170 残された強敵
「見てたぞ」
「聞いたぞ」
「逃がさないぞ」
テストが終わって帰ろうとした僕の肩を、ギャルたちが掴む。
というか、肩を組んでくる。
わぁ、ギャルに囲まれて肩組まれてる。
この構図、めっちゃハーレムか、強烈なカツアゲのどっちか。
僕の場合後者かな?
「今日も勉強会するよね?」
「するよねぇ?」
「二人きりでお勉強デートとか考えてないよねぇ?」
「ごめんなさい、今日はちょっとハッピーアイスクリームなもので」
「「「うっせぇわ!」」」
めっちゃボコられる僕。
ギャル、こわ~い。
ぺちぺち叩いてくる~。
「鎧戸君は無類の乳房好きですので、長時間触れているとメモライズされますよ」
「意図は分かるんだけど、止め方、もうちょっと他になかったかな?」
で、ギャルたちが速やかに離れていくし。
メモライズは出来ないよ、さすがに。
僕の体電症がUSB仕様であったならば、もうしかしたらワンチャンあったかもだけども。
「今日は二時間で終わりなんだからさ、めっちゃ勉強できんじゃん!」
「こんな日に遊んでるなんて、学生としてあり得ないっしょ!?」
「デートなんかいつでも出来んだろ! 今はテスト勉強だ!」
「テスト期間中にデートとか、ママ許しませんよ!」
「一昨日までテストから目を背けていた人たちの発言とは思えませんね……」
高名瀬さんの頬が引きつっている。
でもね、これ、あなたの作品だから。
あなたが作り上げた人々だからね。
「もちろん、今日もみなさんと勉強をするために問題集を持ってきていますので、ご安心を」
「「「よっしゃぁ!」」」
めっちゃ勉強好きになってるなぁ、ウチのクラス。
「……『胸に秘めたる ことは失せじな』、ですから、ね?」
うん。
みんなでワイワイするのも、きっといい思い出になるよ。
満喫しておくといいよ。
「つーかさぁ、明日さぁ、英論・英表あるじゃん?」
「そうなんだよねー! もうポーズにすがるしかないんだよぉ~!」
「アーシ、先週まで、明日死ぬんだと覚悟してた」
あぁ、そうだ。
英語論理&英語表現。
今日が二時間で終わる代わりなのかなんなのか、明日は地獄のような時間割なのだ。
二時間目三時間目は、100分ノンストップで試験が行われる。
英語論理のあと、休憩を挟まず英語表現のテストが始まる。
50分×2本。合計、100分。
100分耐久って、アスリートじゃないんだぞ、僕たちは。
多くの学生が諦め、捨ててしまう、凶悪な試験。
確かに、魔王の力なしで立ち向かうのは無謀というものだ。
「あとさ、明日の一時間目、情報Ⅰだよね?」
「情Ⅰ……基本的に授業中に聞こえてくる単語の意味が全部分からない科目……」
「アーシ、あの授業のこと、外国語だと思ってる」
「プロトルコってなんだよ!? なんのプロだよ!?」
プロトコルね。
トルコのプロじゃないからね。
「ケバブ、超キレイに切る人のことじゃん?」
「いや、アイスっしょ」
トルコのイメージ!?
だから、トルコ関係ないから!
「とりあえず、全部の解答欄に『ケバブ』って書いとけば1点くらいもらえるかな~って思ってた」
残念、出てこないよ、ケバブ!
情報Ⅰと、なんの関係もないからね!
これはかなり危険だね。
とっかかりすら掴めていない雰囲気だ。
このギャルたちに、果たして放課後の限られた時間で理解させられるのか――
「任せてください」
出来るっぽい!?
高名瀬さんが余裕すら窺える笑みで胸を叩く。
……おぉう。
「ポーズ。鎧戸が特別カリキュラム受けたいって」
「……鎧戸君は、あとで個別指導です」
しまった!?
つい、表情筋が本能のままに緩んでしまった!?
「あと、アイスは二段重ねのヤツにしてもらいます」
あ、コーンのヤツをご所望だ。
コンビニアイスじゃ許してくれないっぽい。
「僕……女子とアイスクリーム屋さん行くの、初めてかも……!?」
「よぉ~し、『みんなの思い出』にしてやろ~ぜぇ~!」
「こいつ、すぐ『二人のメモリー』にしようとしやがって」
「アーシらのポーズだっつーの!」
くっ、ギャルたちが僕のメモリーの妨害を……!
「別にいいけどさぁ」
と、帰り支度を終えた戸塚さんが口を開く。
「ポーって、そういう記念日的なのすっごい好きだから、ずっと根に持たれると思うけど……覚悟だけしときなね」
「「「…………」」」
ギャル、沈黙。
「……そこまで執念深くありません」
高名瀬さん、反論の声、ちっちゃ。
でもそうか……
記念日とか好きなんだ。
覚えとこっと。




