133 ハイスコア
図書館に着き、僕たちは自習室へと移動した。
……こんな部屋があったんだ。
「こちらはグループディスカッション等にも使用できるので、多少はうるさくしても周りへの迷惑にはなりません。軽微ではありますが、防音ですので」
と、この部屋の説明をしてくれる高名瀬さん。
そこは小さい会議室のような空間で、やや狭めの部屋の中に大きなテーブルと椅子が六脚、あとネット検索が可能なパソコンが一台置いてあるだけの簡素なスペースだった。
「ちなみに、図書館の蔵書の持ち込みも可能です」
「詳しいんだね」
「この図書館はよく利用しますので」
でも、グループディスカッション用の部屋に用事なんてなかったはず……あ、ごめんなさい。何も言ってないから、何かを察して睨まないで。
「ちなみに、飲食も可能ですが、ニオイの強いものは禁止されています」
「カレーヌードルとか?」
「軽食を超えるものはやめた方が無難でしょうね」
「カレーパンは軽食だけど、結構ニオイがするよ?」
「カレーが食べたいんですか、鎧戸君は?」
いや、そういうわけじゃないけど。
こういう、「◯◯は禁止」って言われると、どこまでがセーフなのか、ギリギリを知りたくならない?
まぁ、調べる方法は実際やってみて、叱られたらアウトって方法しかないんだけどね。
つまり、毎回確実にアウトになるという。結果的にね。
「事前に調べたところによると、お弁当くらいであればこの中で食べることは許されているようです」
「あぁ、じゃあお弁当持ってくればよかったね」
この密閉された空間で、友人とお弁当を食べるとか、なかなか楽しそうじゃない。
そうか、事前に調べておけばよかったのか。
「ご安心を」
そう言いながら、高名瀬さんがカバンからやや大きめな包みを取り出す。
布に包まれた直方体……三段重ねの重箱くらいのサイズ感だけど……え、本当に重箱なの?
「お弁当は、一応用意してきましたので、よろしければみんなで食べましょう。もし嫌でなければ、ですけども」
「いいの!? 食べる食べる! わぁ、ありがとう、高名瀬さん!」
期せずして、願いが叶った。
さすが高名瀬大明神。
お願いする前にこちらの願いを察して叶えに来てくれる超有能スタイル!
「……大袈裟に喜び過ぎです。四人分なので少し大きいですが、中身は普通のお弁当ですので」
「高名瀬さんの手作り弁当が食べられるなんて、幸せだなぁ~」
「……大袈裟ですってば。もぅ」
とか言いながら、満更でもなさそうなお顔の高名瀬さん。
早起きして作ってくれたんだろうなぁ。
心を込めて完食せねば!
「今から食べる?」
「お昼ご飯です」
無情にもしまわれるお弁当(重箱)。
あぁ、……楽しみが遠のいていく。
「戸塚の言った通りだな」
「でしょ?」
少々ご機嫌な高名瀬さんとは打って変わって、オタケ君と戸塚さんは、なんだかしょっぱい表情をしていた。
……どしたの?
「一昨日さ、ミーコたちとお昼食べたじゃん?」
はて?
聞き覚えのないお名前が。
「なに首傾げてんのよ! あたしの友達の! クラスメイトでしょ! あのギャルギャルしい金髪の娘!」
あぁ、三浦あいりさん。
え、ミーコって、三浦の「ミ」?
「ミーコ、アレで結構家庭的でさ、自分でお弁当作ってるって話、したじゃん?」
はて……
「覚えてろよ、楽しかったクラスメイトとの思い出はさぁ!」
いや……なんか、ギャルたちのパワーに圧倒されて、記憶が焼き付く前に「だーっ!」って押し流されていっちゃった感じで。
「で、あんたさ、ミーコの玉子焼き食べで、『すごい美味しい』って言ったじゃん?」
…………はて?
「はじまってんのか!?」
わぁ、怖い発言!?
SNSで発信すると即炎上するよ、そーゆー発言!?
何がはじまってるのかは、あえて伏せるけども!
「で、そん時さ……」
と、戸塚さんが高名瀬さんを見る。
顔を逸らす高名瀬さん。
「……すっごい顔してたもんね?」
「さて、なんのことでしょう?」
あ、はじまり仲間、発見☆
「いいや、こいつのはただのすっとぼけよ」
おぉーっと、高名瀬さんの顔がみるみる真っ赤に。
「断言してあげるわ。絶っっっっっ対、玉子焼き入ってるから。それも、甘いヤツ」
……あ、あぁ~っ、思い出した!
三浦さんの玉子焼きが甘くて、でもくどくなくて、「あぁ、美味しいなぁ」って思ったんだ。
「え、なに? ポーはさ、鎧戸の中の最高は自分でなきゃ気が済まないわけ? ん?」
「そのような事実は確認されていません」
「あんたさ、小学校のころ、トーカ堂のゲームコーナでさ、あたしがまぐれであんたのハイスコア塗り替えた時さ、ソッコーで塗り替え直したよね? 次の日、見に行ったらあたしのスコアの上に『POU』って名前のハイスコアが表示されてたんだけど、あれ、あんたよね?」
「き、記憶にございません……」
おぉっと、高名瀬さんが追い詰められた政治家のような苦しい言い逃れを!?
「なんでも一番が好きなんだね」
「そういうことでは…………もぅ、いいから勉強を始めますよ!」
誤魔化すように大きな声で言って、バサバサとプリントの束をテーブルに広げる高名瀬さん。
また新しい練習問題を作ってきてくれたらしい。
「……りっちゃんは、80点取れるまで休憩なしです」
「ちょっ、ひどくない!?」
「知りませんっ!」
あぁ、高名瀬さんをからかうと、そういう目に遭うのか……よく覚えておこうっと。




