163 息抜き
「あっ、見て! ゲーセンがあるよ!」
特別カリキュラムが確定した戸塚さんが、見苦しいまでの時間稼ぎを試みる。
いやいや、ダメでしょう。
ゲーマーを隠してるって、説明したよね?
高名瀬さんをゲームセンターになんて連れ込んだら、絶対我慢できなくなるんだから。
この人は、そーゆー人。
「…………ほほぅ?」
「『ほほぅ』じゃないが?」
なにをちょっとその気になってるのさ?
ダメだよ?
寄らないからね。
「あ、ゲーセンだったらさ、ウチ『ドラゴンファイター武闘伝』超強いよ?」
「ほほぅ?」
「ほほぅ」じゃないってば、高名瀬さん。
「ウチ、弟がいるからさ、よく対戦してんだよねぇ」
「出た、ミーコのブラコン」
「違ぇーし!」
「……ほほぅ?」
高名瀬さん?
その「ほほぅ」はどこに対する「ほほぅ」なのかな?
まさか、自分の方がシスコン度合いが上だって張り合ってる?
あなたの妹好きは僕が知ってるから、外であまり出さないようにね。
「ここ、『|DFB《ドラゴンファイター武闘伝》2』置いてあるっぽいよ」
「んじゃ、勉強前に軽く息抜きしていかね? ゲームでなら、ポーズのことボコれるかも」
「あぁ~、ポーズってゲームとかしなそーだもんねぇ」
「なんかさ、レースゲームして、体メッチャ動きそう!」
「それ、お前ぇじゃん!」
きゃっきゃっと騒ぐギャルたち。
ギャルは結構ゲームをしているらしい。
「そうですね。明日は息抜きの水曜日。二教科しかない上に、古文と保健体育という優しい科目ですし……少しくらい、息抜きをしてもいいと思われます」
待って、高名瀬さん。
古文はどっちかって言うと強敵認定されてる教科だよ?
え、単語と型を覚えれば余裕?
単語を300も覚えれば高校一年生の間は余裕?
それは、あなただから言える発言だよ!?
っていうか、ゲームセンターは危険だって!?
「では、ご教示願いましょうか、三浦さん」
「おーっし、コテンパンにのしてやる!」
あぁ……なんか、いろいろ終わった。
けどまぁ……
「ゲーマーを隠していたいのって、高名瀬さんの希望だし……」
何よりも。
「精々楽しませてくださいね……ふふふ」
今、すごく楽しそうだし、いっか。
「あ、高名瀬さん、あとでショメシャ撮ろう」
ゲーセンの定番、『照明写真プリント』、通称『ショメシャ』。
写真をその場でシールにプリントしてくれる女子高生御用達のゲーム。
ライトでめっちゃ光飛ばして、美白に、小顔に写してくれる機械なんだよね。
証明写真と照明写真をかけているっていう……まぁたぶん、名前つけた人はオジサンなんだろうな。
「わたし、ショメシャ撮ったことないんです」
「「「えぇーっ!?」」」
「マジで!?」
「そんな女子高生、実在すんの!?」
「ポーズって、ツチノコより希少価値あるんじゃね?」
一瞬でギャルたちに取り囲まれる高名瀬さん。
「撮ろ、撮ろ! みんなー、ポーズとショメシャ撮ろうぜー!」
「いぇーい!」
あぁ、僕が誘ったのに……
まぁいいや。終わるまで順番待ってよ。
「……ぁ」
ふと、高名瀬さんが声を漏らした。
その声は、僕の耳には、SOSに聞こえた。
「ちょっと御免!」
ギャルたちの中へと飛び込み、高名瀬さんの手を取る。
「一緒に撮るのはいいけど、最初の一枚は僕がもらうからね」
言って、高名瀬さんをショメシャの撮影ブースへと引っ張り込む。
それなりに広い空間が、簡易的なカーテンや布で仕切られていて、ちょっとした密室になっていた。
「……これでよかった?」
「へ……?」
少し呆けて、高名瀬さんがこちらを見る。
「なんか、高名瀬さんが、こうしてほしそうに感じたから」
「ぇ……っ」
口を押さえて、目を丸くする。
そして、じわ~っと顔が赤く染まっていく。
「勘違いだったら、『断られた~』って出ていくから、みんなと初めてのショメシャ撮ればいいよ」
どちらでも、高名瀬さんの好きなようにすればいい。
僕は、順番なんか気にしないから。
でも、絶対一枚は一緒に撮りたい。そこだけは、なんとしても!
「ぁの……」
口を手で覆ったまま、高名瀬さんは小さな声で言う。
「ちょっと、囲まれて、驚いてしまって……それで、……別に嫌というわけではなかったんですが、……SOSに、聞こえてしまいましたか?」
「うん。なんとなくね」
でも、この感じじゃ、別に嫌がってたわけじゃなさそうだ。
出しゃばっちゃったな。
「それじゃ、戸塚さんとか呼んでくるから、みんなで思い出の一枚撮ればいいよ」
きっと、みんなでわいわいと、教わりながら撮影すると楽しい思い出になるだろう。
――と、表に出ようとした僕の腕が掴まれる。
「……あの」
振り返れば、高名瀬さんが、さっきよりも赤い顔をして、斜め下を見つめながら、緊張したような強張った口で言った。
「さいしょの、いちまいは……ぜひ、よろいどくんと……」
なんだろう、これ……
「抱きしめます!」
「「「させねーよ!」」」
わぁっ、ギャルがめっちゃ見張ってた!?
あれ? カーテンは!?
完全にまくり上げられてるんですけども!?
「……な? こいつらと一日休日過ごしてみ? ずっとこうよ?」
と、戸塚さんが呆れ顔で言い。
「初々しいを通り越して、明治を思い出すわ」
と、三浦さんがため息を吐いた。
いや、三浦さん、君に明治の記憶はないはずだ。




