161 高名瀬塾二期生たち
「莉奈! ローマ帝国で市民権を帝国内の自由民ほぼ全員に一気に配った皇帝の名前と、その政策の意図って分かる!?」
「え? カラカラ帝が市民を増やして税収をアップさせるために自由民に市民権をばら撒いた話?」
「なんで分かんだよ!?」
教室に入るなり、三浦さんが騒がしい。
すごい元気だねぇ。
「え、なになに? アントニヌス勅令の話?」
「あ、カラカラ帝ってさ、実弟のゲタを暗殺して、ゲタ派の元老院を粛正したんだよね?」
「マジないよねー、カラカラ帝」
「で、集めた税金で大きな公衆浴場作ったんでしょ?」
「カラカラ帝マジ綺麗好き」
「なんかウチのクラスが、頭よくなっててキモいんだけど!?」
凄まじいな、高名瀬塾。
あの人たちみんな、昨日はポムバ終わりにカラオケ行って、今日のテストから目を背けようとしてた人たちなんだよね。
「みなさん、一時間目は家庭科です。家庭科ではミニ論述が点数に大きく影響しますので取りこぼしのないようにしてください。基本は、用語の定義を間違えないこと、そして具体例を記述することで減点を防げます。特に、『持続可能な消費行動とは何か』や『家庭内での役割分担が社会に与える影響』などは出題されやすいポイントですので、しっかり押さえておいてください」
「「「はーい!」」」
高名瀬さん、担任より担任してない?
「では、今日のテストも油断なく乗り切り、放課後には明日の古文について勉強しましょう」
「「「…………」」」
「お返事は?」
「「「はぁーい……」」」
たった一日で、力関係がひっくり返っている!?
勉学って、ここまで人間関係に影響するんだ!?
「あ、ポムバのクーポンはまだありますので、お安くお昼を済ませられますよ」
「もういいわ、クーポン!」
「想像以上に高くついたわ!」
「よくも70%ごときであれだけの重圧をかけてくれたな!?」
「では、今日の勉強会はなしで」
「「「すみません、よろしくお願いします」」」
まぁ、テストのことを考えると、教えてもらう方が絶対いいもんね。
昨日と今朝の心の余裕って雲泥だと思うし。
とは言えもうちょっと手加減してほしい?
あはは、誰に言ってるの? その人、魔王なんだよ?
「大丈夫です。今のみなさんなら、今日のテストなんて赤子の手をひねるようなものです。みなさんで高得点を獲得して、楽しい夏休みを満喫しましょう」
「「「いや、そこまで簡単にならなくていいから、もっと手加減しろし!」」」
甘いなぁ。
高名瀬さんは、何事も突き詰めないと気が済まない人なんだよ?
レベルカンストを目指すのは当たり前、アイテムコンプリートは必須。
クラス全員満点とか、狙い始めたら妥協なんかなくなると思うよ。
……なので、間違ってもそんなことは口にしないように。
「なんかさぁ、ポーズがその気になったら、クラス全員満点とか取れんじゃね?」
あぁ、バカ、三浦さん!
「やってみましょうか?」
「「「嘘です、ごめんなさい! ほら、ミーコ、謝って!」」」
「すんません、調子乗りました!」
「いえ、昨日のみなさんを見る限り、決して不可能ではなく――」
「「「すんません、勘弁してください!」」」
クラス内カーストがひっくり返る瞬間を、僕は目撃した。
これが、学力チート!?
まぁ、満点を狙うとなると、一分の隙もなく、全員が満点を『余裕』で取れるようになるまで解放してもらえないだろうからねぇ。
「あ、ちなみに、今回の高名瀬塾のレベルは『平均点を超える』レベルだからね」
「いや、クラス首席狙える難易度だったっしょ、昨日の!? ねぇ、莉奈?」
「え、あんなの、メチャぬるだったじゃん。ねぇ、レンゴク?」
「うむ。軽い復習程度の内容だったな」
「おかしいよ、高名瀬塾一期生!?」
その人たちは、みんなよりも一日多く受講しただけだよ。
僕は日曜も勉強会したからもう一日多いけどね。
「こらー、何騒いでる? テスト始めるぞー、席に着け!」
教師が入ってきて、チャイムが鳴る。
一時間目は家庭科。
高名瀬さんが言った通りミニ論述がいやらしい配点で、これを落としていたら大きく減点されていた内容だった。
後日知ることになるのだが、この日の家庭科の試験は、ウチのクラスだけが他のクラスの平均点の二倍近い高得点を獲得したらしい。
っていうか、他所のクラス50点切ってたんだね、平均点が。




