151 変な本屋
「お近付きの印に、僕の代表作を三冊進呈しよう。あ、この表紙の女の子、どう見ても小学生だけど二十歳超えてるから」
「お近付きになった瞬間遠ざかりたくなるような物を寄越してくるな」
お巡りさん、この人です。
「あのさ……小学生のスク水って、いいよね?」
「同意を求めるな」
子供をそういう目で見るんじゃない。
子供は国の宝だぞ。
「僕、国宝級の仏像も、ちょっとそーゆー目で見ちゃう時あるけどね」
「もう見るな。国宝がもったいない」
なんなんだ、この無害そうな顔をした害しかない生き物は?
「子猫だ~かわいい~撫でよ~」って撫でたら、その毛が全部毒針――みたいな生き物だな。
「それで、貴様はどこの変態なんだ?」
「あははっ、本当にササキ先輩にそっくりだなぁ」
「あぁ、姉の後輩か。じゃあ仕方ない」
姉の関係者に、まともな人間など一人もいないのだから。
「親族は、最も近しい関係者だと思うけどね」
「※ただし僕は除く」
「あははっ、注意書き追加されちゃった」
にこにこと、よく笑うこの兄さんは、姉の後輩なのだそうな。
姉の後輩で、お子様体系を好む変態ということは……
「姉の彼氏ですか?」
「やめて。告訴するよ」
あぁ、よかった。
常識人の括りに踏みとどまっている人だった。
「それで、何か探してる本でもあるのかな?」
「いや、時間つぶしで立ち読みでもしようかと。一円も払わずに」
「そういう人ばっかりだから、街から本屋がなくなっていったんだよ?」
「でも、本とか別にいらないし」
「本は知識の宝庫だよ!?」
「ネットでいいし、なんならAIに聞く」
「現代っ子か!?」
現代っ子ですが、なにか?
「本、読もうよ~! 若者の読書離れに、憂慮しまくりだよ~」
もじゃもじゃ頭が縋りついてきて、アゴの付近にもじゃもじゃが当たる。
「えぇい、もじゃもじゃする!」
「分かった。じゃあ、僕の著書を全部進呈しよう」
「そんな大量のエロマンガを持ち帰ったら、姉に何と言われると思う!?」
「『ようやく、世の真理に辿り着いたか、弟よ』」
言わねぇよ。
まず、小学生に見える二十歳設定のエロマンガは世の真理ではない!
「僕は巨乳派だ」
「邪教徒め!?」
「え、なに、あなたのロリコン、宗教なの?」
それは怖いわ。
「なんでアノ姉で、巨乳派になるかなぁ?」
「アノ姉だからだよ」
とにかく、姉と遠いジャンルの女性が好ましい。
「遠いジャンルというと……背の高い巨乳のバカ?」
「そんなきっちり真逆でなくてもいいんだけどね」
極端だな、このもじゃもじゃ。
研究者って、一般的な会話が出来ないのかな?
「とりあえず、料理が出来る人がいいな」
「えっ、アノ人、まだ料理できないの?」
まだ、とは?
「いや、前にね、お勧め料理本をプレゼントしたんだよ。……その直前に『弟が、「殺す気か!?」って食べてくれなかったお弁当が余ったから食え』って強要されて、……マジで死にかけたから」
あぁ、あの地獄弁当か。
あれ、どこに廃棄したのかと思ったら、ここだったか。
「その節は、どうも」
「その節で終わりそうだったけどね、僕の人生」
でもまぁ、まだこうして続いているわけだし、ドンマイ、ドンマイ。
「で、あまりにも酷かったんで、初心者でも簡単に作れる料理本をプレゼントしたんだよ。えっと……たしかまだ在庫が……あ、あったあった、これ」
と、もじゃもじゃ兄ちゃんが差し出してきた本を手に取る。
『コスパとタイパから見る、効率的節約お弁当の作り方』
「貴様、なぜこんな見るからに怪しいものをプレゼントした」
「いや、内容はすごいから! 美味しいのも二~三個あるし」
仮にも料理本を名乗っておいて、美味しい物が二~三個しかないことに驚きだよ。
パラパラと中を見てみる。
……うん。
なんでだろう。
完成形と謳われている写真に写っている物がすべて深緑色の液体か固体かゲル状なんだが?
「……これを書いた著者に会いたい」
一発、いや、二発殴りたい。
「あぁ~、この著者、自由人でねぇ、いつもどこにいるか分からないんだよねぇ……ベティ・メイプルベアって研究者なんだけどね?」
「よし、分かった。殴ってくる」
あいつか!?
まったく、ろくでもないな、体電症の研究者は!?
証拠のブツを握りしめ、「いや、お金は!?」とか言うもじゃもじゃの声をスルーして、僕は諸悪の根源がいるフロアへと踏み込み、踏み込んだ先で――
「上ってくるなと厳令したはずですが?」
――高名瀬さんに捕まって、こってりとお説教された。
違うんだよ、高名瀬さん。
決して覗きに来たわけでは……あ、紙袋持ってる。水着、買ったんだね。楽しみだな~。




