167 審問
「ポーズは、ゲーマーだったんだね~」
「……はい」
はい。
バレました。
ゲームセンターを後にして、図書館の自習室に入った途端、ギャルたちからの質問攻撃に遭い、ついに高名瀬さんが白状した。
事情を知っている僕やオタケ君は傍聴席(ちょっと離れた席)で、静かに成り行きを見守っている。
そして、以前クラスで話題になったブラックドラゴンのスマホケースの話題になり、高名瀬さんがスマホを取り出して見せて、大爆笑をさらっていきました。
「いっかっつっ!」
「ポーズ、あんた、マジ最高だよ!」
「腹イタい……だめだ、しぬっ……ポーズに殺される……っ」
「可愛いなぁ、ポーズは!」
「あ、あたまを、ぐりんぐりんなでまわさないでくださいっ!?」
校庭に迷い込んできた野良犬よりも、そこらのお腹を空かせた子猫よりも、激しくかわいがられている今の高名瀬さん。
クラスのみんなが、ようやく高名瀬さんの可愛さに気が付いたようだ。
うんうん。そうなんだよ。
可愛いんだよ、高名瀬さん。
「つーか、なんでお前がそんな自慢げなんよ、鎧戸?」
「彼氏気取りか? てめぇーなんかにやらねぇぞ」
「そーだ、ポーズはウチらんだぞ」
えっ!?
僕の方が先に仲良くなったのに!?
「あっ! じゃーさ、じゃーさ! アレもなんじゃん?」
「ん?」
「パスケース!」
「あぁ! あるね!」
「ウチの弟も、ゲームキャラのヤツ使ってるわ」
「じゃあ、高名瀬は魔王のか! 見せて!」
「え!?」
目を丸くする高名瀬さん。
そして、こちらをチラリ。
「……なに、その目と目で会話する感じ?」
「え、なになに? パスケースは鎧戸からのプレゼントなわけ?」
「はぁ~、なにイチャついてんだこら!?」
「よし、お母さんに見せてみなさい」
「そうよ、ポーズ。浮ついたのだったら、ママ許しませんからね」
「マザーにも見せなさい」
「何人いるんですか、母親が!?」
とか、高名瀬さんがギャルの相手をしている隙に、三浦さんが高名瀬さんの鞄からパスケースを抜き取る。
スリがいる!?
ウチのクラスに、妙に手慣れたスリが!?
「あれ、これって?」
「うっわ、懐かしっ!」
「初恋味じゃん!」
「子供のころ憧れたよねー!」
「ねー!」
「夕方の教室でさー」
「いや、体育館裏バージョンのがよくなかった?」
「すっげぇ短い間だったけど、憧れたよねぇ、これ!」
やっぱり、同年代の女子は、学校が違っても同じものに憧れていたらしい。
そして、そんな同年代の女子たちが一斉に僕を見る。
「やってんなぁ、テメェ!?」
「初恋味プレゼントするとか、狙ってんのか!?」
「どういう角度でイチャついてくるんだ、お前ら!?」
「あぁー、あまずっぺー!」
「アーシも恋してぇー!」
「そ、そういうのではありません!」
両腕をバタバタと振って、ギャルの拘束から抜け出す高名瀬さん。
「これをプレゼントしてくれた時、鎧戸君は初恋味のことを知りませんでした! たまたま、そこにあったから買ってくれたんです。ね?」
「うん。そうだったね」
「「「「一緒に買いに行ってんじゃねぇ―よ!」」」」
「いえ、そういうことを言いたいのではなくて……!」
「つーか、ポーズは意味知ってたんだよね? で、受け取ったんだよね?」
「それ、は……」
「で、今もなお使い続けてるんだよね?」
「………………」
高名瀬さん、沈黙。
「あぁー、あまずっぺー!」
「アーシも恋してぇー!」
「ですから、そういうのではありませんってば!」
高名瀬さんの顔が真っ赤だ。
そろそろ助けてあげないとね。
「まぁまぁ、みんな、その辺で」
「って、めっちゃ顔ゆるんでっぞ、鎧戸?」
「そんなに可愛いか、ポーズが?」
「それはもう、ごちそうさまです!」
「そういうことを言わないでください、もう!」
ぺしりと、僕の肩を叩く高名瀬さん。
それを見て、またギャルたちは騒ぎ出す。
「あぁー、あまずっぺー!」
「アーシも恋してぇー!」
しかし、三度目のツッコミはこなかった。
あ~ぁ。
まだまだだなぁ、諸君は。
「……甘酸っぱい経験を満喫するためにも、今は苦い経験をしておくべきだと愚考します」
――魔王は、容赦ないんだよ?
仏の顔は三度まであるけれど、魔王の顔は二度でおしまいだったらしい。
ご愁傷様。
「全員、教科書をしまって筆記用具だけ出しておいてください。
――タンッ!
と、プリントを机に打ち付ける音が自習室に響き渡る。
こんな耳をつんざく静かな音は初めてだ。
今回の模擬テストはきっと難しいぞぉ~……さすがに大学入試レベルとまではいかないと思うけれど。
……思うだけはタダだから、いいじゃない。




