126 オタケ君の能力
「へぇ~、こんな教室があったんだ」
部室に入り、戸塚さんが部屋の中を見回す。
「ホント、ボロいね」
「でも、この国の最新鋭の設備が整った建物なんだよ」
「試しに、ウチの設備でこの施設への侵入を試みたが、出来なかった」
なにやってんの、オタケ君!?
ハッキングは犯罪だよ!?
……いや、詳しくは知らないけども、たぶんそうなんじゃないかな~って。
「でも、本気出したら侵入できるでしょ?」
と、自分の乳首を指さして聞いてみる。
「その手はやめてください」
隣から、高名瀬さんに腕を掴まれ、強制的に下ろされた。
自分のでもダメ?
「まぁ、やろうと思えば侵入できるだろうが、やらないぞ?」
「基本的に、あんまり使いたくないんだね」
「まぁ、こいつは拳銃よりも危険な武器だからな。そうそうひけらかすものじゃない」
「よかった。その力を持ってるのがオタケ君みたいないい人で」
ろくでもないヤツだったら、絶対悪事の限りを働いていたに違いない。
「オフクロが厳しいからな。人の道を踏み外すな。友は心の中でも裏切るな、ってな」
「いいお母さんだね」
「……過去に、親友に婚約者を奪われて、人間不信になったことがあったらしくてな」
うわぁ……
「今が幸せそうで、よかった」
「まぁ、親父からの愛情は重いからな。疑う余地もないだろう」
「そのおかげで……っていうと、ちょっとアレだけど、結果的にいい人に巡り会えて、オタケ君が生まれたんだから、過去のことはポジティブに考えられるといいね」
「まったくだ。もう二度と、警察の厄介になるようなことがなければ、息子としても安心だ」
「何したの、お母様!?」
婚約者を奪った元親友、今もちゃんとご存命だよね!?
やっちゃいけないことをした代償って、高く付くんだねぇ。
「結果として、オフクロの舎弟たちもウチの会社で真面目に社会人をやっているし、これでよかったんだと思う」
「あれ、お母様って大きなグループの頭張ってた人?」
レディー達のヘッドっすか?
じゃあ、オタケ君の見た目の凄みとかってお母様譲りなのかもね。
よし、絶対に御岳家には遊びに行かないでおこう。うん。
「オタケ君の気持ちは分かるんですが、能力を使用した際の体調の変化がどの程度なのかは、把握しておきたいです」
と、高名瀬さんが真面目な顔で言う。
「――決して、オタケ君の乳首を使って遊びたいというような感情は微塵も介在していないであろう表情で」
「当たり前です!」
「オモチャじゃないんだぞ、鎧戸」
でも、高名瀬さんの言うことも一理ある。
「いざという時に、こっちで対処しきれないかもしれないし、一度能力を使っているところを見せてほしいな」
今じゃなくてもいいけど。
「じゃあ、少しやってみるか」
と、シャツを脱ぐオタケ君。
あ、今からやるのね。
学校指定の白シャツの下の真っ赤なTシャツを脱ぐと、もう見慣れたグレーのスポブラが。
今日もGUNZIだね。
「すまん、女子たちは少しむこうを向いてくれ」
オタケ君に言われて、高名瀬さんは慌てて背を向け、戸塚さんは…………戸塚さん、回れ右して。チラチラ見ないで! 戸塚さん!?
戸塚さんって、結構むっつりさんだな。
「……んっ」
切ない吐息を漏らして、オタケ君がメタリック乳首を取り外す。
「それじゃあ、鎧戸、スマホを借りてもいいか?」
スポブラを脱ぎ去ったオタケ君は、引き締まった腹筋と胸筋が堂々とした存在感を放つ、非常に引き締まった肉体をしている。
乳首がなければ見せるのは恥ずかしくないんだ。
スマホの3.5mmジャックに乳首を差し込み、オタケ君が僕のスマホに介入する。
「おぉっ! 触れてないのにロックが解除された」
すごいな、乳首デバイス。
本当にイヤホンジャックから内部に介入してるよ。
「……うっ」
離れた位置で僕のスマホを操作していたオタケ君は、インターネットに接続して動画を再生した辺りで短い声を漏らした。
そこまで大変そうではないが、軽く頭痛がし始めているようだ。
「じゃあ、このスマホの電波を使って、この旧校舎のセキュリティに侵入できる?」
「試してみるか……」
眉間にシワを寄せたオタケ君。
次の瞬間――
「いだだだだっ! 無理だ!」
と、スマホから乳首デバイスを抜き取った。
「侵入は出来たが負荷が大き過ぎる。スマホを中継ポイントにしたことで余計な負荷がかかっているようだ」
そう説明するオタケ君の顔は真っ青で、その反面全身から汗が吹き出していた。
これは、相当体に負荷がかかるんだなぁ。
「オタケ君に世界征服は無理そうだね」
「……当たり前だ、ばかやろう」
はぁ~っと、椅子に腰をおろし、肩を下げて盛大にため息を吐く。
世界征服が無理だと分かり、そしてそれを僕たちが認識したことで、オタケ君の肩に伸し掛かっている重圧が少しは軽減したんじゃないかな。
オタケ君は、世界を壊せる破壊神じゃなく、ちょっと特殊な力を持っている、普通の高校生だよ。
ってね。
ちなみに、むこうを向いていた高名瀬さんは、スマホの操作を始めた辺りでこちらへ向き直り、戸塚さんは……結局一度も完全には背を向けずに、ずっとチラチラオタケ君を見ていた。
……むっつりめ。




