149 二つ目の質問
「ちなみに、切除って出来ないの?」
一応、外科医であるらしい奥多摩に聞いてみる。
「出来なくはない。……が、出来ない」
どういう意味だ、それは?
「物理的には可能だ。だが、人道的には無理だな」
「というと?」
「ふむ……小僧。たとえばテメェが外科医だったとして、内視鏡で胃の中に見るからに怪しい突起物を発見したとしよう。それはもう見たこともないような突起物で、なんならちょっとモアイ像に似ていたとしたら、どうする?」
「モアイ像みたいだなーって言う」
「言って何が解決する?」
うわぁ、奥多摩に哀れみの目で見られた。
超・心外。
「どうせいらないだろうと、切除してみるか?」
「そんなあからさまに怪しいもの、切除したら何が起こるか分からないじゃないか」
「そうだ。だから、切除は出来ない」
なるほどね。
そのドヤ顔はイラッとするが、言いたいことはよく分かった。
切除することは、きっと難しくないのだろう。
でも、切除したあと、どんな症状が出るか分からない。
最悪、切除した途端絶命する危険もゼロではない。
「人体が何万ボルトもの電気を生成するなんて、本来は考えられないことだからね。シュウの体内バッテリーだって、従来の常識では誰にも説明が出来ない。世界中の論文をかき集めても、それを的確に説明することは不可能だろうね」
と、姉が説明する。
つまり、僕たちの身体のことは、まだ誰にも、まったく分かっていないのだ。
「どんなことが起こってもいいから切除したい――って患者は多い。でも、だからといって『じゃ、自己責任ね』なんて無責任に言えるヤツはこの界隈にはいない」
みんな、体電症を治すために必至に研究をしているのだ。
その根底にあるのは、人命の尊重。
今はまだ、軽々しく該当部位の切除を行える段階ではないらしい。
「百年後には、手術で綺麗さっぱり取り去ることが出来るようになっているかもしれないが、当分はムリだろうな」
「あたしとしても、愛する弟の体をモルモットにするのには反対だ。もうしばらく、あたしたちを信じて我慢していてほしい」
「いや、まぁ、お風呂くらいでそんな大事にするつもりはないけども」
ふと思いついたことを口にしただけなのだが、研究者二人はすごく歯がゆそうな表情で真面目に答えてくれた。
きっと、毎日何度も何度もこういう自問自答を繰り返しているのだろう。
なんというか……
「いつも頑張ってくれて、ありがとう」
素直に、感謝の言葉が溢れていった。
「なんだこの可愛い生き物は!?」
「あたしの弟だ!」
「くれ!」
「ことわる!」
「シェア!」
「ムリ!」
「サブスク!」
「月額いくら払う?」
「月20万!」
「ちょっと考えさせて……」
「考えるな、姉」
なに、弟を売り飛ばそうとしてんだ。
で、シェアして何する気だ、奥多摩?
目が怖いんだよ、超ドS!
「まぁとりあえず、海水パンツは任せておくといい。何不自由なく海を満喫できるものを用意しよう。この施設には、そういったものに特化した店がいくつも並んでいるんだ」
体電症に特化した施設。
体電症患者にも、その家族にも、そしてそれを研究する者にとっても有用なものが集まっているらしい。
「ちゃんと、前も後ろももっこりしない海パンを選んでやるからな、弟☆」
「さっきの感動を返してくれ」
「そんなものはもう使った!」
何に使ったんだ。
まったく、この姉は……
「ところで、ベティ・メイプルベア先生」
と、高名瀬さんが真顔で奥多摩を呼ぶ。
「……なんだろう。一切ふざけた顔をしていないのに、この全力で小馬鹿にされている感じ……」
まぁ、高名瀬さん的には「ベティ・メイプルベアって」的な気持ちが溢れてるだろうからね。
「メイでいいよ」
「では、メイ先生。二つ目の質問、よろしいですか?」
そういえば、高名瀬さんは二つ質問があると言っていた。
途中で僕が割り込んじゃったけれど。
で、その二つ目の質問というのが、ちょっと意外なものだった。
「水鉄砲のようなものは売っていますか?」
「なに、ポーちゃん。海に水鉄砲持っていく気?」
「分かるぞ、その気持ち! アタシも水場には必ず水鉄砲を持参していく! 待っていろ、とっておきの物を用意しよう」
うきうきと、水鉄砲を取りに行った奥多摩。
高名瀬さんが水鉄砲で、はしゃぐ……う~ん、想像できない。
「これだ。アメリカ製の、強力なヤツだぞ。同志だから500円でいい」
やっす!?
どう見ても3000~5000円するだろう、そのでっかい水鉄砲。
「ありがとうございます。それで、こちらで水着を取り扱っているそうですが」
「あぁ、それもお勧めのものがあるぞ! これなんかどうだ?」
と、奥多摩が広げて見せたのは、奥多摩にしてはまともな、白いビキニだった。
ビキニなので露出は多いが、でもまぁ、これくらいなら普通のお店でいくらでも見かける。
奥多摩も、悪ふざけをするのは姉に対してだけか――と見直しかけた時、高名瀬さんの持つ水鉄砲から水が発射され、ビキニを穿った。
……水に溶ける水着じゃねぇか!?
「……やはり」
「それを見越して水鉄砲を買ったのか!? ササ、この娘、頭いいぞ!」
と、頭のいい大学を首席で卒業したはずの奥多摩がアホ丸出しな顔でアホみたいな発言をしている。
高名瀬さん。
やるねぇ。




