145 姉の友
「お、ササじゃん。また来たんか?」
「よっす、メイ」
いかがわしいお店から、黒髪ロングをハーフアップでまとめた、理知的な女性が現れた。
フレームのない眼鏡をかけていて、なんだか、研究者っぽい。
「姉の知り合いですか?」
「ん? そうだが?」
「あなたの名誉にかかわるので、そのことは絶対に口外しないように努めてください」
「あっはっはっはっ! もう手遅れさ」
理知的お姉さんが豪快に笑う。
「アタシとササは大学時代から親友として有名だったんだぜ」
「やめて、外聞悪いから」
「テメェ、どの口が言ってやがんだ、縫い付けっぞ」
ひじょ~に、ドスの利いた声だった。
あぁ、そうか。
この人も、正しく姉の関係者なのか。
「高名瀬さん、関わっちゃダメな人だ。逃げよう」
「おぉい、待て待て!」
敵前逃亡を計った僕の襟首を掴まえ、理知的お姉さんが肩を組んでくる。
わぁ、たばこ臭い。
「君が噂の弟君か? ササがいっつも自慢してる」
「そのような事実は知らない」
自慢とかしないでくれる?
関係者だと思われるから。
「なるほど、確かに可愛らしい顔をしている」
僕の顔をじぃ~っと覗き込んで、理知的お姉さんはにやりと口元をゆがめる。
「泣かせてみたい……」
「シュウ。そいつ、超ドSだから、逃げた方がいいよ」
「捕まる前に言ってくれ!」
くっそ、なんでか腕が振りほどけない!?
なんというか、こう、人体の構造的に、「そっちには力が入らないよ!」っていう方向に力を加えられている感じ。
「えぇい、頭のいい変態とか、始末に負えない!」
「だしょ~? あたしも、そう思う」
「貴様も同類だ、駄姉」
「あっはっはっはっ! 言われてやんの!」
「あんたもだと言ってるんですよ、僕は」
「小生意気だなぁ……泣かせちまうぞ?」
けっけっけっと、不気味に笑う理知的お姉さん。
えぇい、妖怪か、貴様は!?
「で、あの水着、またダメ出し喰らったの?」
「いや、喰らってないが?」
「喰らわせたつもりなんだが?」
なぜあんな端切れがOKだと思えるんだ。
身内がそれを許すと、なぜ思い込める?
一度腕のいい医者に診てもらえ。
「ここに来たのは他でもない。そこにいるポーちゃんが海に行くことになってね」
「よぉし、分かった! ちょうどさっき、水に溶ける水着を入荷したところだ、持ってこよう!」
「それは水着としての機能を果たしていません!」
水に溶けるものを着て水に入っちゃダメだろうに……
なんなんだ、この人は?
「おい、弟。テメェ今、『なんなんだこの人?』みたいな顔したな?」
「なんなんだこの人?」
「口にも出しやがったな!? 小生意気なクソガキだ! 屈服させたい!」
「高名瀬さん、助けてください、大至急」
「すみません。わたしも、あまりそちらの方の近くには寄りたくありませんので、自力で脱出してください」
くっ、援軍は現れない、か!?
「そいつが、あたしの水着を選んでくれたんだよ」
「ろくでもない大人だな、まったく!」
止めなきゃいけない身内の身にもなってみろと言いたい!
いや、言う!
「止めなきゃいけない身内の身にもなってみろ!」
「なかなか可愛がり甲斐のある小僧だな、テメェは。惚れそうだぜ」
お巡りさん、この人です!
「あぁ、まぁ、そんなヤツだけど、信用はしていいよ」
「信用など出来るか! こんな仕上がりで貴様の知り合いなのに!」
どこに信頼できる要素がある。
「そいつも一応、体電症の研究者で、主席で大学を卒業したんだよ」
「主席は姉だろう」
「分野が違うからね。あたしは、内科」
「で、アタシは外科だ」
え、そこで分かれるの?
全部ひっくるめて医学部じゃないの?
「あたしたちは医学部じゃないぞ」
「理工学部や法学部も含めた、ちょっと特殊な学部を出ているのだ、尊敬しろ」
「……雑種部?」
「めっちゃ毒吐くな、テメェの弟!?」
「切り返しがすごいでしょ? ぞくぞくしちゃう」
なんか、姉が二人いるようで二倍疲れる。
「こいつは外科としては天才なのよ。それ以外は変態だけど」
「天才とナントカは紙一重と言いますが、その紙一重を行ったり来たりされているわけですね」
「こっちの子も言うねぇ~。高名瀬だっけ? その名前、よ~っく覚えておくから」
言いながら、理知的(だと思っていた)お姉さんは懐から煙草を取り出し吸い始める。
「未成年の前で吸うな」
「悪いが、ここはアタシのテリトリーだ。文句があるならテメェが出ていきな」
「では、遠慮なく」
「だが、させん!」
何がしたいんだ、この人は!?
「こいつの技術を借りて、ポーちゃんに素敵な谷間がっつりビキニを着させてあげよう」
「……へ?」
突然、姉がよく分からないことを言い出した。
谷間がっつりビキニ?
そんなものを着たら、高名瀬さんのコンセントが丸見えになってしまうじゃないか。
「谷間がっつりビキニ……見たくないかい、シュウ?」
そんなの……
「見たいに決まっている!」
「いや、無理ですよ!?」
「大丈夫だ、そのためにアタシがいる!」
この謎の外科医が、一体何をする気なのか!?
果たして、谷間がっつりビキニが見られるのか!?
僕の心は、期待と好奇心に埋め尽くされていった。




