118 オリジン
「それで、なんでわざわざ店長さんが?」
僕の問いに、姉はことさら得意げな表情を見せる。
そして、額に揃えて伸ばした四指を添え、唸るような絞り出すような声を漏らす。
「えぇ~……ポーちゃん。あなた、昨日、ミソサザイへ行こうとしてましたね?」
「なんの真似だ、姉?」
「名探偵だよ。あたしの推理を聞かせてあげようと思って」
いらんから、普通にしゃべれ。
「ちぇ~」じゃないから。
はしゃぐな、いい大人が。
「で、行こうとしてたんだよね、ミソサザイ?」
「えっと、……はい。そうです、けど?」
ほらみろ、高名瀬さんが戸惑っちゃってるじゃないか。
「といことは、何か欲しいものがあったんだろうな~って。しかもさ、学校が終わってすぐ一人で向かったなら、相当欲しかったものだったんだろうな~って、思ったわけ」
確かに名推理だ。
まさにそのとおりだよ、姉。
なかなかやるな、名探偵。
「で、何を買おうとしてたのかなぁ~って、気になったから、電話して聞いてみたの。ポーちゃんが欲しがりそうなソフトでも発売したんですか~って」
無駄にアグレッシブだな、姉。
「だって、大変な目に遭ってさ、欲しかったものまで買えなかったなんて気の毒じゃない。だから、もし出来るなら、あたしが買っといてあげようかと思ってね」
小粋なウィンクを飛ばす姉。
なんて気の利く姉なんだ。
まるで、まともな大人のように見える。
でもたしか……
「魔王のフィギュアって、転売とか予約とか出来ないことになってるんだよね?」
身分証明証が必須の、がっちがちのセキュリティで購買者を選別していたはずだ。
姉がお気楽に「代わりに買っといてあげよ~」って感じでは買えない……はず。
だが、今ここにミソサザイの店長さんがいる。
ということは……まさか!?
「残念ながら買えなかったんだよ~」
「買えなかったんかい!?」
期待して損したぞ、姉!
「仕方ないですよ。あのフィギュアは、発売前から規制を厳しくすると声明を出していましたから」
ちょっと泣きそうな、諦め顔の高名瀬さん。
そんな高名瀬さんの顔を見て、店長さんがにこりと微笑んだ。
「仮に店に来ていただいても、魔王ちゃんには売れなかったんだよ」
そう言って、そこそこ大きい、高さが30cm程もある黒い包みをそっと差し出す。
「……えっ」と、高名瀬さんが声を漏らして、瞳が震え出す。
え、まさか?
でも売れないって……え、もしかして、そーゆーこと?
「これはね、社長自らがモンバスの魔王様へって送ってきたものなんだよ」
「……うそ」
店長さんによれば、魔王デスゲート・プリズンが登場するゲームを作ったゲーム会社の社長が、先のモンバス世界大会での魔王(=高名瀬さん)の大活躍を見て、激しく心を打たれ「魔王の高クオリティフィギュアを作って、魔王様に献上するぞ!」と今回のプロジェクトを発足させ、そして納得のいくフィギュアが出来上がったところで、モンバスの運営会社に電話をし、個人情報的な法律に引っかからない範囲で高名瀬さんの情報をもらい、「彼女なら『ミソサザイ』というお店の常連客ですよ」という情報を得て、店長さんに直接会いに来て、これを手渡してきたらしい。
「だから、魔王ちゃんには売れないんだ。君専用のフィギュアが、ここにあるからね」
「え、あの……待ってください……うそ、そんなことって……」
「まぁ、とりあえず見てご覧なさい。魔王デスゲート・プリズンのフュギュア、そのシリアルナンバー『0001』。制作者が特別に『オリジン』という称号を与えた、世界にたった一つしかない渾身の一作を」
黒い布が解かれると、中から魔王デスゲートの姿が印刷された高級そうな箱が出てきた。
箱からしてもうすごい!?
え、これって定価いくらなの?
フィギュアって言ってたから、4~5000円くらいのものかと思ってたんだけど、これ絶対1万超えてるよね?
高名瀬さんが震える手で箱を開けると――
「はぁぁ……うっ!」
両手で口を押さえて吐息を漏らした。
完全に恋する女子の目だね!
……で、なんで後ろで同じ顔してるの、戸塚さん?
「うんうん。持ってきてよかった」
店長さんが満足そうに頷く中、高名瀬さんは魔法でもかけられたかのように硬直して、しばらく動きを止めていた。
魔王デスゲートが箱から取り出されたのは、それから実に三十分後のことだった。




