120 医者か!? ……医者だ。
それから、お茶を飲んだりお菓子を食べたり、今後学校でどんな感じで生活するのかなんてことを話した。
高名瀬さんは今までと変わらず、あまり目立たないように生活していきたいと主張。
しかし、戸塚さんはせっかく仲直りしたのだからと、一緒に学校生活をエンジョイしたいようだ。
戸塚さんが所属するカーストトップの女子グループに高名瀬さんが…………
部室に逃げ込む姿が容易に想像できるな。
結局、高名瀬さんはこれまで通り、マイペースで学校生活を送り、遊ぶ時には戸塚さんも一緒に、ということで落ち着いた。
オタケ君は、僕にべったり構う気満々みたいだけど……
どんなに優しくしても、君に姉はあげないからね?
そう、君の将来のために。
ひいては、日本有数の大企業を蝕む姉の手からこの国を救うために!
なんて話をしている僕たちを、同じリビングにいながら少し退いた位置から見守っていた姉。
「うん。もう大丈夫そうだね」
と、呟いて高名瀬さんの頭を撫でる。
「もし明日の朝、登校するのが怖かったら連絡して。あたしが迎えに行ってあげるから」
下校中にあんな怖い目に遭ってしまった高名瀬さん。
確かに、トラウマになっているかもしれない。
一人で歩いている時に、ふと恐怖が蘇ってくるかもしれない。
それを見極めるために、高名瀬さんを観察していたのか。
まるで医者のようだな、姉。
「一応、主治医なんだけどな、あたし」
あぁ、そうだったそうだった。
戸塚さん以外、全員姉の患者だったね。
「えっと、たぶん大丈夫だと思います。今朝も、駅まで大丈夫かなって思いましたけど、案外平気だったので」
今朝、高名瀬さんは一人でここまでやって来た。
僕が眠っていたから、迎えにも行けなかった。
しまったな。
そんなとこまで気が回っていなかった。
「それに……」
と、高名瀬さんが僕を見る。
柔らかい笑みで。
……いや、ほんのりと、照れて?
「駅からは、鎧戸君が一緒に行ってくれますから」
行きましょう!
もう、今後毎日ずっとエニタイムエニウェア!
お供いたしましょうとも!
「まぁ、わたしがいると、鎧戸君は女子生徒の透けブラ観察が出来なくて不服かもしれませんけれど」
「だから、してないってばぁ、高名瀬さぁ~ん」
根強いね、その疑惑。
必死に弁解する僕が可笑しかったのか、高名瀬さんはくすくすと笑う。
隣にいる戸塚さんは、汚物を見るような目をこちらに向けているわけだけれども。
「ポー。あたしが一緒に登校してあげる」
「え……」
「ほら、家もまだ割と近いし」
中学の時に引っ越したらしい高名瀬さんだけど、案外近所への転居だったのかな?
学区をまたいだ程度で、戸塚さんとはご近所の範囲にはいるっぽい。
まぁ、ご家族の仕事もあるから、そうそう遠くへは引っ越せないんだろう。
「朝待ち合わせして、一緒に行こうよ。昔みたいに、さ。ね?」
「うん……。そうだね」
昔を思い出しでもしたのか、高名瀬さんの表情に柔らかい笑みが浮かぶ。
遠い昔、すごく仲が良かったあの頃の思い出が蘇っているんだろうな。
そう思えるような、いい笑顔だった。
「それじゃあ、電車降りるまでは一緒に登校しましょう」
「なんでよ!? 学校まで一緒でいいじゃん!」
「……あはは」
「苦笑いすんな! そして、そこで高々とガッツポーズを掲げるな、鎧戸!」
勝った!
僕は戸塚さんに勝ったぞー!
「まぁ、落ち着け戸塚。この二人の間に入り込むのは不可能だ。モンバスの掲示板でも、連日連夜この二人の話題で盛り上がっているくらいなんだから」
えっ、そうなの!?
と、高名瀬さんを見ると、「知りません! ……危険なので、もう見てませんので」と赤い顔でそっぽを向かれた。
そうか。
モンバスでは、そんなに噂されてるんだ。
「ぽぉ~……あんた、友情より男を取るわけ?」
「そ、そういうわけでは……さ、先に約束しましたので! 駅から学校までは一緒に行きましょうと。こちらからお願いしたことですし、こちらの都合で一方的に反故には出来ないかと」
高名瀬さんが懸命に説明するも、戸塚さんのほっぺたは限界まで膨らんでいる。
「そんな顔をするな、戸塚。登校相手が欲しいなら、俺が高名瀬の代わりをしてやろう」
「え……っ!?」
「学校の最寄り駅からなら、俺も同じ通学路だ。時間を合わせれば一緒に行けるだろう。俺じゃ不満かもしれんが」
「そんなことない! 全然ない! むしろポーとかどうでもいい!」
「鎧戸君。これがつい先ほど、『友情より男を云々』などとほざいていた口です。よく見ておいてください。このタイプの口は信用してはいけません」
わぁ~、高名瀬さんの怒り方、怖ぁ~い。
めっちゃ理詰めで攻め立てそう☆
高名瀬さんとは、ケンカしないように気を付けよう。
「俺たちは、秘密を共有する、特別な友人――いや、仲間だ。戸塚に関しては、巻き込んじまったみたいで申し訳ないが、巻き込んだ以上は俺が責任を持ってお前をサポートする。友情とは助け合いだ。何かあれば、気軽に頼ってくれ」
「うんっ!」
おぉ……ここに来て初めて戸塚さんの存在がオタケ君に認められた。
なんか、こっちはこっちで、結果オーライ?
やっぱりさ、ヤキモチとか負の感情を迸らせてちゃダメなんだろうね。
仲直りした途端、恋も一歩発展したみたいだ。
まぁ、高名瀬さんは納得いってないような顔で、戸塚さんをつんつん突っついているけれど。
あはは、手をはたき落とされたね。
はいはい。ひどいよね~、戸塚さん。
そう思う、そう思う。
こんな感じで、僕たちの日常は、ちょっと時間を要したけれども、無事に帰ってきてくれた。




