139 ストレス発散……?
『すみませんでした。ちょっと気が緩んでました』
魔王のアイテムでノトナメことオタケ君の前に転移した途端、モヒカン頭のムキマッチョが土下座してきた。
そんなモーションもあるんだ。
まぁ、あるか。遊び心満載のこのゲームなら。
『かまわぬ。ストレス発散は必要だからな』
『わたピも~、そ~思ぅ~☆』
ちなみに、この会話は頭上の吹き出しでしているので、全プレーヤーの目に触れる。
なので、キャラを作って会話しているのだが――
――ピロン♪
高名瀬『怒りますよ?』
速攻でChainにクレームが届いた。
僕『いや、キャラ作り、キャラ作り』
高名瀬『そのキャラは、わたしであると誤認される可能性が極めて高いのですから、言動には細心の注意を払ってください』
僕『ごめんなさい。精一杯努力してみる』
仕方ないので、フォローを入れておく。
『すいへーりべぼくのふね!』
――ピロン♪
高名瀬『精一杯努力してそれですか!?』
僕『いや、頭よさそうなワードを頑張って考えたんだけど、他に思い浮かばなくて』
高名瀬『本当にテスト勉強大丈夫なんですか!? 物凄く不安になってきました。あとで確認に行きます』
あ、午後から会う約束できちゃった。
『楽しみにしてるね☆』
――ピロン♪
高名瀬『なぜ画面の中で言うんですか!? 衆人環視の中で!』
あ、間違えた……
いやほら、両方使って会話してたから、何か、どっちがどっちか分からなくなっちゃって。
――ピロン♪
オタケ君『何か変だと思ったら、Chainで会話してたのか』
僕『いらっしゃい』
オタケ君『フレンドチャットを使えばいいだろうが』
僕『三つも同時進行したら、どこに誤爆するか分かったもんじゃないよ、僕』
高名瀬『鎧戸くんは素直な上に不器用ですからね……』
僕『そんな、憐れむような雰囲気を文字に込めて送信してこないでよ』
高名瀬『は~ぁ……』
僕『ため息ついたな、このやろー』
この人は、人の失敗は喜んでイジってくる。
あなたも、人のこと言えないくらいにいろいろやらかしてるからね!?
魔王『では、こちらで会話を行いましょう』
と、魔王がフレンドチャットに移動したので、僕たちもそれに倣う。
魔王『オタケ君、勉強は順調ですか?』
ノトナメ『あぁ。使用人が間違えたのかもしれんが、今日やろうと買ってきてもらった問題集が簡単過ぎてな。想像以上に早く終わってしまったんだ。今、別の参考書を買いに行ってもらっている。それを待つ間、少しだけ狩りをしようかと思ってログインしたんだ』
あぁ、うん。
それはね、使用人さんの間違いでも、出版社のミスでもなく、魔王によるステルス・スパルタのせいなんだよ。
魔王『問題集が簡単に感じるのは、オタケ君の基礎レベルが上昇したからです。新しい武器を使う時、基礎レベルがしっかりと上がっていると攻撃力が上乗せされてその威力を十全に発揮できるものです』
ノトナメ『なるほど! さすが魔王だ。知らず、俺は基礎レベルが上がっていたのか』
うん。
本当に知らない間にね。
魔王『今買いに行っているという参考書を見て自習をすれば、明日からの試験はきっと大丈夫でしょう。今日はゲームをすることを許可します。ただし、自習の時間はきっちりと確保してください』
ノトナメ『もちろんだ。義務を無視して権利だけを得ようとするのは人として間違っている。安心しろ。俺のせいで鎧戸との泊まりがけの旅行が中止になるようなことはさせない!』
魔王『わたしは、そんなことを言っているのではありません!? 別にわたしは……こっちを見ないでください、高菜Say!』
キャラですら、見てちゃダメなのか。
っていうか、動かしてないけどね、キャラ。
魔王『……オタケ君が、ササキ先生と旅行に行きたいだけじゃないんですか?』
ノトナメ『そ、っそ、そんあこたはにおz!』
パニクってるパニクってる!
タイピングがシッチャカメッチャカになってるよ!
たぶん「そんなことはないぞ」って言いたかったんだろうけども。
そんなことはなくないでしょ?
そんなことしかないでしょうに、オタケ君の場合。
高菜Say『ひとつ、悲しいお知らせをしていい?』
ここで僕は、非常に気の滅入る話をしなければいけない。
高菜Say『昨夜、姉が「新しい水着買ってきた☆」と、倫理観度外視の紐のような布製品を僕に見せてきたので、その紐で姉を縛り上げ、床に転がる姉にこんこんと説教をし、倫理的に問題のない極一般的な感性を逸脱しない範囲のまともな水着を買ってくるよう厳令しました』
魔王『お疲れ様です』
高菜Say『痛み入ります』
ノトナメ『ひも……』
魔王『うるさいですよ、オタケ君』
確かに、二文字だけどうるさかったね、今のは。
高菜Say『今日こそは、まともな水着を買ってくるとは思うけれど、……ビキニは覚悟しておいてください』
ノトナメ『すまない、勉強の時間が惜しい。狩りはまた後日にしてくれ。お前たちも、しっかりと平均点を上回れるよう、油断なく最後の追い上げをしておくんだぞ!』
――フレンドのノトナメがログアウトしました。
高菜Say『……なんて不純な原動力』
魔王『高校生男子というのは、多かれ少なかれみんなそのようなものです』
高菜Say『僕をしれっとそこに含めないでくれる?』
魔王『おや、そう聞こえましたか?』
そう言ったんでしょうに。
魔王『圧をかけ損ねてしまいましたね』
高菜Say『だね。どうしようか?』
魔王『では、我々も真面目に勉強をするというのはどうでしょうか?』
高菜Say『賛成』
万が一、僕のせいで旅行がなくなったら、方々から恨みを買いそうだ。
オタケ君はもちろん、戸塚さんからも。
もしかしたら、高名瀬さんからも。
高菜Say『じゃあ、どこで待ち合わせする?』
尋ねてから、「あ、そういえば会うって約束は確定してなかったんだっけ」と思い至ったが、まぁ、聞いちゃったし、嫌なら断るだろうと思って返事を待つ。
……返事が来ない。
おかしいなぁ~と思って画面を注視したら――
『では、ご自宅に伺っても構いませんか?』
――全プレーヤーに見えちゃう吹き出しの方に誤爆してた。
……よくそれで人に不器用とか言えたな。
『返事してくださいよ』
じゃないんだよ、魔王。
気付いて!
全然ウェルカムだけども!
その後、モンバスの掲示板は、またちょっとザワついたらしい。




