129 集合場所にて
市立図書館最寄り駅の駅前広場に九時集合。
昨日、下校前にそう決まった。
おぉ、下校時に休日の待ち合わせ場所決めるとか、まるで青春の1ページのようだ。
って言ったら――
「ようだもなにも、まさに青春の1ページそのものじゃないですか。我々は学生なのですから」
――と、高名瀬さんに言われた。
なので、「じゃあ今、高名瀬さんは青春を謳歌してるんだね?」って聞いたら「……うるさいです」ってほっぺたを押されて首の向きを変えられた。
最近、照れる時に自分の顔を隠すんじゃなくて、こっちの視線を遮る方向にシフトしてきてないかな、高名瀬さん?
というわけで、本日土曜日。
快晴。
うだるような暑さがやって来るのはまだもう少し先になるであろう、比較的涼しい時間。
僕は一人、集合場所の駅前広場にいる。
まぁ、広場と言っても憩いのスペースがあるわけでもない、コンビニと処方箋薬局がある程度のちょっと開けた場所だけど。
駅を出て少し進むと商店街のような雰囲気になり、それなりに人で混み合う。
それを避けるには一本裏の路地を通るといい――と、高名瀬さんが以前教えてくれた。
そう。
何を隠そう、市立図書館最寄りの駅は、高名瀬さん行きつけのゲームショップ『MISOSAZAI 』の最寄り駅でもあるのだ。
わぁ、なんかもうすでに馴染みが出てきてる。
「……鎧戸君?」
高名瀬さんお手製の参考書(コピー用紙の束)をぺらぺらめくっていると、不意に声をかけられた。
「あ、おはよう、高名瀬さん」
「おはよう……ございます。お早う過ぎますけれども」
と、駅前の大きな時計に視線を向ける。
時刻は八時一分。
「まだ集合時間の一時間前だけど、高名瀬さん時間間違えた?」
「わたしよりも早く来ていた鎧戸くんには言われたくありません。どうしたんですか?」
心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
いや、別にどうしたというわけでもないのだけれど。
「なんとなくね、高名瀬さんは集合時間より早く来そうな気がしたからさ」
オタケ君とやったモンバスの時だって、開始時間の随分前からゲームにログインしてたし。
きっと高名瀬さんは五分前行動の人を遥かに凌駕するほど事前に行動する人なのだろうと思う。
「……もしかして、この駅だから、ですか?」
と、高名瀬さんが駅前の道から分岐する裏路地の方へ視線を向ける。
そう。
この駅は、先日高名瀬さんが暴漢に連れ去られかけた、あの駅なのだ。
一人でこの場所に立っているのは不安だったりしないかな、って。ちょっとそう思って、絶対に高名瀬さんより早く来ておこうと思っただけ。
ただそれだけだ。
「まぁ、それもあるけど、一番は待ちきれなくて」
けど、高名瀬さんは使わなくていい気を遣い、しなくていい恐縮をしてしまう人だから、もう一つの理由の方を述べておく。
「休日の図書館デートに、高名瀬さんがどんなオシャレしてくるのかなって」
「でっ……デートじゃ、ありません。……他の人もいますし」
「でも、まだ二人きりだよ」
「それは、そう、ですが…………もぅ、そんなことを言わないでください。……どんな顔をしていいか分からないじゃないですか」
わぁ、可愛い。
「わぁ、可愛い」
「ですから、口に出す前に――」
「うん。一回考えてから、出した」
「なんで出すんですか、もう!」
ぽかりと、僕の肩を叩く猫パンチ。
うん。
早く来てよかった!
大正解!
「朝食こそ、食べ損ねたけれども!」
しかも、そんな状況でも姉の味噌汁は温めたという。
僕、偉くない?
「朝ご飯、食べてないんですか?」
「ちょ~っと、早く来過ぎちゃってね」
「……もぅ」
と、ほっぺたを膨らませようとしたのであろう高名瀬さん。
けど、口元が緩んでうまくいっていなかった。
「勉強中にお腹が鳴ってしまいますよ? 空腹は集中力を奪いますので、軽く何かお腹に入れた方がいいです」
「じゃあ、牛丼屋さんでも……」
「満腹になれとは言っていません」
だよね。
満腹になると、集中力は霧散するもんね。
「少し先にコーヒーショップがあります。簡単なモーニングもありますから、そこへ行きましょう」
「いいの?」
「りっちゃんは、集合時間ぎりぎりに来るタイプの人です」
あぁ……っぽいよねぇ。
「じゃあ、オタケ君にChainしとこっと」
「オタケ君はまだちょっと読み倦ねています。行動が突飛過ぎて」
主に、姉が関わるとね。
「じゃあ、行こうか。どっち?」
「こっちです。ついてきてください」
にっこり笑う高名瀬さんに、さり気なく、一番気になっていることを尋ねる。
「高名瀬さん。大丈夫?」
僕が言うと、高名瀬さんは一瞬真顔になり、そして口をむにむにさせて――
「……鎧戸くんがいてくれますから」
――とびきりの可愛い笑顔で言ってくれた。
早起き、してよかった!




