123 ギャルアラウンド高名瀬
教室に入ると、戸塚さんが女子に囲まれていた。
「莉奈、出てきて平気なの?」
「ウチら心配してたんだよ、マジで」
口々に戸塚さんを気遣う言葉をかける女子たち。
というか、カーストトップグループのギャルたち。
「大丈夫だよ。別にあたしが襲われたわけじゃないし」
「だからさぁ、ウチら言ってたんだよ。『あ、莉奈のヤツ、高名瀬にムカつき過ぎてついに……』って」
「どーゆーことよ、それ!?」
「いや、いつかやるだろうなぁ~とは思ってたけどさ、案外早かったな~って」
「やるわけなくない!?」
「でも、高名瀬も鎧戸も休んで、莉奈もいなかったから、『あぁ、二人まとめてやっちゃったかぁ……』って」
「あんたら、あたしをどんな人間だと思ってるわけ!?」
「「莉奈は、やる時はやる娘だって思ってる☆」」
「意味違ぇーし、その認識怖ぇーよ!」
そっかぁ、戸塚さんはやる時はやっちゃう娘なんだ……
「戸塚さんおはようございます。これまで仕出かした数々の無礼な言動、誠に申し訳ございませんでした」
「お前も面白がってそーゆーこと言うなし、鎧戸!」
頭を下げたらペンケースで叩かれた。
布製のペンケースだから痛くないと思った?
中のペンが「ごっ!」って当たって、めっちゃ痛かったよ、今。
「え、なに? 仲良さ気じゃね?」
「え、え? なんかあった?」
僕と戸塚さんが楽しげにしゃべると、周りのギャルたちが目を丸くして僕たちを見る。
「あぁ、ないない。鎧戸とは一切何もない」
いやいや、そこそこいろいろあったあった!
あれで何もなかったっていうなら、この先一生何も起こらないよ、たぶん?
あれ以上の何かって、そうそうないからね?
と、弁明したかったのだが、戸塚さんは僕を押しのけて、僕の背中に身を隠すように息を潜めていた高名瀬さんを引っ張り出した。
腕を掴んで、ギャルたちの前に、ぐいっと。
「えっ、え? りっちゃ……」
「この子とあたし、今日からまた親友に戻ったんで、その辺みんなもよろしくね!」
「「はぁ?」」
突然の宣言に、戸塚さんフレンズのギャルたちがみんなぽか~んとした顔をする。
まぁ、一番驚いているのは高名瀬さんだろうけど。
昨日の話では、学校ではこれまで通り、お互いはお互いの生活を優先し尊重するって話だったはずだから。
早速踏み込まれたね、高名瀬さん。
「いや、だって……めっちゃ嫌ってたじゃん、莉奈」
「そんな嫌ってないし」
「だって、『うぜぇ、あの乳だけ女』って言ってたじゃん」
「……りっちゃん?」
「言ってない、言ってない! ……乳デカ女とは、言ったかも、だけど」
「へぇ~…………乳無し女」
「ひっでぇ!? そーゆーこと言うか!?」
「フィフティーフィフティーです」
「絶対ちがう!」
つーんとそっぽを向く高名瀬さん。
やっぱり、陰口って気分のいいものじゃないからね。
でもまぁ、面と向かって乳無しはひどいよ、さすがに。
「高名瀬さん、いくら仲直りしたからって、本人が一番気にしている深刻な根深いコンプレックスをそんな風に言うのは可哀想だよ。覆せない事実ってあるんだし」
「ちょっとみんな、こいつ裸にひん剥いて窓の外に吊るしといて」
発注がエグいね、戸塚さん!?
完全に行き過ぎた不良グループの所業だよ!?
「どんなにささやかでも控えめでも、無くはないから、乳ペチャ女くらいにとどめておいてあげようよ。ね、戸塚さ――」
無言でビンタされた!?
これって、純粋な暴力じゃない!?
荒んだハイスクール、怖っ!?
「誰がささやかで控えめだと? こら?」
「戸塚さん、そんな小柄な体から覇王並みの殺気飛ばしてこないで……心が挫けそう」
十二分に気を遣って配慮したつもりが、どうやらお気に召さなかったらしい。
こうなったら、あんまり好きじゃないんだけど、目に見えたゴマすりでもして機嫌を直してもらおう。
「よく見たら、戸塚さんはメッチャ巨乳!」
「イヤミか!?」
「難しいな、女子高生!?」
「ポー! こいつ、ちゃんと躾けといてね!」
「無茶を言わないでください」
さらっと毒吐くぅ~。
ひどいなぁ、高名瀬さん。
「ポーって……」
「親友だから、そう呼ぶの。だから、あんたらも、この子が困ってたら助けてあげてね」
「いや、まぁ、……莉奈がそう言うんだったら、あーしらも別にそれでいいけどさ……」
なんとか、ギャルたちも了承してくれた。
「つーか、ポーってなに? ぽーっとしてるから?」
「ちがうちがう、名前」
「名前って、……くにこじゃなかった?」
ギャルたちは、どこかで高名瀬さんの名前を見たのだろう。
邦子って。
「ちがうって、この子の名前は、ポーズ」
「「ぽーず!?」」
きょとんとした顔で高名瀬さんを見つめ、そして一斉に笑い出すギャルたち。
「なにその名前!? ウケる!」
「いやでもまって、ちょーかわいくね?」
「それな! ぽーずって、……いいわぁ、あーしも子供にそーゆー名前つけよっかなぁ」
「ねぇねぇねぇ、高名瀬! 今度からポーズって呼んでいい? いいよね?」
「出来れば遠慮してください!」
「「出来ませぇーん!」」
「なんでですか!? もう!」
なんだか分からないけれど、とても賑やかに――高名瀬さんはクラスのギャルたちに受け入れられたようだ。




