144 姉の行きつけ
で、どんなデパートに来たのかと思ったら……
「なに、ここ?」
そこは壁も床も天井も真っ白な、まるで病院のような施設だった。
「分かった! 身体測定だ!」
「自分のサイズくらい知ってます!」
いやいや。
自分のサイズを知っている人が、中二の水着でイケるなんて思わないって。
「高名瀬さん、君は高名瀬さんを過小評価している!」
「それ以上言うと、セクハラで訴えますよ?」
姉の時は怒らなかったのに!?
「ひどい……差別だ」
「差別の前にモラルを学んでください」
「正論だ!?」
ぐぅの音も出ないよ。
「ここは、研究所の所有するビルだ」
姉が言う。
圧倒的に説明が足りていないが、まぁ、姉が言う研究所なんて、体電症の研究所しかないだろう。
「なんで研究所に?」
「いろいろ揃ってるからさ」
姉曰く、このビルは六割が研究室やそれに付随する設備や施設で、残りの四割がホテルや飲食店、フィットネスや商店になっているらしい。
「籠ると、一切外に出ない研究者が多いからね。気付けば孤独死なんて笑えないだろう? だから、こういう施設を作って、外には出なくてもいいから、せめて建物の中くらいは移動して、人間らしい生活を送れという、上からのお達しなんだよ」
なんだろう。
超天才だらけのはずなのに、人間失格が多いな、体電症の研究者たちは。
「来てごらん、こっちがレストランフロアだ」
「わぁ~」
と、声を漏らした高名瀬さん。――の、声が尻すぼみに消えていく。
「……ガード下ですか、ここは?」
「あえて、そういう雰囲気を出してるの、あえて、ね?」
そこは、路地裏の小汚い感じをリアルに再現したような一角で、赤ちょうちんがぶら下がっている狭い飲み屋がいくつか並んでいた。
いや、これ、再現したんじゃなくて、本当に汚れてるな。
掃除しろよ、角を曲がるまでは綺麗だったんだから。
「この先に、女子のテンションが上がるようなお店もちゃんとあるから」
「じゃあ、なんでこっちから入った?」
「つい、体が。いつものクセで」
「行きつけてんじゃねぇよ」
常連客がここにいたわ。
こういう雰囲気が落ち着くんだよね~とか言ってそうだわ、この駄姉。
「何か食べる?」
「いえ、お腹はいっぱいなので」
ついさっき、お昼ご飯食べたしな。
「そっかそっか。まぁ、この先は見栄えばっかり華やかで、味はそこそこの大したことない店だから、行かなくてもいいや」
「女子のテンションが上がるようなお店でテンション上げろよ、女子」
オープンテラスとかにいたら、そこそこ目を引くようなルックスをしているだろうに、貴様は。
「じゃあ、水着を買いに行こうか。あとはカモフラージュ雑貨ね」
「あんまり聞き慣れない言葉だな、カモフラージュ雑貨」
「シュウはね。パンツ履いてれば隠せるからいいけどさ、そうじゃない人も多いんだよ」
オタケ君とかがそうか。
高名瀬さんも、水着になるならそういうのが必要になるか。
「シュウも、フルオープンにするつもりなら、何か買っておいた方がいいかもだけど――」
「大丈夫です。わたしがさせませんので」
どうさせないつもりなんだろうか?
僕が海パンに手をかけたら抱きついて阻止してくるとか?
それはそれで、変な誤解が生まれそう。
「射撃は得意です」
わぁ、どこにいても逃れられなそう。
レストラン街を抜け、エスカレーターを一つ下る。
……エレベーターで上の方まで上って来てたんだよ。姉に連れられてね。
無駄足だったなぁ。
フロアを下りると、『衣料品』と書かれたプレートが見えた。
だが、姉は別の方向へと歩いていく。
まずは雑貨か?
「さぁ、着いたよ」
とある店の前で姉が足を止める。
ウサギの顔をしたバニーガールが描かれた看板。
赤くドギツイ照明に照らされたそのお店には、オトナの遊びに使われそうな様々なアイテムが陳列されていた。
詳しく説明するのが憚られるような品々が。
「じゃあ、水着を見に行こうか」
「もうちょっとマトモな店で選べぇ~い!」
だから、あんな水着とも呼べないものしか買ってこられないんだよ、貴様は!
MerryChristmas☆
皆様に素敵な夜が訪れますように




