130 カフェモーニング
駅から商店街の方へ少し進むと、全国チェーンのコーヒーショップがあった。
おぉ、前回すっかり見落としてた。
「高名瀬さんはこういうお店、よく行くの?」
なんとなく、高名瀬さんは純喫茶とか、落ち着いた喫茶店の方が似合う気がする。
静かに本とか読む感じで。
「こういうお店だと、まず確実に充電用コンセントがありますので」
あぁ、そうだった。
高名瀬さんは本よりゲームの人だった。
「純喫茶とか似合いそうだなって」
「どんなイメージですか?」
「白い縦セーター着て、落ち葉舞う公園でイヌを散歩させつつベンチで詩集を読んでいるような?」
「文学かぶれで傍迷惑なイメージを持たないでください」
傍迷惑かな?
「犬の散歩の途中に読書にふけるなんて、犬が可哀想じゃないですか」
おぉ、そこかぁ、迷惑被ってるの。
確かに、散歩中は散歩に集中するべきなのかな?
でも、綺麗なお姉さんのイメージの定番なんだけどなぁ。
「夏には白いワンピースで海辺に。つばの広い帽子被ってさ」
「白は透けますし、海辺でつばの広い帽子なんか被ると風で飛ばされますよ」
「飛ばされた帽子から新たな出会いが始まるんじゃない」
「なぜ男性はそのような鈍臭い女性が好きなのでしょうか」
鈍臭いって……
可愛いじゃない、帽子飛ばされ系女子。
……いや、そう表現すると鈍臭さが際立ってしまうけれども。
話しながら、僕たちは半分にカットされたトーストとゆで卵と小さいサラダがついたモーニングセットを注文した。
あ、高名瀬さんがクーポン使ってる。
半額の?
一人分で二人とも食べられちゃうね。
この商店街の割引率、おかしくない?
「椅子高いね」
窓辺にあるカウンターのような少々狭めの席に、高名瀬さんと並んで座る。
腰を落ち着けて長居するようなお店ではないらしい。
あ、本当にあった、充電用コンセント。
各座席に一個ずつあるんだ。取り合いにならなくていいね、これは。
「充電する?」
「さすがにそこまで酷使していませんよ、今日は」
まだ八時だしね。
というか、いつもは酷使してるって認識はあったんだ。
バッテリーに自我があれば、労基に駆け込まれてるかもしれないくらいに酷使してるよね。
「高名瀬プレイングゲーム株式会社は超絶ブラックだよね」
「なんですか、その生産性のない企業は」
でも、魔王のブランド力は上がったよ。
すごい売れ行きだったみたいだよ、魔王フィギュア。
ネットニュースに載ってた。
社会現象じゃない、ちょっとした。
「有名人が隣にいる」
「有名人じゃありません。あれはただ世界が、忘れかけていた魔王の魅力を再確認しただけです」
世界を動かしましたか、高名瀬さん。
「便乗魔王がぽこぽこ出てきそうだね」
「すでに何名か出てきていますよ」
そうなんだ。
「高名瀬さんのフリして悪さされないといいね」
「とりあえず、目に余る数名は叩き潰しておきましたので、しばらくは大人しくなると思いますよ」
「……なにしたの?」
「PVPを仕掛けて瞬殺し、デスペナで弱体化したところを奇襲して七回ほどデスペナを食らわせたら土下座されました」
「そんなに執拗に追い詰められるシステムなの!?」
「常人には潜り込めない高難易度のダンジョンの最下層でたまに高レベル魔獣がドロップするアイテムを使用すれば可能です」
「またそんな、気が遠くなるような低確率のアイテム乱獲して……」
「レアペアモンのコンプリートに比べれば簡単なものです。……最近のゲームはプレーヤーに合わせて少々ぬるいんですよ」
絶対ぬるくない。
それたぶん、ブラジルとかアルゼンチンのサッカーリーグで戦ってきたプロサッカー選手が、ご近所のキッズサッカークラブの紅白試合で「弱い!」って言ってるようなレベル!
まったく、この人は……テスト期間中に何をやってるんだろうねぇ。
僕たちの資料まで作って、その上でゲームをする時間を確保して。
本当に、高名瀬さんは謎だ。
「あの……」
そんな高名瀬さんが、僕に、こんななんてことない質問をしてきた。
「鎧戸君は、白が、好きなんですか?」
ん?
「いえ、白い縦セーターとか、白いワンピースとか」
と、自分のスカートを押さえる。
ちなみに、今日の高名瀬さんは爽やかな水色のワンピースに上着を羽織っている。
「水色も大好きだよ」
「そっ、そういうことではなくて……っ! もぅ、いいです」
ぷいっとそっぽを向く。
こちらを向いた耳は真っ赤だった。
「あとで今日のファッションについて褒めさせてね」
「もう十分いただきました」
「その上着のワンポイントさぁ」
「もう十分ですってば!」
こちらに背を向け耳を塞いで体を丸める。
持ち手がついてたら、きっと僕は家に持ち帰ってただろうな。
なんだろう、この可愛い生き物。
今朝の朝食は、いつにも増して美味しく感じた。




