
ほぅと困り切った顔で、それでもカリアンティに礼を言うアイシアを見つつ、エリューシアは考える。
(カリアンティ・ゼムイスト……うん、やっぱり嫌な気配も何も感じないし、精霊達もいつも通りで変化はない。
そして何より『マジない』に出てきた記憶がないのよ。ヒロインに高位貴族令嬢の友達なんて、本編にもスピンオフ作品にも全くいなかったし、まずもって同姓の友達という配役そのものが居なかった。サポートキャラを友達と言うなら、それは確かにいたけれど、それだって男爵令嬢とか下位貴族が精々……。
それに高位貴族且つあの実力……易々とヒロイン側にどうこうされるとも思えない。
頭も良さそうよね……だって私達が王家と距離を取りたがってるのを察してくれたからこその行動でしょ? これ……。
なおかつ王家ではなく、あえて私達の方に注意を促してくれた……これはもう……マナーも問題は……あの庶民的な笑顔はどうかと思うけど、まぁ目を瞑れるでしょう。
うん、通常棟の情報もメルリナ以外でも欲しかったし、何より馬鹿リス王子とも幼馴染で一部とはいえ攻略対象とも近しい、だけど阿ってるわけじゃない。
全幅の信頼をまだ置くわけにはいかないけれど、なかなか良い人材なのでは……?
でもまぁ、突っついては見ないと…ね)
「お知らせくださりありがとうございます。
ですが……社交に出ていない私は勿論、姉アイシアからも貴方の名を聞いた事はありません。
何か思う所……ぃぇ、はっきり問いましょう。思惑、もしくは下心があるのではありませんか?」
「エルル、失礼よ」
アイシアが慌てて止めるが、問われた方のカリアンティは一瞬目を丸くしてから、二パッと気持ちの良い笑顔を浮かべた。
「うふ、それはまぁ……ですわね」
怒るどころか笑ってあっさりと認めたカリアンティに、アイシアだけでなくオルガも絶句している。メルリナは額を押さえて天を仰いでいたが…。
「その…正直にお話ししても構いません?」
「えぇ、どうぞ。飾る必要など一切ありません」
「……ふ、ふふ……お言葉に甘えますわ。
えぇ、えぇ、勿論下心たっぷり満載しておりました!
ワタシ、次女だと申しましたでしょう? しかも自分の事をあまり高位貴族令嬢に相応しい人間だとも思っておりませんの」
(いえ、とても、色々と高位貴族御令嬢に相応しいと思いますが? なんて突っ込みは野暮ですね、ハイ)
「ですので政略の道具にはなれそうにありませんの。というか婚姻など避けたいと思っておりますわ。
そうなると成人後は貴族籍を抜かれて平民路線まっしぐらなのですが、どうせなら楽してがっぽり稼ぎたいじゃないですか?
勿論この魔法力を生かして王城魔法士としての道も考えました。ですが王城魔法士と言えば激務且つ引き籠りだと聞きますでしょう?……流石にそれはちょっと…。
他には王城の侍女とか女官なんてのも、それはそれでアリかしらとも思ったのですけど、アレでしょう? ワタシも……あぁ、不敬とかは今は無しでお願いしますわ。
あの王家と付き合いたいとは思えませんの。
もう本当に幼い頃から、遊び相手にと王城へ連れていかれるのが苦痛で苦痛で……。
ですので、是非今から御縁を持たせて頂いて、卒業後は良い就職先の斡旋をお願いしたいのです」
「ぇ? 斡旋? 公爵家に就職希望ではなく、ですか?」
「あら、公爵家に就職希望でも宜しいんですの? まぁぁああ! 何という事でしょう! それは願ったりかなったりですわ!!」
ついエリューシアが不思議に思って訊ねると、両手を祈るように組み合わせ、キラキラとした笑顔で詰め寄られた。
「ぅぇ!? ぁ、っと……その…」
使用人云々の決定権をエリューシアは持っていない。それについてはアイシアも同じくなので、この場で不用意な発言は出来ない。
出来ないのだが……。
「なるほど…私の同僚希望という事ですね?
公爵家のメイドとして仕えたいという事であれば、学力、魔力は勿論、護衛としての腕も必要です」
「あらあらまぁまぁ! 大丈夫ですわ! ワタシ、いずれ一人で生きていくしかないと、幼き頃より馬術は当然のこととして、戦闘術も些少ではありますが修めております!」
あちゃぁと頭を抱えそうになったが、そこへあろう事かメルリナまで参戦。
「へぇ、カティが同僚ねぇ……良いけど、専属護衛は譲らないわよ」
こうなってはもう収拾がつきそうにない。
エリューシアはアイシアと顔を見合わせ、盛大に溜息を吐きつつ、少し赤味の増した空を見上げた。
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