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次、メインを少し離れて『狭間の物語』を予定しています。
いい加減『クリストファきもくない?』と思われているのではないかと心配になりまして……
ちょっぴり彼の事を書いておこうかと(笑)
ヒロインサイドの今もそのうち挟む予定です(すごく嫌がられそうww)
公爵家のボンボン令息とはとても思えない素早さで、ギリアンの右手を後ろに捻り上げ、そのまま足を引っかけて床、というか地面に払い倒して押さえ込んでいるのだ。しかもその表情は凍り付きそうなほど冷ややかである。
「ギリアン、君は仮にも侯爵家の者だよね? エリューシア嬢…御令嬢方にあまりに失礼な態度ではない?……あぁ、だけど、君に触れさせたりしない。指一本たりとも触れさせたりはしないよ?」
クリストファの静かな、だけど凍り付いてしまいそうな程の剣幕に、アイシア、オルガ、メルリナも目を見開いたまま固まっている。
エリューシアはどうすれば良いかわからず、ただ押し黙っていた。
「ギブ! ギブゥゥ!! ギブっつってんだろ!!??」
「君の態度が悪い」
「ッァアあああぁ! わかった、わかったって!! もう言わないから! 諦めるから放してくれって!!」
未だ暴れるギリアンを解放しないまま、地面に押さえ込んでいるせいでテーブル越しに見上げる形になったクリストファに、エリューシアが頷く。
それを機に、オルガとメルリナにも目配せし、ぎゅっとエリューシアを抱きしめて離さないアイシアにもそっと手を伸ばした。
「お姉様、ありがとうございます。もう大丈夫です」
「エルル……」
「こんな風に抱き締めて貰って、私とても嬉しかったです。こう幸せ~って言うんでしょうか…ふふ」
「ま、まぁ!! エルル、嫌ではない? 本当に幸せと?」
「はい!!」
「んまぁぁぁ、私の妹はなんて愛らしいのでしょう。はぁ、私も…お姉様もエルルをこうして抱き締められて幸せです」
「本当ですか!!??」
「えぇ!」
オルガとメルリナにはいつもの光景なので、ほっこり眺めていると、フっと小さく、本当に小さくだが吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
声の発信元に目を向ければ、クリストファがギリアンを抑え込んだまま微笑んでいる。
「! ぁ、し、失礼しましたわ。その……グラストン様、ありがとうございます。もう大丈夫ですので、そちらのメフレリエ侯爵令息様を放して差し上げてください」
「だ、そうだよ? 良かったね」
クリストファはギリアンに向かってそう言うと、あっさり拘束を解いた。
解放されてよろよろと立ち上がったギリアンは、まずエリューシアに向かって頭を下げた。
「えっと…済まなかった。俺、魔法とか魔具の事になるとつい突っ走ってしまうというか「暴走だね」うっさい! 許してくれると助かる」
途中突っ込みを入れるクリストファに目を吊り上げながらも、本当に悪かったと思っているようだ。
「はい」
「ほんとか!? はぁぁ、良かった…クリス怒らせるとマジで怖いんだよ、助かった」
エリューシアの返答にギリアンが大仰に胸に手を当てている。
「あ、お詫びっていうか、良かったらこれ、渡しとくよ」
何か思いついたようにローブのポケットを探り、ギリアンが取り出したのは鈍く光る銀色の鍵だった。
「俺が素材になる植物育てたくてさ、壊れかけで放置されてたこの温室をここまで修繕して使ってるんだ。あ、一応学院側にも許可は貰ってあるし、そこまでするなら管理もちゃんとしろって鍵渡されてさ。
アンタ達もあれだろ? 避難場所と言うか人のあまりいない場所探してたんだろ? 中から鍵もかけられるし、結構いい場所のはずだ。昼寝にももってこいなんだよ」
「宜しいのですか?」
少女たち側は互いに顔を見合わせてから、アイシアが代表して声を出した。
「あぁ、まぁ暇な時だけでも良いから、水やってくれたりしてくれたら助かるけどな。あ、あと兄貴に言いふらすなって言っといてくれ。あんまり知られると騒がしくなってしまうからさ」
アイシアが頷き、オルガが差し出された鍵を受け取った。
「ありがとうございます。私達も口外しませんわ」
「あぁ、頼むよ」
「それじゃ僕達は行こう」
クリストファがギリアンに声をかける。
「あ? 行くってどこへ」
「ギリアン、レディの食事風景を観察したいとか、品のない事は言わないよね?」
「ぁ」
そう、エリューシア達はお昼休憩の場所を探していたのだから、これから昼食なのだ。
「いや、だけど! 俺はまだ昼寝が!」
だが話を聞けば、この場所はギリアンがコツコツと作り上げた秘密基地のような物なのだろう。そこの主を追い出すというのは何とも心苦しい。
彼らが居なくなれば収納から昼食を摂り出すのも容易にはなるが、やはりこの場の占有権はギリアンたちの方にある。
「あの、食事は後ろを向いてという事も出来ますし、ここの主であるメフレリエ様を追い出すような真似は出来ません」
エリューシアが意を決してそう言えば、ギリアンを引っ張って歩き出していたクリストファが足を止めた。
「ん……じゃあ……そうだな、明日も来る?」
「ぇ?」
「明日も来てくれると嬉しいし、その時は一緒にお昼ご飯させて貰っても良いかな? あぁ、多分ギリアンも居るけど」
何とも拒否し難い言い方をして来る。
ここまで譲歩されてしまうと、フラネアという面倒があるとしても門前払いするのは躊躇してしまう。どうしたものかとアイシアを見上げれば、アイシアも困ったような顔をしていたが、ふっと苦笑に変えて頷いた。
「……ぁ、っと…はい」
エリューシアがアイシアの同意を得てそう答えれば、クリストファの笑みが深まった。
「ありがとう。じゃあまた後は教室で。明日は楽しみにしてる」
「ぉぃ、俺はまだ!」
「はいはい、行くよ」
「いや、聞けって! ちょ、おいいいぃぃいィィぃィぃ…………」
パタンと温室の扉が閉まり「中から鍵かけておくと良いよ」と微かに声が聞こえた後は静寂が戻ってきた。
「何だかおかしな事になってしまったわね」
アイシアの呟きにオルガがじろりとメルリナに視線を流す。
「え? 何? 私? 私なの?」
「自覚がないとは」
アイシアの言う通り、静かな場所を見つける事は出来たが、本当におかしな成り行きになってしまった。
明日からどうなるのかわからないが、とりあえずお昼ご飯にしてしまおうと、エリューシアは何もない空間に手を突っ込んだ。
「ちょ、放せって」
引っ張られていたギリアンだったが、温室からそこそこ離れた所で足を止めた。
「ぁ、あぁ、そうだったね」
クリストファがあっさりとギリアンを解放する。
「はぁ、結局名前もきけてないじゃないか」
「君自身もちゃんと名乗ってないでしょ? 明日自己紹介して名前は聞けば良いんじゃないかな」
「まぁ兄貴の同僚ってだけでわかるけどな。ラステリノーア公爵家、だろ? 妖精姫は勿論だが、深青の小淑女も初めて見たな」
足を止めた場所で温室を一度振り返ってから、クリストファの方へ向き直りゆっくりと歩き出した。
クリストファもギリアンの歩調に合わせて歩き出す。
「で、何事にもやる気を見せなかった君が変わったのは想い人のせいだって言うのは聞いたけど、妖精姫だとは聞いてなかったな」
「!!」
「いや、誰が見ても分かるでしょ? だけど、彼女の方は随分と淡泊というか…」
「まぁ彼女は僕の事を忘れて……るかどうかはわからないけど、それ以前に僕だと認識してないかもしれない」
「はぁ? 治療とか沢山して貰って一緒に遊んだりもしたんじゃなかったのかよ」
「いや、治療もして貰ったし、一緒に遊んだよ。だけど、ほら……変装してたからね」
「マジか……気付かれもしてないって…………まぁなんだ、強く生きろ」
フフっと寂しげに笑うクリストファは、遠く空を仰いだ。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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