125 姉のお弁当
何が原因でこうなっているのかというと……姉だ。
姉が今日、僕とオタケ君の弁当を持たせてくれた。
そのことを僕は、オタケ君に話せずにいたんだ。タイミングが合わなくて。
通学路ではさっさと別れちゃったし、学校に着いたらずっと質問攻めでそんな暇がなかった。
で、ずるずるとお昼休みまで来てしまい、オタケ君が購買に行っちゃう前に伝えなきゃ、と思って急いで「約束のお弁当持ってきたよ」と言ったら……こうなった。
まぁ、確かに、僕の言い方もちょっと悪かったけれども……それにしても騒ぎ過ぎだよ、ギャルたち。
「手料理も何も、ただのレトルトカレーだよ」
そう。
姉が用意したのはレトルトカレー。
手料理なんてとんでもない。
あいつがしたのは、弁当箱にご飯を詰めただけだ。
温めてないレトルトカレーって、美味しいのかな?
「とっておきのランチを振る舞ってやろう!」とか言ってたくせに……手抜きしやがって。姉め。
「はい、これ。白米」
いっちょまえにナプキンに包まれた弁当箱をオタケ君に手渡す。
ナプキンの結び目を解いて、弁当箱を開けると――真っ白。
ほかほかすらしていない。
「おぉ……み、見ろ、鎧戸! お米が立っているぞ!」
だとしたら、上手に炊き上げた僕のおかげだね。
僕の方なんて、姉が詰め込んだせいでお米に姉のズボラが乗り移ったかのように「ぐで~」っと寝そべってるよ。
立てよ、米。
で、レトルトカレーを手渡す。
「はい、おかず」
一応、オタケ君のプライバシーと名誉を守るため『姉の手作り』ということは伏せておく。
僕の姉の手作りで大はしゃぎするってことは、つまりそういうことでしょ、ってさすがに分かっちゃうからね。
「ねぇ、あれって……」
向こうでギャルたちがヒソヒソ話している。
がっかりでしょ?
特に面白いことなんか何もないから、そんなにこっちに注目しないで。
ほら、自分のお弁当食べてて。
「見たことのないカレーだな」
オタケ君の言葉に、僕もパッケージを見る。
うん、見た覚えがない。
きっと、どっかのマイナーレトルトを買ってきたのだろう。
「マズかったら殴りに行こうね」
今日、学校にいるはずだから。
「マズいわけがない。仮に世界中の人間がマズいと言おうが、俺にとっては世界で最高のカレーだ」
「「きゃー!」」
「きゃー」じゃないんだ、ギャルたち。
はい、ヒソヒソしない!
さっさと食べてさっさと席を離れよう。
そう思ってパッケージからレトルトパウチを取り出すと――ドギツイピンクの半分ハートが出て来た。
オタケ君の方からも半分のハート。
二つ並べたら、大きなハートになりそうだ。
「……なに、これ?」
「やっぱり! あれって『ラブレト』じゃん!?」
らぶれと?
説明を求めて、高名瀬さんを見る。
いや、なんとなく、知ってそうだなって。
「えっと……『ラブレト』とは――」
高名瀬さんが説明してくれたところによると、このレトルトカレーは、「恋人と過ごす貴重な時間は一秒たりとも無駄に出来ない。彼女の手料理も外食もいらない。二人にはレトルトカレーがお似合いさ」とかいうキャッチコピーで売り出された、『ラブラブレトルトカレー』、通称『ラブレト』。
二つ並べると、特大のハートが生まれるよ☆
とかなんとかCMで盛大に宣伝していたらしい。
だが、「ハート真っ二つじゃねぇか」と至極真っ当なツッコミを受け、さらに「手料理も外食も、恋人との素敵な思い出になるんだよ!」「なんで毎回レトルトカレー食うんだよ!?」「彼女がこれ出してきたら冷める」「彼がこれ食べたいとか言ったら、『私の手料理はレトルト以下か!?』って別れる」「っていうか『彼女の手料理』って、女が料理するって決め付け、どうなのかなぁ!?」と非難囂々だったそうな。
想像以上の大炎上で、企業は早々にこの商品の販売中止を選択。
以降、この会社はレトルトカレーには手を出さなくなったそうだ。
どっかで聞いたな、そんな感じの話。
念のため企業名を見たら……チョリッツと同じ会社だった。
もう、商品を恋愛にからめて売り出すのやめたら!?
「このラブレト、二年前に発売中止になって、それ以降『いやむしろ今食べたい』ってネットオークションで高額取引されてるんですよ」
お客さんって、天邪鬼だね!?
売ってる時に食べてあげればなくならなかったのに。
「……賞味期限、大丈夫ですか?」
近くに寄ってきた高名瀬さんに言われて確認してみたら、賞味期限、今日でやんの。
「在庫処分か!?」
「ま、まぁ、賞味期限内ですし、セーフですよ、セーフ」
そんな気休めをくれる高名瀬さん。
「わたしの手作りでよければ、おかずを分けてあげますから」
女神か!?
いや、女神だ!
「神に感謝を……」
「大袈裟です」
跪いて祈りを捧げたら、つむじをぺきょっと押された。
そうして、僕とオタケ君は戸塚さんたちのギャルグループの輪に入れてもらい、高名瀬さんのおかずを分けてもらったり、もう売ってない幻のカレーをいろんな人から「一口ちょうだい!」って強奪されたりしながら、ランチを食べたのだった。




