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「ロザリエは旦那様の妹だったの。貴方達に私の家族の話はした事があったと思うけれど、旦那様の家族のお話はした事がなかったわよね。
旦那様……アーネストには兄君とロザリエという妹が居たのよ。お義母様に似てお美しい方でね。それにとても優秀だったわ。学院も主席卒業なさったのよ。
……だからあのゴミ王は側妃にロザリエを欲しがったの。
当然公爵家も私の生家である辺境伯家も、他の高位貴族家だって、心ある方々は皆反対してくださったわ。
だけどあのゴミは暴挙に出たの……お義父様お義母様を王城に呼んで引き留めた上で、当時はあった王都の邸に踏み込んできたのよ。
王都の邸に居たのはロザリエと兄君。
ロザリエは逃れようとしたそうよ。だけど追い詰められて……最上階のバルコニーから落ちてしまったの……。
兄君も妹を助けようと身を乗り出して、そのまま一緒に…」
悔し気に唇を噛みしめたセシリアの瞳も潤んでいる。
そんな話を聞かされた方は、アイシアは驚愕に目を見開いたまま固まっている。
エリューシアも一見同じだが、その脳内は忙しく思考していた。
(うっわ……マジ屑だわ。
お姉様の身の安全を図るだけじゃ足りないわ…なんだろ、どいて、殺せない、な心境よ。
だけど、そうなるとゲーム内ではどうしてお父様は、お姉様が馬鹿リスの婚約者になる事を許したの?
お母様が亡くなって、お母様にそっくりなお姉様を見るのが辛かったとしても、今の溺愛振りをみれば、違和感しかない…。
しかも最後は見捨てるって……
それにお父様もお母様も、意外と気が強いというか…やられたら3倍返しな所があるのに、そんな暴挙をしでかした王家をそのまま放置? いやいや、確かに王家に逆らうなんて難しいのはわかってるけど、泣き寝入りなんて、公爵家の面子にかけてするはずがない)
「そんな屑王家に、公爵家は何もしなかったのですか?」
気づいたら口に出していた。ハッとしたが覆水盆に返らずである。出てしまった言葉は消えてなくなったりしない。
思い出して傷ついている両親に、なんて事を言ってしまったんだと後悔する。
「……ごめんなさい」
「いいのよ、エルル。そう思って当然だわ。
ただ、アーネストが王都邸に到着した時には、全て済んだことにされてしまっていたの…」
「……どういう事ですか?」
俯いたまま、セシリアに背を撫でられていたアーネストが、その顔を上げた。
双眸は潤んだままだったが、もう虚ろではない。
「私は次男でね。兄フロンタールのスペアでしかなかった。兄が成人すればほぼ私の公爵家での役目は終わる。
兄の卒業にあわせて学院を卒業し、その後は成人まで公爵家を出る事は許されなかったが、成人後は好きにして良いと……だから辺境の騎士団に入団したんだ。
だから当時も私は辺境に居て……知らせを聞いたのはその事故の二日後、それも辺境伯経由だった。
もうセシリアと結婚はしていたが、私だけ先に王都へ向かう事にした。転移紋の使用許可が下りなかったから、馬を走らせてだったから、到着したのは知らせを聞いてから5日後の事だった。
その時にはロザリエの葬儀も済まされ、兄上は意識不明で王都の中央治療院に入院。父上は毒を盛られて麻痺、母上は同じ毒で死亡していた。
更にはロザリエの事件も父母の事件も、不幸な事故として公表され、片付けられていたんだ」
もう王家の悪意しか感じない。
通信魔具も領を越えて設置する事は基本禁止されている。恐らく謀反などを恐れての事だろうが……同様に転移も王家の使用許可が必要という制限があるのだ。
転移する際に必要な魔紋は、多くの場合神殿に設置されていて、実質各領と王都は結ばれているのだが、各領から転移紋を使用した場合、排出先は王城外苑にある魔紋に限定されている。
王城外苑などと大仰な呼び名が付いてはいるが王城内でもなく、城下の町でもない、その間に塀に囲まれて存在する何もない空き地だ。
何かあった時に即王城では危険だと、設置した誰かは考えたのだろう。そして排出魔紋の方の使用許可が降りなければ、転移紋は使う事もできない。つまり転移紋に関しては王家が完全に牛耳っているのだ。
(ハッ…もう王家要らなくね?
公爵家での死亡事件……しかもその後すぐに前公爵夫妻…つまりお爺様とお婆様は毒を盛られ、真相は闇の中ってか!?
……ぃゃ、待って…待って待って…)
エリューシアが脳内問答で一人悶絶していると、アイシアが両親に問いかけた。
「では…お父様の親族の方には、もうお会いする事は叶わないという事ですか?」
「お義兄様…フロンタール伯父様は生きていらっしゃるわ……ただ意識は戻らないままだけれど」
セシリアの返事に、アイシアの顔に苦し気な色が混じる。
(つまり伯父様はある意味人質にされているって事!?
意識が戻らないまま、王都の中央治療院に入院してるって言ってたわよね。神殿には王家管轄の転移紋が置かれている……神殿も王家に与していると考えて良いのかもしれない……なら、そこに伯父様の身柄を押さえられているとなれば……あぁ、全てが事後だったとはいえ、お父様たちが強硬な事は出来なかったという訳もわからなくはない……という事か…ん?
当事者の口は早々に塞がれているわよね?
お父様が到着した時には叔母様は葬儀も済まされていて、伯父様は意識不明。お爺様は麻痺に、お婆様は毒殺……お父様とお母様は、何処からそんな詳細を知ったの?
使用人達から聞いたとしても、ゴミとは言え王が直々に乗り込んできたら、近くに寄るのも難しいわよね? となると使用人だって詳しい所はわからない可能性が……)
「お父様が王都に到着した時には、既に誰も詳細を話せなかったのではありませんか? なのにどうしてそこまで詳しい話を?」
両親はまだ瞳を潤ませていたが、どちらともなくフッと苦笑を漏らす。
「エルルはエルルだな」
「えぇ、本当に」
両親が何をわかり合っているのかわからず、ムゥと唸ってしまった。
「父上が書き残していたんだ。
もう聞く事は叶わないが、何か感じ取っていたのだろう。毒を盛られる前に書き残してくれていたんだ」
そう言うと、そっとセシリアから離れ立ち上がり、執務机の方へ回り込む。
何やらごそごそしたかと思えば、古びた箱を取り出していた。
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