146 たばこ姉さんの実力
「とりあえず、入りな」
と、たばこ姉さんが僕たちをいかがわしさ満点の店内へと誘う。
……躊躇。
「躊躇してんじゃねぇよ!? なんもいかがわしいことなんかありゃしないから、入ってこいって」
先に店に入ったたばこ姉さんが、店内から顔を出して手招きしている。
……仕方ない。入るか。
「……お先にどうぞ」
と、高名瀬さんが僕の背に隠れる。
まぁ、そうだろうね。
高名瀬さんは先陣を切らないタイプだもんね。
仕方ないので、ドギツイ照明が輝く店内へと踏み込む。
目の前に、赤い丸の中にその存在を否定するように斜線が引かれた『18』という数字が書かれた黒いのれんが垂れ下がっていた。
「入れないじゃないか!?」
僕たちまだ、16だから!
「あぁ、これはただのインテリアだ。気にすんな」
「めっちゃ気にしなきゃいけないマークだよ、これは」
インテリアだとしても、こんなインテリアを置いてあるような店には入れない。
「大丈夫大丈夫。エロいもんなんか売ってないから」
「水で溶ける水着はエロいからな!?」
なんか都合よく解釈してそうだけれども!
「あたしが知ってるお店のオーナーさんって、こいつとミゾサザイの店長さんだけなんだよねぇ」
「なにその両極端!?」
すごくいい人と、すごくくだらない人じゃん。
もちろん、貴様が後者だぞ、たばこ姉!
「まぁまぁ、いいから入ってこいよ。今なら、伝線したパンストを一枚プレゼントしてやろう」
「ごみを寄越すな」
「お宝だろう!?」
「どういう偏見に満ちた世界に生きてるんだ、貴様は!?」
決定。
たばこ姉は、姉と同じ扱いをする!
「くっそ、ガキにはまだパンストの奥深さが分からんか……嘆かわしい」
「僕と貴様のご両親のセリフだよ、『嘆かわしい』は」
「はぁ~」とため息をついて『18禁』ののれんを持ち上げ、僕たちを店の奥へと誘うたばこ姉。
入っていっていいのだろうか。
「安心していいよ。あたしの行きつけだから」
「不安が増す発言を寄越すな、姉」
「ポーちゃんは信じてくれるよね?」
「保留で」
うん、えらいよ高名瀬さん。
こういう手合いには、明確な回答は避けておいた方がいい。
「まぁいい」
と、諦めてのれんから手を離したたばこ姉。
僕の首を掴んで強引に店内へと引きずり込んでいく。
諦めてやがらなかった、こいつ!?
「まぁ、座れ」
店内へ引きずり込まれ、狭い部屋の中の椅子に座らされる。
店内を見渡してみると、いかがわしそうな物から、いかがわしい物まで、物であふれかえっていた。
「いかがわしい物しかないじゃないか!?」
「何を言う。この辺は普通の柿ピーだぞ」
「酒のつまみをこのラインナップの中に混ぜるな」
趣味しか見えてこない。
ただただ、趣味の物だけを集めた店だ。
「では、わたしは外で待っていますので」
「待て待て。一番の重要人物が出て行ってどうする」
たばこ姉が高名瀬さんの腕を掴む。
わぁ、とっても嫌そうな顔。
「二~三、真面目な質問をするぞ?」
「は、……はい」
まったく信用していなそうな顔で、高名瀬さんが頷く。
「おっぱいを見せてくれるか?」
「帰ります」
「違う違う! 患部を、という意味だ」
「患部はそこではありません」
「そうだよ。谷間にあるんだから」
「鎧戸君は黙っていてください!」
怒られた。
高名瀬さんの説明を補足しようと思っただけなのに。
「ちょっと向こうで見せてほしいんだ」
「えぇ……」
「こんなのだけど、一応信用できる研究員だから、ね、ポーちゃん。あたしを信じて」
「…………」
姉が言うと、高名瀬さんはしぶしぶ了承した。
本当にしぶしぶ。
顔が「渋」って文字に見えるくらいの嫌そうな表情で。
「じゃあ、ちょっと見てくるから、小僧はそこを動くなよ? 覗いたらお婿さんに行けなくしてやるからな」
「なに仕出かす気だ、あの大人!?」
あやしい素振りを見せたら、即通報してやる。
こちとら、未成年だからな!
「まぁ、大丈夫だよ。アレでも、ちゃんと医者だから」
奥の部屋へ消えた高名瀬さんと不審者予備軍を不安げに見送る僕に、姉が気休めの言葉をかけてくる。
……大丈夫、なのかなぁ。
「でっか!?」
「ちょっとぉ!?」
「姉!」
「しゃーない、一発殴ってくる」
姉が奥の部屋に飛び込んでいって、そこそこ大きな打撃音が響いてきた。
金ダライでも置いてるのかな、この店は。
それから数分後、姉と変質者が揃って戻ってくる。
「ねぇ、ひゃくとーばんって何番だっけ?」
「まぁ、気持ちは分かるが、結果を見てから判断してくれ」
そんなことを、自信に満ち溢れた顔で言う被疑者。
なんの結果を見ろというのか……
と、奥の部屋へ続く扉を見ていると、高名瀬さんが出てきた。
白いバスタオルを肩から羽織って。
胸の前で、それをきゅっと握って。
「すごいですよ、鎧戸君! 見てください!」
そうして、ばっとバスタオルを広げて胸元を見せてくる。
そこには、あるはずのコンセントはなく、うっすらと桃色に色づく皮膚が、谷間が、存在した。
「ニセモノの皮膚をコンセントの上から被せて、肌に馴染ませてあるんです! 遠目で見る分には、まったく気付かれないと思いませんか!?」
コンセントのない胸元に、いたく感動したのだろう。
高名瀬さんがとてもハイテンションだ。
でもね。
ワンピースの胸元を大きくはだけてること、忘れてない?
めっちゃ下着と谷間、見えてますけども!?
え、見ていいの、これ!?
たまらず顔を逸らした僕を見て、高名瀬さんは自身の格好を認識したらしく――
「きゃああ!?」
――と、悲鳴をあげていた。
……遅いよ、気付くのが。
………………中も水色かぁ。




