160 試験二日目
昨日は実に有意義な放課後を過ごせた。
あぁいうのが、きっと青春というのだろうな。
クラスのみんなと図書館で勉強会。
まさか、自分がそんなものに参加する日が来るとは……
漫画の中にしか存在しないものだと思っていた。
「あっ」
いつものように自転車で登校し、駅に着くと三浦さんがいた。
「おはよう、三浦さん」
「ん? …………あぁ、鎧戸か」
「どうしたの、ひどい顔だよ?」
「ストレートに失礼だな、お前」
いやいや、だって、すごい疲れ切った顔してるよ?
「いや、夢にポーズが出てきてさ……」
「わぁ、いいなぁ」
「は?」
物っ凄い顔で見られた。
「地獄だぞ? 夢の中でまで元素記号覚えさせられて、間違ったら笑顔で『じゃあ、もう一回最初から』とか言って……悪夢だったよ、マジで」
なんか、心に大きな傷を負ったらしい。
おかしいな?
昨日は終始和やかにテスト勉強が進行していたはずなのに。
「お前ぇらだけだよ、楽しそうにしてたの! 独裁政権の収容所だってあそこまで厳しくないから、たぶん!」
「あ、高名瀬塾の成果出てるね」
世界史風刺ギャグだね。
昨日、嫌ってほど世界史叩き込まれてたもんね。
「イタリア政府がカトリックを国教と認め、教皇庁がイタリア王国を承認することで国内の安定をもたらした1929年の条約は?」
「ラテラノ条約」
「正解」
さらっと答えたね。
「苦手過ぎて吐くことは、もうなさそうだね」
「昨日吐ききったからね……」
わぁ、三浦さん、ギャルらしからぬカッサカサの表情。
「あんた……マジで、アレでいいの?」
アレでいい、とは?
「絶対尻に敷かれるよ? 100%勝てないからな?」
ヤダなぁ、勝つつもりなんてないよ。
どっちが上とかないんだし。
「そんなに巨乳がいいかねぇ……これだから男は」
「いやいや、高名瀬さんのいいところはそこだけじゃないから」
「そこもいいんだろ?」
「それは、はい」
「『はい』じゃないです」
後頭部をぺきょっと殴られた。
振り返ると高名瀬さんがいた。
頬っぺたぷっくり。
「朝から何の話をしているんですか?」
「見て、この顔。可愛くない?」
「知らねぇーよ」
「鎧戸君は少し黙ってください」
「…………」
少し黙る。
「ね、可愛くない?」
「そういうことじゃないです」
「ホントに少しだけ黙ったな。え、お前バカなの?」
三浦さんが辛辣だ!?
昨日までクラスのバカ集団に属してたくせに!
「なんかさぁ、昨日あんたにイジメられ過ぎて、あんたの夢見ちゃったんよ」
「イジメてません。風評被害をばら撒くのはやめてください」
「したら、こいつ、『いーなー』とか言ってさ」
「……鎧戸君とは、そういう人です」
あ、照れ高名瀬さんだ。
かわいい。
「あんたら、お似合いだわ」
「そういうのではありません」
「いや、今さらそれは通じないっしょ」
「おっしゃっている意味が分かりません」
「あ、そっ」
にやりとあくどい笑みを浮かべ、三浦さんが僕の腕を掴み、自身の腕を絡めるようにして体を寄せてきた。
「じゃ、取っちゃお~かなぁ~?」
瞬間、高名瀬さんのメガネが光った。
「ローマ帝国で市民権を帝国内の自由民ほぼ全員に一気に配った皇帝の名前と、その政策の意図を答えてください。出来なければ、本日の放課後も強制講習です」
「ちょっ、待って!? そんなの、昨日習ってなくない!?」
「この世には『予習』というものが存在します。昨日の帰宅後から今朝の登校までの時間、何をしていたのですか?」
「疲れ切って寝てたよ!?」
あぁ、これは三浦さん、今日も高名瀬塾を受講だね。
ちなみに、正解はカラカラ帝で、税収をアップさせるために市民を増やした、だね。




