135 お弁当と腕試し
玉子焼きは、甘くて、とても美味しかった。
「歴史を塗り替えたね、これは」
こんなに美味しい玉子焼きは初めてだ。
玉子焼きは、ご家庭の味付けが結構出るタイプの料理だと聞き及んだことがある。
小耳に挟んだ的な?
どっかで誰かが言ってたような、そうでもなかったような、薄ぼんやりとした記憶の中にそんな話が紛れ込んでいる。
味噌汁に続き、玉子焼きもメチャ美味い。
「僕、高名瀬家の味付け好きかも」
「そっ…………れは、どうも」
言いながら、唐揚げとアスパラの肉巻きとおにぎりを小皿に載せて僕に差し出してくる高名瀬さん。
うっわ、めっちゃ美味しそう。
「自信作?」
「い、いつも通りのものです。……ただ、我が家の味付けがお口に合うのであれば、これも美味しいと、思います。あのっ、妹が、とても好きなので、客観的にも評価の高いおかずですので」
言い訳するように、やや早口で論拠を追加する高名瀬さん。
妹ちゃんの好きなものばっかり作ってあげてるんだろうなぁ。
このアスパラの肉巻き、物凄い綺麗に巻けてるもん。
いいお皿に盛り付けたら、料亭で出せるレベル。
「うっわ、美味しっ!?」
味も、申し分なかった。
いや、称賛に値する。
「いいなぁ、妹ちゃん。毎回このお弁当なんでしょ? ……姉を替えてほしい」
切実に!
それはもう、切実に!
「こんなものでよければ、言っていただければ、いつでも……」
「へぇ~、じゃあ二学期からは二人でラブラブ弁当を仲良く食べるんだ?」
「ラッ、ラブラブとか、そういうことではありませんよ!?」
折角、嬉しい申し出がなされようとしていたのに、途中で邪魔が入った。
おのれ戸塚さんめ。
完了前に破棄された契約って、途中まででも効力残ってないかな?
開こうとしたらエラーが出て実行できないファイル的な扱いかな?
……くそぅ。
「お味はどうですか? 口に合わないものはありませんか?」
と、高名瀬さんがオタケ君と戸塚さんに言葉を向ける。
「甘い」
「戸塚、それは弁当の感想ではなく、高名瀬たちの空気感の話だ」
「甘くなんてありません。妹とも、いつもあんな感じです」
「なるほど。高名瀬にとって、鎧戸はもう家族のような存在なんだな」
「……オタケ君はバランでも食べていてください」
と、オタケ君の小皿に、お弁当の仕切りに使う緑のビニールの草を大量に載せていく高名瀬さん。
さすがに、それは食べられないと思うけども。
「あたし、家のお弁当でこのビニール草使ってるヤツ、初めて見たわ」
「バランですよ。覚えておいてください」
「テストに出ないもんまで覚えたくないわよ! ……もう、頭の容量、限界……次何か覚えたら最初のヤツ忘れる……」
ストレージ少なそうだね、それは。
「脳のストレージが少ない時ってさ、昔のがどんどん消えていくのと、新しいのが覚えられないの、どっちがいいかな?」
「脳の中を整理して空き容量を増やし、脳を鍛えて記録領域を拡大するのが一番有用かつ健全です」
まっとうなことを言われた。
それが出来れば苦労しないんだけどねぇ
というわけで、午前の勉強を終えた僕たちは、高名瀬さんお手製のお弁当を食べている。
これが、何を食べても美味しいからびっくりだ。
「食事が終わったら小テストをしましょう」
「えぇ~っ!? なんで楽しいお弁当タイムにそんな萎えること言うかなぁ、ポーは!?」
「大丈夫です。腹ごなし程度の簡単な小テストです」
「腹ごなしじゃなくて、お腹くだしそう」
うまいこというね、戸塚さん。
「心配はいりません。上の階層でレベルを十分に上げたあと、下の階層に戻ってザコボスを乱獲する程度の簡単なものです」
例えがエグいよ、高名瀬さん。
ザコボスが何をしたっていうのさ?
ボスなのにザコ呼ばわりだしさ。
ただ、悔しいかな、その感覚は物凄くよく分かる。
絶対楽勝のヤツだね。
それで「え、最初はあんなに苦労してたのに、このボス、こんなザコいの!?」って驚きと優越感に浸れるんだよねぇ。
「ザコ小テストをして、ここまでの努力で身に付いた実力を実感してみませんか? レベルアップをして習得した大魔法をザコ相手にぶっ放すような感覚で」
と、高名瀬さんが説明をすると、戸塚さんとオタケ君の瞳が分かりやすくギラついた。
「それは、ちょっと面白そうじゃん」
「うむ。修練の成果を確認するのは大切なことだな」
二人とも、自分が優位に立てるフィールドでの優越感をしっかりと味わったことがあるようだ。
物凄く嬉しそうな顔をしている。
オタケ君もゲーマーだから、強い武器や魔法を手に入れて試し切りする楽しさを知っているのだろう。
戸塚さんは、言わずもがな。絶対そーゆータイプだし。
「では、存分に英気を養って、ザコテストに完勝してやりましょう」
「任せといて!」
「粉砕してやる!」
すっかり乗せられた戸塚さんとオタケ君。
「鎧戸君も、いいですね?」
「高得点取れたら、ご褒美くれる?」
「ご褒美の必要もないような簡単なテストですよ」
「いやいや、ご褒美はいついかなる時も必要でしょうよ」
ご褒美が必要ないなんてシチュエーションに、覚えがない。
「……では、あとで何か考えます」
「やったね!」
絶対高得点を取ってやろう。
そうして、意欲高く残りのお弁当を間食した僕たちは、高名瀬さんが言うところの『ザコボス小テスト』に挑んだ……の、だが。
「わっ、ホントだ。基礎のとこしか出てこない」
「ふむ。これなら俺にも解けそうだ」
完全に乗せられている二人は気が付いていないだろうけれど、昨夜徹夜でテスト範囲を勉強した僕には分かる。
高名瀬さん、これ……普通に来週からの試験範囲のテストだよね?
そんな思いを込めて高名瀬さんを見れば――
「しぃ~」
と、なんとも可愛いウィンクをいただいた。
しょうがない。
報酬を受け取ってしまった以上は黙っておくとしよう。
しかし、うまいこと乗せたなぁ、この勉学的問題児二人を。




