156 事実を知る戸塚
数学の試験が終わった。
……うん、不完全燃焼。
なんだろう、こう……
裏技でレベルを上げ過ぎたRPGをクリアした時のような、手応えのなさ。
「見て高名瀬さん。超大作」
「問題用紙に落書きをしないでください」
言いながら、僕が描き上げた4コマ漫画を見て「ふふっ」と思わず笑いをこぼす高名瀬さん。
やったね☆
「……悔しいかな、続きが気になりますね」
「次の試験は……あぁ、化学かぁ。描けて二本だね」
「ですから、問題用紙に落書きはしないでください」
とか言いつつ、ちょっと期待してるでしょ?
「ねぇ、ポー」
そんな中、戸塚さんが不満そうな顔でやって来る。
「チュートリアルで終わったんだけど?」
「体験版だったのではないでしょうか?」
「そんなゲーム的な誤魔化しで騙されるか! ……あんた、ヤったね?」
ここにきて、ようやく戸塚さんが気付いたらしい。
高名瀬塾のステルススパルタに。
「これで、確実に平均点を上回れます。が、油断はしないようにしてくださいね」
「どんだけ鎧戸と海に行きたかったのよ!? 直に誘いなさいよ、アタシらを巻き込まないでさぁ!」
「ご指摘のような事実は確認されておりません」
高名瀬さんが政治家のような言い逃れを!?
「でもまぁ、ギリギリのラインで焦りながら全力出し切って、くたくたになるよりはマシじゃないかな?」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
と、フォローをした僕に、不満そうな目を向ける戸塚さん。
「鎧戸に言われるとムカつく」
「なんでさ!?」
そーゆーの、イジめに繋がるからよくないよ!?
「でもさ、必要以上の勉強をさせられてたってことは、次の中間とか、もう勉強しなくていいんじゃない?」
その事実に気が付いて嬉しそうな顔をする戸塚さん。
でもね、戸塚さん。残念ながら……
「勉強の深度は上げましたが進度は同じですので」
「……どゆこと? 鎧戸、翻訳して」
おかしいな、同じ言語のはずなのに。
「つまりね、今回のテスト範囲をすご~く深いところまで掘り下げて、根本から理解させるように勉強を難しくしたけれど、次の中間試験のテスト範囲は今回とはまったく違うから、中間試験の時はまた中間試験のテスト範囲を勉強しないといけないってことだよ」
「なんて無駄な勉強をさせたのよ、ポー!?」
「おかげで、今朝は随分といい思いをしたじゃないですか」
「う…………それと、これとは……話が別っていうか……」
いい思いしたんだ。
やーらしー。
「うっさい。目玉抉り出すぞ」
「うるさいのは口なのに!?」
僕の目玉が何をしたと言うの!?
「はぁ……けどまぁ、おかげで今回の期末、負ける気がしないわ」
「りっちゃんは、裏技で最初からレベルをカンストさせて無双プレイするのが好きでしたからね。チート能力を手に入れたと思って、今回の期末試験を蹂躙してきてください」
「そう言われると、あたしが物凄くヤバいヤツみたいじゃない」
「事実では?」
「ヤバくないから!」
戸塚莉奈、16歳。
圧倒的なパワーで弱者を蹂躙することに快感を覚える女子高生。
「ヤバい人だ!?」
「あんたの言い方のせいでしょうが!」
すぱちこん!
――と、布のペンケースで後頭部を叩かれる。
……だから、中のペンが痛いってば。
「ちなみにりっちゃん、問6の答え、小数点がつきませんでしたか?」
「小数点? あぁ、一問あったね。問6だったかは覚えてないけど」
「今回の解答はすべて整数でしたよ」
「……え?」
「問6は、途中の計算に『8×7』が出てきましたので……そこで『52』と書いていたら、小数点が発生します。回答が『7』であれば正解、『6.5』だった場合は間違いです」
「「あっ!?」」
戸塚さんと、その後ろで三浦さんも声を上げる。
顔が、真っ青だ。
「……呪い、効いてしまったようですね」
ふふふと笑い、次の化学の準備を始める高名瀬さん。
この人、呪いまで使いこなせるのか。
怒らせないようにしよ~っと。




