127 木曜日の放課後
オタケ君の乳首デバイスのデモンストレーションを見学した僕たちは、改めて部室で休憩をすることにした。
「その名称はやめてくださいね」
「え、乳首デバイス?」
「やめてくださいってば!」
ダメかなぁ?
分かりやすくていいと思うけど。
「じゃあ、鎧戸のはお尻コードか?」
「なら、高名瀬さんのは谷間コンセントだね」
「訴えますよ」
訴えられた。
仕方ないので、粛々と賠償を支払う。
今日は、島根の出雲そばチョリッツ!
ふふふ、そばだと思って侮るなかれ!
そばの風味がチョコレートと絶妙にマッチして、これが癖になる美味しさなんだよね!
僕も「そばかぁ」って嫌厭していたんだけど、食べてみたらこれが美味しくて!
なんかアレだね、ほうじ茶チョコみたいな、ほろ苦と甘みと、それを包み込む芳醇な香りがベストマッチしている感じ。
「どうぞ、お収めください」
「…………そば、ですか?」
その顔はナンセンスだよ、高名瀬さん!
いいから一口食べてみて!
「っていうか、なにここ!? お菓子めっちゃ入ってんじゃん!?」
僕がこつこつ持ち込んだチョリッツ貯蔵庫(ただの戸棚)を覗き込んで、戸塚さんがはしゃぎ出す。
「なにこれ? 見たことないんだけど。こんなの売ってるの?」
「御当地限定品だよ」
「宇治抹茶あずき?」
「あ、それ美味しいですよ。お勧めです、りっちゃん」
と、抹茶あずきに手を伸ばす高名瀬さん。
そばを食えい!
「いいから食べてみてって、僕のお勧め」
「まぁ……いただきますが…………そばとチョコ、ですよ? 美味しいんですか?」
「美味しいから商品化されてるんだよ」
「いえ、この企業は数々のやらかしがありますので……」
確かに。
過去には味噌煮込みチョリッツやひつまぶしチョリッツという一ヶ月で市場から姿を消した失敗作も多数販売していた。
販売する前に、開発の段階で止めようよ、ねぇ企業!?
「でも、これは大丈夫!」
「そうですか? ……では」
箱を開け、中の袋を破り、そば色のチョリッツを一本取って口に運ぶ。
かりっ!
といい音を響かせて、中程から折れたチョリッツをもぐもぐと咀嚼する。
「……よろしい。合格です」
「どこの権力者なの、高名瀬さん?」
あ、気に入ったっぽい。
すぐ二本目に手が伸びた。
「じゃ、あたしはラズベリーにしよ~っと」
「あ、それ酸っぱいから結構いまいちだよ」
「なんで食べる前にそういうこと言うかなぁ、鎧戸!?」
「食べてから『酸っぱ!?』ってなったら、なんでか僕が怒られそうだったから」
「まぁ、酸っぱかったら鎧戸を怒るけど」
なぜなんだろう?
理不尽だなぁ、世の中って。
「レンゴクも食べよう」
「ふむ。では今度、俺も何か差し入れを持ってこよう」
「やった! それじゃあ、この部室をお菓子で埋めちゃおう!」
きゃっきゃとはしゃぐ戸塚さん。
基本的に、校内へのお菓子の持ち込みが禁止されていることなど、まったく頭にはないようだ。
それにしても随分と賑やかになったなぁ、この部室も。
この賑やかさが、いつかここの普通になる日が来るのかなぁ。
そんなことを考えながら、僕は自販機で買ってきた乳酸菌飲料をごくりと飲んだ。
そんな中、出雲そばチョリッツを食べながらも、平然とした声で高名瀬さんが言う。
「おそらくみなさんは今、現実逃避の真っ最中なのだと思いますが、五時間目の小テストの結果はどうでしたか?」
「やめて! そんな過ぎたことは考えたくない!」
「俺たちは常に前を向いて進んでいるんだぞ、高名瀬!」
「えぇ、前に進むために、小テストの結果を受け止めて、ご自分の実力を正確に把握することが重要だと思いますよ」
「もぅ! 高名瀬さんの正論マン!」
「いえ、マンではありません」
「正論クイーン!」
「王族でもありません。が、そうですね。では王族権限で、全員小テストの答案を提出してください」
王族が強権を振りかざしてくる!?
そうなんだよ……
なんかわちゃわちゃした空気で朝から浮ついていた我がクラスに、悪魔が微笑んだのが五時間目。
期末試験が近いとかいうよく分からない理由で、抜き打ちの小テストが実施された。
それも、小テストが六教科!
現国、古文、数学、歴史、物理、英語の凶悪な布陣で!
こんなもん、クラス全員が討ち死にしてもおかしくない、いやむしろ当然だとすら言える!
しかも、何を張り切ってるのか知らないけれど、担任と副担任の華麗なる連係プレイで、五時間目の小テストの採点された答案を六時間目に叩き返してくるという鬼の所業!
この世に悪魔が潜んでいるのだとすれば、きっとあぁいう顔をしているに違いない。
結果は、言うまでもなく惨憺たるものだった……
「期末が近いからこそ、少しでもテストから離れて生きていたいのに……」
「そうよ! よく言った、鎧戸!」
「古文も、実技があれば、俺は……」
「古文に実技はないので諦めてください、オタケ君。そしてそこの鎧戸君とりっちゃん、現実から顔を背けず直視してください」
ここにも悪魔がいる。
可愛い顔をした小悪魔が。
結局、小悪魔には逆らえず、我々の悲惨な答案用紙が回収され、小悪魔の口から盛大な、それはもう盛大なため息が漏れ出た。
「来週からテスト期間に入ります。その前に、全員でテスト対策を行いましょう」
「まさか、オタケ君の力で問題を事前に!?」
「そんなことはしませんし、させません! 普通に、勉強会です!」
勉強会……かぁ。
「鎧戸君」
感情が思いっきり顔に出てしまったのだろう。
高名瀬さんが僕を見て、にっこりと微笑む。
そして、こんな、回避不可能な言葉を投げかけてきた。
「土日に、図書館とか、行きませんか?」
休日にクラスメイトの女子と図書館デート!?
そんなの、絶対断れないじゃないか!
「喜んで!」
こうして僕たちは、金曜日の放課後をこの部室で、土日を図書館で一緒に過ごすことになった。




