166 蹂躙
「ずびまぜんでじだ……っ!」
割り込みボーイが床に這い蹲っている。
それもそのはず。
高名瀬さんから寄付された二十枚の百円はあっという間に溶けて消え、勝ちを確信したギャルたちに取り囲まれて、「なぁ、負けたら何してくれんの?」「あんだけデカいこと言っといて、何もなしじゃないよねぇ?」「ねぇ、聞いてる?」と圧をかけられ続け、「ひゃっ、百円玉ならまだあるぜ!」と自身の財布を取り出して悪足掻きするもあっという間に泡と消え、「ウチが両替してきてやっから、座ってろよ」と三浦さんがお札を抜き取って全額百円に両替をし――席から立つことすら許されないとか、すごい圧迫感だったろうなぁ――で、積み上げられた百円を、これまたあっという間に溶かして、割り込みボーイはギャン泣きボーイへと変貌したのだった。
「もうじわげあでぃばぜんでじだぁぁぁあ!」
命乞い、ここに極まれり。
もっと早く謝っておけば、お金を無駄にすることなかったのに。
三浦さんや高名瀬さんに対する態度が、あまりにもあんまりだったから仕方ないとはいえ……
本当に無駄だったなぁ。
だって、高名瀬さん、一本取られるどころか、ずっとノーダメージなんだもん。
って言うか、強過ぎ。
『ラウンド、ワン、ファイッ!』『K.O!』
――みたいなスピード感なんだもん。
あれ、なに?
データの改竄とかしてない?
弱パンチでHPバー吹っ飛ばしてなかった?
結局、高名瀬さんが喰らったダメージは三発。
最初のラウンドで、おそらくサービスしたのだろうけれど、割り込みボーイ(当時)が放った飛び道具系の必殺技をガードした時に、ちょこっとだけHPが削られた。
それが三回。
以上。
それ以降は、一切ダメージが通らない。
ちょっとでも削られる攻撃は華麗に避け、それ以外はきっちりとガードして、何回も何回も『パーフェクト!』って音声をゲーセン内に響かせていた。
半泣きボーイと化した彼は、キャラを変え、戦略を変え、あの手この手で攻略を試みるが――魔王はそんなに甘くない。
付け焼刃の戦略で突き崩せるはずもなく、無事(?)ギャン泣きボーイへと進化を遂げたのだった。
……魔王様、マジ魔王。
「あれ? 三好じゃね?」
こちらの騒動が一段落したころ、オタケ君に連れられて戸塚さんが戻ってきた。
オタケ君、いないと思ったら戸塚さんを探しに行ってたのか。
ジェントルマンだなぁ。
で、三好君とやら。
「戸塚さんの友達?」
「まさかっ! 冗談でもやめてくれる?」
わぁ、すごい嫌そうな顔。
「ただのクラスメイト。こいつさ、バカで調子よくてモテないくせに、女子と見るや手当たり次第口説きまくってるサルなんだよね」
戸塚さんの言葉に、ギャン泣きボーイはぐぅの音も出ないご様子。
クラスでは、警戒されまくりだから外に女子を求めて出てきちゃったのか。
……迷惑な。
「つーか、お前さ。なんか前にネットゲームで心バッキバキにへし折られて、もうゲームなんかしないとか言ってなかった?」
「う……っ、それは」
「こいつさぁ、なんか、ゲームのトッププレイヤーのフリして新人脅したり、物巻き上げたり、ボコして調子乗ってたらさ、本人に見つかってボッコボコにされたんだって」
わぁ、なんかすごく既視感のあるお話。
その話、聞いたことあるかも。
主に、へし折った側の視点から。
「それ以降、怖くてログイン出来ないって言っててさぁ。で、ゲーセン来てまた調子乗ってたんだ?」
言いながら、高名瀬さんに視線を向ける戸塚さん。
「バカだねぇ。ポーに挑んで勝てるわけないじゃん」
からからと笑った後で、すっと真面目なトーンで言う。
「あいつ、一回嫌いになるとずっと根に持つから、今後ゲーセンで見つかる度に乱入されて、瞬殺され続けるよ? 無様な姿晒したくなかったら、もうゲーセン来ない方がいいって。マジで。親切心からの忠告な、これ」
ギャン泣きボーイが顔色を失い、高名瀬さんを見上げる。
わぁ、なんて見事な、深淵を覗き込んだ愚かな人間フェイス。
「まぁ、ここはあたしが話しつけといてやっから……消えな?」
「はいっ、ごめんなさいでしたー!」
ずっと逃げるタイミングを計っていたのであろう深淵覗き込みボーイが脱兎のごとく逃げ出した。
魔王から逃げおおせるとは、やるな、ボーイ。
「……そこまで、執念深くはないですからね」
ボーイの背中を見送っていると、高名瀬さんがすぐ隣で、消え入りそうな声でつぶやく。
顔を見れば、頬っぺたがぷっくりと膨らんでいた。
「分かってるよ。高名瀬さんは、三浦さんを守ってあげたかったんだよね」
言って、――これくらいは許されるかな?――頭をぽんぽんっと撫でた。
「高名瀬さんは、優しい人だって、僕は知ってる」
「…………それは、どうも」
わぁ、可愛い。
クレーンゲームに入ってたら、破産してでも絶対にゲットするまで諦めないレベル。
「こら、鎧戸! ポーズを独占すんな!」
「つーか、ポーズ最高!」
「なに、あれ!? 超上手いじゃん!」
「え、開発者かなんかなの?」
「最高にスカッとした!」
「えっと、あの……っ、みなさんを勝手に賭けの対象にしてしまって申し訳――」
「いいってそんなの!」
「ポーズなら、なんだって許しちゃう!」
「あのっ、ちょっ!?」
あっという間にギャルに飲み込まれる高名瀬さん。
あっという間に、人気者だね。




