122 らしく
朝、僕が駅に着くと高名瀬さんと戸塚さんが待っていた。
「おはよ」
「おはようございます」
「よっす」
わぁ、戸塚さん。男前な挨拶。
「鎧戸君、大ニュースです」
自転車から降りる僕に、高名瀬さんがずずいっと寄ってくる。
顔が、物凄くドヤってる。
「この通学路の途中にしか売っていないと思われたあんこオレですが……、実は購買前の自動販売機でも売っているそうなんです!」
お、おぉう……
「へぇ~」以外の感想が出てこない。
「実は、りっちゃんもあんこオレフリークで、学校の自動販売機をよく利用しているそうなんです」
電車の中でそんな話になり、学校にも売ってると教えてもらったのだそうな。
物凄く嬉しそうだ。
「代わりに、わたしが穴場スポットを教えてあげました。こちらの情報は得ていなかったようなので、互いに有益な情報を交換できたことになります」
ただ残念なことに、僕はあんこオレフリークではないので、その情報を活かせない。
有益な情報も、使う者によってその価値は大きく変わるよね。
「おっ、揃ってるな」
少し遅れて、オタケ君が駅舎から出てくる。
二人とは方向が逆なのかな?
時間がズレているようだ。
「お、おはよっ、レンゴク」
「おう、おはよう」
「……えへへ」
おやぁ?
戸塚さんが物凄く可愛い挨拶をしているぞぉ~う?
さっきの「よっす」とは雲泥だぁ~。
……露骨過ぎるよ、戸塚さん。
「なんの話をしてたんだ?」
「あんこオレです」
と、高名瀬さんが先ほどと同じくらいの熱量であんこオレの販売場所について語って聞かせる。
「あんな甘い物、よく飲めるな」
「飲むのではありません。感じるのです」
いや、飲もう、高名瀬さん。
飲み物だから、あれ。
「ウチのオフクロが大好きなんだよな、あんこオレ」
「そうなの!? ……気が合うかも」
戸塚さん、昨日あれだけオタケ君の「ウチの姉ラブ」な雰囲気見せつけられても、健気にポイント稼ぎに行ってるね。
健気だよ。
報われろ、オタケ君の未来のためにも。
「それじゃ、戸塚。行くか」
「うん」
「いや、折角集まったんだから、みんなで行けばよくない?」
わざわざバラけなくても……と思ったのだが、オタケ君は僕の肩を「ぱしっ」と叩いて、必要以上に爽やかな笑顔で言う。
「俺たちを邪魔者にさせんなよ」
わぁ、爽やか。
邪魔になんかしないのに。
「邪魔者になるなよ」
あ、僕たちが君たちの邪魔になるのね。
言いたいことは分かったからさ戸塚さん、そんな真顔でこっち見ないで。あっちに向ける顔とこっちに向ける顔の落差が凄過ぎて二重人格疑っちゃうから。
「それじゃ、また学校で。行くぞ、戸塚」
「うんっ!」
先に歩き出すオタケ君たち。
わぁ~、戸塚さん嬉しそう。
「行くぞ、戸塚」が物凄く嬉しかったんだろうなぁ。
「めっちゃ弾んでるねぇ、足元」
「そうですね」
くすくすと肩を揺らす高名瀬さん。
どうしたのかな? と思ったら……
「りっちゃん、すっごく緊張してたんですよ、電車の中で。何度も鏡を見て前髪整えて、『香水強くないかな』とか、『グロス付け過ぎてない?』とか、いっぱい聞かれました」
恋する乙女は大変だね。
些細な悩みが目白押しだ。
「嬉しそうでしたね、りっちゃん」
「トラブルに見舞われて大変だったけど、結果的によかったのかな」
「そうですね」
とんでもないトラブルに見舞われた高名瀬さんは、手放しで「よかった」とは言えないと思うけれど、それでも少しでもポジティブにあのトラブルにケリを付けてほしくて、あえてそんな風に言ってみた。
「わたしも、りっちゃんと仲直りできましたし、怖い思いはしましたけれどこうして無事ですし、よかったんだと思います。……もう二度と、あんな目に遭うのは遠慮したいですけどね」
困り顔で笑って、僕を見上げる高名瀬さん。
その瞳が一瞬揺らいで、まぁ~るくなって、すっと細められる。
「鎧戸君も無事で、本当によかったです」
きゅんっ!
「めっちゃきゅんとした」
「顔に出ていましたから、言わなくても結構です」
ぴしっと伸ばした指を揃えて僕の唇を塞ぎに来る高名瀬さん。
触れるギリギリ手前で止まる指。
ちょっと口を付き出したらチュー出来そうだ。
「鎧戸君は、思ったことを口にする前に、一度よく考えてください」
「めっ!」と可愛く僕を叱って、「行きましょう」とにっこり微笑む。
あぁ、なんか、いつも先導されている気がする。
僕も、オタケ君みたいに「行くぞ」とか言って引っ張っていく方がかっこいいのかな?
「ちょっと待って、高名瀬さん」
「はい?」
歩き出した高名瀬さんを呼び止め、「こほんっ」と一つ咳払いをして、僕は可能な限り低音を響かせて声を発する。
「行くぞ、高名瀬」
言って、颯爽と高名瀬さんを追い抜いて歩き出す。
男は背中で語るのさ。
ついてこい、高名瀬。
「…………くすっ」
背後から小さな笑いが聞こえ、たったったっと、小さな足音が近付いてくる。
隣に並んで、歩幅が合ったところで、高名瀬さんが歩きながら僕の顔を覗き込んできた。
「似合いませんね」
「やっぱり?」
僕が言うと、高名瀬さんはくすくすと笑い出した。
やっぱり、誰かの真似なんかするもんじゃないね。
僕は僕らしく。
僕たちは、僕たちらしく。




