157 先駆け! 魔王塾
「さすが、魔王だな」
化学のテストを終え、オタケ君が腕組みして唸っている。
「本来、……というか、高名瀬の特訓がなければ、俺はこの初日にシカバネと化していた」
「苦手科目が多かった?」
「というか、最も苦手な三科目と言ってもいい」
三時間目は……あぁ、英コミか。
英語コミュニケーションⅠ。
両親の時代はリーディングって言ってたらしいけど、より実践的な、世界で通用する英語力を身に付けるため、国がカリキュラムを整えた結果、名称が変わったんだよね。
要するに、長い文章を読んで、英語の問題に、英語で答えるだけ。
……日本語でやってくれたら、物凄く簡単なのにねぇ。
「昨日、新たに買ってきてもらった問題集を見ていたのだが……絵本を読んでいるような気分になった」
そこまで難易度下がっちゃった!?
高名瀬塾、どんだけ効果あったの!?
「高名瀬塾、改め、魔王塾……」
「感謝しろとは言いませんが、貶さないでください」
背後に忍び寄る魔王の影。
「……あと、魔王は口外法度です」
「今日も素敵なスマホケースだね」
「これは口外しているわけではないのでセーフです」
高名瀬ルールは、時に理不尽。
「でも本当に感謝してるよ。英コミなんて、単なるイジめだと思ってたけど、理解するとすごく単純な科目なんだね」
「そうですね。そこに書かれていることを問われて、書かれている通りに答えるだけですので、一番勉強の必要がない科目かもしれませんね」
「ねぇーよ」
なんか、遠くから三浦さんがすごい冷めた視線を寄越してくる。
でも、その隣で戸塚さんが余裕をかましている。
戸塚さん、先週までアッチチームだったのに、魔王塾に参加してコッチチームになったから余裕なんだね。
改めてすごいな、魔王塾!?
「ですが、リーディングは単語一つの見落とし、解釈間違えで点数が消えていく科目です。油断することなく、冷静に問題文と向き合ってくださいね」
「まさにコミュニケーションだな。思い込みで突っ走ってはダメだということだ」
あなたは思い込みで僕に殴りかかってきたけどね。
そして思い込みで僕を魔王だと思い込んでぐいぐい来てた。
まぁ、僕も思い込みでオタケ君をソッチ系の人だと思ってたけども。
「これで、お前たちと海へ行けそうだ」
にっこりと笑うオタケ君。
オタケ君も楽しみにしているようだ、海。
「よければ、水着を一緒に買いに行くか?」
「あ、ごめん、昨日買っちゃった」
「強気だな」
いや、「テストなんか余裕だぜ」っていう強気とかじゃなくて、ついでだったから。
高名瀬さんが水着を買ったフロアで。
別の店だったけど。
「オタケ君、どんな水着にするの?」
「フルボディかラッシュガード、タンクトップ型にしようと思っている」
上半身重視のラインナップだな。
フルボディって、ウェットスーツみたいなやつだよね?
とにかく、上半身を隠したいらしい。
「それなんだけどね、姉の知り合いにすごい変態がいるんだけど、紹介しようか?」
「すごい変態を紹介しようとするな」
「あ、ごめん。感情が前面に出ちゃった。……すごい技術者なんだけど、紹介しようか?」
「言葉を変えられても、いかがわしい人物像しか思い浮かばないぞ」
それは仕方ないかなぁ。
いかがわしい人物なので。
「ちょっと耳貸して」
「ん?」
オタケ君の耳に口を近付けると、三浦さんから「イチャつくな」と、からかいが飛んでくる。
イチャついてるわけないでしょうに。
「実はね――」
「おぉうっ!? い、息を吹きかけるな、くすぐったいじゃないか」
「イチャついてんじゃん」
違うんだよ、三浦さん!?
今のは事故だから!
「Chainでメッセージをやり取りするのが得策かと思いますよ」
高名瀬さんがまっとうなことを!?
もっともだ!
というわけで、残り少ない休憩時間にChainを送信する。
僕『高名瀬さんの胸のアレを完璧に隠蔽できる技術者がいるんだ。だからオタケ君のアレもきっと自然に隠蔽できると思う』
昨日、帰る前に奥多摩に聞いてみたら、オタケ君のメタリック乳首をピンクに塗り替えることなど造作もないと言っていた。
完全防水、引っ掻き傷や落下による破損にも強く、色落ちもしない自然なピンクに塗り上げてくれるらしい。
ただし、部位が部位だけに、本人に確認を取ってからと思って、現在は保留にしてある。
チャイムが鳴り、自席に着いた時、オタケ君から滑り込みChainが届いた。
オタケ君『是非紹介してくれ!』
じゃあ、帰ったら姉に言っておくよ。
次の英コミが終われば、今日はおしまいだ。
テスト期間は半日で帰れるから嬉しいよね~。




