140 休日コーデ
「ようこそ」
「……お邪魔いたします」
休日コーデ高名瀬さんIn我が家。
「白だね!」
「ふ、深い意味はありませんので!」
本日の高名瀬さんは、水色のワンピースに白い上着を羽織っていた。
昨日とは違う、水色のワンピースだ。
「水色好きなの?」
そう聞くと、なんか、じろっと睨まれた。
あれ?
「あっ、僕が似合うって言ったから着てきてくれたの?」
「知りません」
ぷいっと顔を背けて、「お邪魔します」と呟いて玄関に上がる。
靴をきちんと揃えて、前後を入れ替えて、つま先がドアの方へ向くように。
しつけが行き届いているなぁ。
「親御さんのしつけがいいんだろうね」
「独学です」
えぇ……しつけって、独学で学ぶものだっけ?
「高名瀬さんがマナー講師とかやったら、厳しそうだね」
「そういうことは、思っても口にしないのがマナーです」
早速叱られた。
「暑かったでしょ? 麦茶飲む?」
「ありがとうございます。では、いただきます」
「座ってて」
「いえ。わたしが」
「でも、お客様だし」
「この家のキッチンは、わたしが掌握しました」
「いつの間に!?」
まぁ、確かに、この家のキッチンで一番美味しいものを作ったのは高名瀬さんだけども。
「そっかぁ、掌握されちゃってたかぁ」
「……冗談ですので、そんな、改めて言わないでください」
「いやいや、掌握してて」
そしたら、また何か作ってくれるかもしれないし。
「ところで、……お昼は、食べましたか?」
「ううん。高名瀬さんが来るから、それまでに勉強しとこうと思って」
「……どうして、わたしが勉強をしに来るのに、先に勉強しちゃうんですか?」
「いや、だってほら、レベル差があり過ぎるから、ちょっとでも追いついとかなきゃって……魔王式特訓の影響で、つい」
「狩りも勉強も、一朝一夕で追いつかれるほど、ヤワな鍛え方はしていません」
これは、負けず嫌い、なのだろうか?
「というわけなので、お腹ペコペコです」
「……そんな、無垢な瞳で見ないでください」
「あわよくばと思って」
「もぅ……おねだりはもうちょっと上手にするものですよ」
そんなことを言いながら、そこそこ大きなトートバッグから食材を取り出す。
レタスにキュウリにトマト、夏野菜の彩りが美しい。
「作るつもりで来てくれたんだね」
「万が一に備えてです。わたしは、慎重な人間なのです。鎧戸君とは違って」
「あ、さっき覗きに行ったら、モンバスの掲示板ザワついてたよ。魔王様の『では、ご自宅に伺っても構いませんか?』発言の影響で」
「そのような場所、テストを控えた学生が覗くものではありませんよ! 当面禁止です!」
「騒動が沈静化するまで?」
「……そんな顔をしていると、冷やし中華の麺抜きにしますよ?」
「わっ、冷やし中華なんだ。やった、大好き!」
「…………」
ん?
「……冷やし中華が、お好きなんですね」
えっと……「わっ、冷やし中華なんだ。やった、大好き!」っていうのは、「冷やし中華を作ってくれる君が大好きだよ」の可能性もあるか、今のセリフだと。
なるほどなるほど。
「どっちだと思う?」
「分かりました。麺を抜きます」
「わーっ、ごめんなさい! 冷やし中華が大好きです! 子供のころからの大好物です!」
「……まったく」
赤い頬っぺたをぷっくりと膨らませる高名瀬さん。
その横顔に、こっそりと囁いてみたらどうなるかなぁ。
高名瀬さんのことも、大好きだよ――って。
……冷やし中華から全部抜かれそうだから、やめとこう。
冷やされてない、何かよく分からないものが出てきたら、悲しいからね。




