154 いざ試験へ!
そしてついに、テスト当日!
いつもの道を自転車で走っていたら、学校に近付くにつれ学生の姿がちらほら目に付くようになってくる。
誰も彼もみんな、教科書やノートを開いて歩きながら勉強している。
こういう勉強は、スマホに移行しないんだね。
なんかさ、学校がさ、テスト範囲この辺だよ~とか、要点とか勉強方法とかネット配信すればいいと思うんだけどなぁ。
これだけみんなスマホ見てるんだから。
まぁ、今だけはスマホじゃなくて教科書やノートを見てるけどね。
そんな中、一人余裕の表情で前を向いて駅舎から出てくる我らが講師。
「高名瀬さん」
「鎧戸君。おはようございます」
近付いて、自転車から降りる。
「よく眠れましたか」
「夕飯いっぱい食べたからすぐ眠れたよ」
「食べてすぐ眠ると、消化に悪いですよ?」
「でも、お腹いっぱいになると眠たくならない?」
「なります」
だよね~。
「チョリッツはどうだった?」
妹ちゃんに献上するため三つを厳選して持って帰ってもらったわけだけれども。
「憂慮すべき事態が発生しました……」
「え、まさか、嫌いな味があった? あ、高名瀬さんが選んだ金平糖味じゃない?」
「それは非常に好評でしたし、なんでしたら、一番美味しそうな顔をしていました」
※高名瀬調べ。
たぶん、補正入ってるね、その調査。
「じゃあ、何があったの?」
「実は、妹が――鎧戸君のお嫁さんになる、などと言い出しまして」
「あはは、可愛いね~」
「……妹はまだ小学生です。犯罪ですよ」
「真面目に受け止め過ぎじゃない?」
子供がよく言うヤツじゃない。
なにも、真に受けて交際を申し込んだりしないから。
そんな目で見ないでください。
なぜか良心がチクチクするから!
「まさか、妹の理想のタイプがチョリッツだったとは……姉として残念です」
たぶんだけどね、高名瀬さん、からかわれてたんじゃない?
きっと、分かりやすく態度に出てただろうから。
「お姉ちゃんを取られるって、心配したのかもね」
「そんな感じではなかった気がしますが……」
とか言いつつ、ちょっと口元緩んでるよ?
嬉しいの?
そーかそーか。
「……うるさいです」
「何も言ってないじゃない」
まぁ、僕も口元が緩んでるけどね。
「ところで、戸塚さんは?」
「と、つか? はて、そのような名前の方に心当たりがありませんね」
「何があったのさ?」
昨日はそんな素振りが見られなかったから、昨日帰ってから今朝までの間だよね、何かあったとしたら?
あ、もしかして。
「一緒に行こうって言って、断られた?」
「彼女は愛に生きるそうです」
あぁ~、そうか。
オタケ君、なんか戸塚さんとは戦友みたいな一体感を感じてたから、期末試験というボスに挑むため共に出陣しようって気分で誘ったんだろうね。
で、二つ返事でOKした戸塚さんは、高名瀬さんからのお誘いを足蹴にしたと。
「足蹴どころか、後ろ足で砂をかけられました。……あの粗相イヌめ」
わぁ、怖い。
女の友情って、維持するの大変なんだねぇ。
よし、話題を変えよう。
「高名瀬さんは見直しとかしなくて平気なの?」
「歩きながらだと集中できませんので。それよりも事故に遭うリスクを避ける方を優先しています」
「そっか。じゃあ、新発売のゲームとかも、歩きながらはやらないんだね」
「ゲームはテストとは関係ありませんので」
「事故に遭うリスクを無視すんな」
「大丈夫です。ゲームに集中していても、周りはしっかりと見えていますので」
それは、授業中にゲームをやるために会得したスキル?
変なものばっか習得しないでね。
「テストが終われば我々は自由です。久しぶりに狩りへ行きませんか?」
「掲示板がざわつかない範囲でね」
「……掲示板など、視界に入れなければないのと同じです」
モンバスに僕たちが現れると、なぜかいつも掲示板が荒れるから。
主に、魔王様の知名度と、高名瀬さんのうっかりミスのせいで。
「|Complacency is the enemy《油断大敵》っと……」
「この単語は試験範囲外ですよ」
いやはや、あなたを見る度に思い出しそうだよ、今後。
「一時間目は一番不安な数学ですが、大丈夫ですか?」
「そうだねぇ、ちょっと見直しとこうかな」
念のためにと、昨夜作っておいた苦手な箇所をまとめた単語帳を取り出す。
赤いシート越しに見れば、答えが隠れて何度でも問題に挑戦できる、学生の必須アイテム。
「数学で単語帳……ですか?」
「何だって使い方次第なんだよ」
「そうですか。……自転車、持ちましょうか?」
「大丈夫。片手で持てるから」
「でも、危険ですよ……」
と、身を乗り出して僕の単語帳を覗き込む高名瀬さん。
『8×7= 』
「今すぐ単語帳をしまって両手でしっかりとハンドルを握ってください」
「いや、でも苦手の克服が!?」
「私が問題を出しますので、暗算で答えてください」
「いや、申し訳ないよ、そこまで面倒見てもらうのは」
「早くしまってください。しまうのが一秒遅れるごとに、掛け算の桁が一つ増えていきます」
「まって、三桁の掛け算とか、絶対暗算では無理だよ!?」
「いーち」
「しまいました!」
大急ぎで単語帳をしまって、その後は、高名瀬さんから出題される九九を暗唱しながら学校へ向かった。




